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詠と是途  作者: 水月
1/1

朝、喫茶店で昼を

このストーリーはもとより完結することを目的としません。

小さな区切りを続けていく予定です。

ビッグストーリーを希望の方は、私の他作品あるいは他者作品をご覧下さることを推奨します。

それでは『詠と是途』お楽しみください。

「赤かなぁ?それとも、あお?」

 昼下がりの喫茶店で、詠は前触れもなく言った。

「えっと……なにが?」

「なにがって、そんなの決まってるじゃない。是途くんは考えないの?」

「色については……あんまりね」

 詠は人差し指を唇にそっと重ね、こまっているような素振りを見せた。

「ん~? じゃあファッションとかどうしてるの? いつも地味めな服を着てるよね。オシャレとか考えないの?」

「うん、まあね。それに考えたって意味ないじゃないか。人は外見で決まるものじゃないからさ」

 詠はふっと笑った。是途のどうしようもなく渇いた、それでいて重すぎない友情が詠にそうさせたようだった。

 是途は話を引っ張ることもなく、注文したコーヒーを一口飲んだ。

「でも、でもね、前から思っていたんだけど……、そんなんじゃ彼女もできないとおもうの。少子高齢化が叫ばれているのよ? 直そうとは思わないの?」

「日本の将来を気にするのは僕の仕事じゃないよ。それに君だって彼氏がいないじゃないか。僕たちは似た者同士、ただそばにいるだけの存在だから、あまり踏み込まれたくないなあ~」

 是途はコーヒーをまた一口飲んだ。

 彼のコーヒーだけが減っていき、詠の頼んだ紅茶はまだ残っている。

「かわらないね、そういうとこ。私は変わっていくよ。是途とはちがうから……」

 詠は静かに、ゆったりと、包み込むように笑った。それは朝が訪れたときに花々が一瞬だけ見せる、あの柔らかい花の笑顔に似ていた。

「行くあてはあるのかい?」

 是途の問いは、ほとんど無意識のうちに溢れていた。

「いくあて? 私はどこにもいかないよ? ただ、かわっていくだけ。だってそうでしょう? 世の中に変わらない人間なんていない。私はあなたに変わらないなんて言ったけど、ほんとうは変わっている。ただ止まって見えるだけなの」

「僕は、そうじゃないよ。勇気がないのかもしれないけど、立ち止まっているんだ」

 是途はうつむいていた。コーヒーカップと空いたシュガースティックの袋を眺めている。

「うん。しってる。さあ、歩きだそう? きっと今に未来が見えてくるはずだから……。ね?」

 彼女は立ち上がって、是途をうながした。

 手を差し伸べたり、笑いかけたり、そういったことは何一つやらなかったけど、是途を待っていることだけは確かなようだった。

 僕はあのとき、立ち上がって付いていくべきだったのかもしれない。

 少年の心には後悔だけがのこり、テーブルの上には紅茶だけが残った。

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