訓練その3 午後
「行って来ま~す」
家の前で身体の肉を伸ばす運動が終わったから、お母さんに声をかける
すぅぅ…
息を吸って軽く止めると同時に前に倒れる
ドン!
転ぶ前に片足を出して、着地の瞬間に[前へ]ジャンプ
「あら?変ねぇ…あの子の声が聞こえた気がしたのに…」
片足ジャンプで上がっている、もう片方の足で着地…自然に動く腕を振ると、もっと速くなるけど抑える
武器を持ってたら腕は振れないからね
「おじさん、こんにちは!」
道行く人達に声をかける…挨拶は大事だからね
「ォウ!転ぶなョ!」
「な…何だぁ?あの影?」
「ん?多分、ベケスの坊主だろ」
「ああ…あの[道の真ん中で寝るガキ]か?…そう言えば最近は見て無かったナァ…」
「ありゃぁ寝てたんじゃなくて、気絶してたんだと…」
「気絶するまで走るか?」
「ハンターになる為には鍛えなきゃダメなんだ!って言ってたからナァ… …今は気絶出来なくなったから走り込みは辞めたんだと…」
「でも今、走って…」
「ああ…色町まで[お仕事]に行くんだろう」
「あんなガキが色町で仕事だぁ?うらやま…いや、けしからん」
「ば~か!鍛えてるって言っただろう? 女子供しか出来ない[力仕事]が在るじゃないか!」
なんか転ばないように注意されたけど…この走り方だと止まる時に、必ず転ぶんだよね…
蹴るのを止めると…スピードが落ちてくるから…脚の回転を併せ…
デン! ズザ~ ゴロゴロ
ヤバいヤバいヤバい…崖が有るのに止まらない…
ドン!ズドドドド…ズザ~
「ァイテテテテ…落ちちゃった」
「ぼ…坊主?大丈夫なのか?」
衛兵さんが心配してくれる
「うん!階段の所だったから助かったよ!直接だったら大怪我しちゃうもんね?」
「ぃゃ、普通は死亡だろ…」
「え?」
「いや…あんな高い階段を落ちて来て痛く無いのかナァ…と思ってな?」
「転んだんだから痛いよ?…でも慣れた!…昔に比べたら打たれ強くなったナァ…」
「いや、確かにケガも無いようだし打たれ強いのかも知れんが…慣れるものか?」
「あのね?この世で1番の苦痛って[赤ちゃんを産む]事なんだって!」
「まぁ、確かに男にゃ理解できない痛みだからナァ…」
「お父さん、そう言って骨が折れても仕事に出たから!俺も頑張らなきゃ…じゃあね!」
手を振り、階段を駆け上がる
早くしないと仕事が終わらなくなっちゃう
橋を渡って隣の街へ
お店が沢山ある街なんだ
そして着いたのが娼館
[しょうかん]って何だか知らないけど、色町って所は男が元気になる所だっていうからココも元気になる所なんだろう…
色町は酒場も食堂も宿屋も水をいっぱい使う
でも、この娼館は用心棒って男の人が夜しか来ないから…水汲みが大変なんだって。
何杯も運ぶから、鍛えられるし、お小遣いも沢山貰える。
俺がハンターになれたら男にしてくれるって約束してる。
…俺…男なんだけどナァ…水浴びで知っている筈なのに変なの!
お父さんに話したら大笑いして、顔を真っ赤にしたお母さんに怒られてた。
連れて行かれた寝室から、お父さんの悲鳴が聞こえて、寝る時間になったら、また悲鳴が聞こえた。
赤ちゃんを産んだ母親が1番強い!ってのは本当なんだね。