このままでいいの?
「風花のさ、そういうところ、前から本当に嫌いだったんだよね。」
「え…?」
「いつも適当にやってさ、他の人に頼りきりで。調子のいいことばっかり言って、なんにも出来ないところとかムカつく。」
「ごめん…。」
「なにそれ?謝れば全て済むてか思ってんの?」
「そういうわけじゃないけど…。」
「はっきり言いなよ?本当にムカつく。まっ、いいや。風花との付き合いもこれで終わりと思えばすっきりした。」
「終わり…?」
「そ、終わり。3ヶ月前に修学旅行のグループ一緒になっちゃたから、しょうがなく友達ごっこしてたけど。修学旅行は、あと新幹線乗って帰るだけだから、ちょうどいいでしょ?だから、もう話しかけないでね。友達じゃないから。じゃあね。」
…たった今、友達だと思ってた子から振られちゃった…。
彼女に言われたことは、自覚してた自分自身の嫌いなところで、全部正しいから否定出来ず…。
とりあえず、いつものグループの子と帰りの新幹線近くの席じゃなくて良かったかな…。
本当は、駅のトイレに駆け込みたいけど…もうすぐ乗車時間だからダメだよね。
新幹線乗るまで我慢しなきゃ。
「4B…。4B…。あっ…。」
うっわ…。
槙原くんだ。
一年生から同じクラスだけど、しゃべったことないから緊張する…。
「笹倉、4B?」
「う、うん。」
「じゃあ、三時間ぐらいよろしくな。」
「よ…よろしく。」
いい人みたい…。
そりゃそうだよね。毎年バレンタインで紙袋持ってこなきゃいけないぐらいの人気だし。
…って、ヤバいよ。
さっき私を振った友人も槙原くん好きだよね?
先生、なんで新幹線の座席はくじで決めたんですかー!!
「笹倉、どうした?気分悪いの?」
「ううん、だ、大丈夫だよ。あ、もう出発するね。」
「気分悪くなったらいつでも言えよ?」
「うん、ありがとう。槙原くん優しいね。だから、噂に聞いてるようにモテるんだね。」
「どんな噂か気になるし、別にモテモテじゃないって。俺なんか、好きな子に告白出来ないヘタレだし。」
「えっ、槙原くん好きな子いるの?」
「まあね。一年生の頃からずっと好きなんだけど…。あんまりしゃべったことないし、全然彼女に気づいてもらえないんだよ。」
「そうなんだ。でも、大丈夫だよ。槙原くんなら。ほぼ初めておしゃべりする私にもこんなに優しいんだから、きっとその子にも想いが届くと思う?」
「そうかな…。じゃあ、笹倉にせっかく応援してもらったし、今日伝えてみようかな。」
「うん。良かったら結果教えてね?」
「りょーかい。一番に言うから。」
「…って本当にいいの?友達歴10分の私が教えてもらっても?」
「友達に時間なんて関係ないだろ?」
「ふふっ。槙原くんっておもしろいね。私たち今日から友達なんだね。なんか嬉しいかも。」
帰りの電車楽しくなりそうで良かった。
そういえば、男の子としゃべったのひさしぶりかも。
最近はいつもそう…。
「まっきはらくーん。」
ほら…出た。
そう、私のことを振った元友人が男の子と率先してしゃべっていたから、私はあんまりしゃべらなかったんだよね。
「ねーねー、槙原くん。八つ橋食べない?あっちの席で、みんなでトランプしながらとかどうかな?」
誰かにいつも愛されたいタイプの彼女は常に完璧。
今だって、化粧も整え、座席の背もたれでぐしゃぐしゃになるはずの髪もキレイにお団子だし。
座っている槙原くんの目線に合うように少し前屈みになって、第1ボタンの開いているブラウスからかわいいネックレスがちらりと見えて。
極めつけは、上目遣いとほっそりした手を槙原くんの手に重ねること。
こんな風に並べたら、ぶりっ子でうざい子のように思われちゃうかもしれないけど…彼女はなりたい自分になるためにいつも努力してて。
周りが笑顔になると自分も嬉しくなるからと言って、周りにいつも気を配っているような本当にすごい子。
私はそんな彼女を尊敬していて、周りに引っ付いていだけど…。
あのような様になってしまった。
「槙原くんが来てくれたら、すごく嬉しいな。」
槙原くんは、ほぼ初対面の私なんかじゃなくて、きっとかわいい彼女に着いていくんだろうな…。
「誘ってくれてありがとう。でも、ちょっと疲れてるからごめんね。」
な…なぬっ。
「そうなの?じゃあ、休んだら後でおいでよ。せっかくの修学旅行だから、最後に槙原くんともっと仲良くなりたいなーなんて思ったの。」
「うん。気が向いたら行かせてもらうから。」
「わかった、待ってるから、絶対来てね。」
あの子の誘いを…断った…?
宣言通り、彼女は私のことガン無視だったけど。
「ま、槙原くんっ。行かなくていいの?せっかく誘ってもらったのに。」
「みんなで遊ぶより、せっかくだから笹倉ともっとしゃべってみたい気分なんだ。」
「もしかして、私に遠慮してる?私寝ちゃうから気にしないでいいから、行って来なよ。」
「そういうわけじゃないよ、別に。俺がそうしたいだけ。はいっ。この話はここまで。なんかおもしろい話しよう?」
「う、うん、わかった。それで、おもしろい話…?」
そう言われちゃうとハードル上がるよね…。
おもしろい話…おもしろい話…おもしろい話…。
うーん。
「急には、思いつかないかも。」
「それじゃあさ、俺の恋愛相談乗ってくれる?」
「私で良ければ、もちろんだよ。じゃあ…さっきから気になってたんだけど、なんでその子のこと好きになったの?」
「あぁ、それは。去年その子とコンビニでたまたま会ったんだけど、彼女、ずっと飲み物の所の前に立ってるかと思ったら、いきなり10本ぐらい色んな種類のお茶を取って、お菓子売場に行ったんだよ。なにすんのかなーって思って見てたらそれぞれのお茶と組み合わせて、チョコや和菓子を選んでたんだよね。」
ほぉ。
私も同じ趣味持ってるから気持ち、すごく分かる。
苦いお茶には甘めのお菓子とか…ね。
「でさ、何でそんなに買うのかなーって思ってコンビニ出た後から追跡してみたんだよ。」
「すっ…ストーカー。」
「違うって。その時は単なる興味本位。」
「ふーん。」
「違うからなっ。向かった先が公園で、クラスの女子が待ってたんだけど、みんな彼女からお茶とお菓子もらってただ一言ありがとうって言っただけで。なんかさぁ、彼女はコンビニでみんなに合うようなお茶とお菓子を選んで、重い荷物を持ってきたのに一言だけかよって、俺めちゃくちゃ腹が立ったんだよ。でもさ、彼女ありがとうって言われるだけどすごく嬉しそうで。なんとさ、彼女は自分の分買ってくるの忘れたみたいなのに、他の子が食べてるの見るのが本当に楽しそうで。俺の方が見ててなんか嬉しくなっちゃったんだよ。」
「ほぉ、その子…ちょっと抜けてるね。」
「そう、どっか抜けてるからか、つい目が離せなくて。いつも彼女の後ろ姿を追いかけちゃって。あっ、別にストーカーじゃないからなっ。」
「へー。」
「ったく信じてないだろ?」
「いやいや、槙原くんとトモダチだからシンジテマスヨ?」
「棒読み…。まっいいや。彼女さ、いつも一緒にいるグループでは少し浮いてたみたいなんだ。グループの子はみんな、派手というか自己主張が激しいタイプばかりで、周りに気を使うタイプの彼女が軽くパシりっぽくなっちゃって。しかも、彼女は男子に地味に人気で、そのことをグループの女子は気に入らなくて、やらせることも段々エスカレートしていってさ。」
女子のそういうところ怖いよね…。
「女子内の争いって、下手に男が関わるとこじれたりするだろ?だから、周りで気づいてた奴らも静観するしかなくて。」
「うん。」
「でも彼女の様子を見てると、パシられてるってこと気づいてるのか、気づいてないのかさ、イマイチわかんない感じで、いつもにこにこしているんだ。だから、こっそり助けていいのかもわからなくて…。」
「やっぱり、槙原くんってすごく優しいね。彼女のことすごく気にしてて、でも彼女の邪魔にならないようにして。」
うん、すごい幸せ者だよね、その彼女。
こんなに想ってもらってて、気づいてあげないとか槙原くんが本当にかわいそうじゃん…。
「よし、槙原くん。今から告白しに行くべきだよ。槙原くんがそんなにその子のことを想っているの伝えないなんて、もったいないもん。私がその子を呼び出してあげるから、槙原くんは人のいないところで待っててくれればいいから。」
思い立ったが吉日っていうでしょ?
私は早速彼女の元に向かうべく席を立たなきゃだね。
「ちょっと、待って。」
「どうしたの?」
「い、1分でいいから黙って目をつぶって座ってもらってもいいかな?」
「わかった。1分経ったら教えてね。」
なんで私が目をつぶらなきゃいけないんだろう?
はっ…。もしかして告白前の精神統一なのかな?
それは邪魔しちゃいけないよね、うん。
気になってたんだけど…槙原くんの好きな子って誰なのかな…?
1年生と2年生の時同じクラスの子でしょ?
私のいたグループの女の子と、あと五人ぐらい…?
おとなしめで、地味に男の子に人気のある子…。
私の元友人とかグループの子はちょっとハデめだったし…。
あっ…お嬢さまの鈴ちゃんかな…ほんわか美人さんの。
でも、鈴ちゃんがパシられていた覚えはないし…。
うーん、わからない。
誰だろう…?
そろそろ1分経ったかな…?
「槙原くん、目開けてもいいかな?」
「いや、もうちょっとだけ…。今からさ、する話を目つぶったまま聞いててもらっていい?」
「ん?とりあえず、わかった。」
ほ、ほぇっ。
なんか…右手が温いんだけど…。
これって…アレかなっ。
アレですよねっ。
槙原くんの手ですよねっ。
「ま、まきはらく…ん。て…手が…。」
「笹倉からパワーもらいたくてさ。ちょっとだけ右手貸して。」
「う、うん。」
…って…私の手からパワー出てるのかな…?
槙原くんって、やっぱりおもしろい人だな…。
「あのさ…。」
「うん。」
「好き…です。」
「えっと…?」
誰が…?
「やっぱり…ちゃんと言わなきゃダメだよな…。」
「うん、わかるように教えて欲しいな。」
「さ、さくら、去年から…ずっと好きでした。だから、俺と付き合ってください。」
「えっ。好きな人って…。」
「だから、笹倉風花だって。」
「え…。」
「あーもう。計画ではもっとかっこよく決めるはずだったのに、失敗した。」
「いや…十分…かっこいいよ?」
おおっ。
槙原くんの顔が真っ赤に…。
「くそ…。かわいいな、笹倉。」
「ふ、不意打ち…です…。」
今、槙原くんと同じぐらい、私の顔が真っ赤な自信ある…。
「でさ、いきなり俺が言ったから、笹倉がまだ頭の中で処理出来てないかもだけど…。返事…とか…考えてもらえたりする…?」
そ…そうだよね。
告白って、想いを告げて終わりじゃないよね…。
ちゃんと返さなきゃいけないんだよね…。
「あの…ね、槙原くんのこと、今日たくさん知ったの。でね、槙原くんとしゃべってて、すごい楽しかったし、槙原くん素敵だなって思ったの。」
「あ、ありがとう。」
また、槙原くん赤くなっちゃった…。
「でも、私って槙原くんが言ったような子じゃないよ?」
だって…。
「槙原くんはああ言ってくれたけど、私はただ調子よくて、あんまり空気読めないタイプで。すっごく好きだった友達には一緒にいたくないって振られちゃうぐらいひどい感じなんだよ?」
うぅ…自分で言っててなんだか泣きたくなってきちゃった…。
「だからね…。槙原くんが私のこと好きって言ってくれたこと、本当に嬉しくて、こんな私で良ければ…って言いたいぐらいなんだけど…。実際の私は、槙原くんの期待してる私じゃなくて…。」
あぁ、やばい。
涙が…出る…。
「いや、笹倉は笹倉だよ?」
「どういうこと…?」
「今日、電車に乗る前に、笹倉が友達と話しているの聞いちゃったんだ。」
あ…あれを…ですか…。
「彼女は、笹倉は他の人に頼りっぱなしとか言ってたけどさ…。」
実際そうだよね…。
「それってつまり、周りの雰囲気を読んでて協調性があるってことだろ?あと、調子いいってあたりは周りの雰囲気を盛り上げるためだし。むしろ、笹倉の長所なわけじゃん。」
「長所…なの?」
「そう、長所。すべて含めて、笹倉らしいところだよ。そういうところ含めて好きになったんだ。そりゃ、笹倉のこと全部知ってるわけじゃないけどさ、それはこれから知っていきたいんだ。」
私の…私らしいところ?
「私、このままでいいの…?」
「うん、俺はそのままの笹倉が好きになったから。」
「ど、うしよう…。涙でて、きちゃった。」
「え…と、ハンカチ、はい。」
「ありがと…槙原くん。でね、返事、なんだけど…。」
「う、うん。」
「さっきね、槙原くんいいなって気持ちが芽生えたばかりだけど、これからどんどん好きになれる気がするから。あの…私で良かったら…お願いします。」
「すっごく嬉しい。ありがとう、これからよろしくな、風花。」
「よ、呼び捨てですかっ。」
「俺も呼んで欲しいな、名前で。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。瞬くん。」
「そういえば、瞬くんの好きな子って抜けてるって言ってたよね。私って…抜けてる?」
「抜けてる…と思うけど?」
「初めて知った…。がびーん。」
「がびーん…って。」
瞬、大爆笑。
風花、石化。