4/1 It’s the lowest lie.(差分)
四月一日、まさに春休み真っ盛りで学校のことなど夢にもでない、いい日和。
春の陽気に誘われてふらりと散歩に出てみるのも風情があるかと思ったりもしない。
春眠暁を覚えずとグダグダと惰眠を貪るのが気持ちいいかもしれないと思うわけもない。
なぜなら、腕の中にいる可愛い彼女を見ているだけで十分に飽きが来ないからだ。
彼女と一緒に家の中でボーッとしていたらいつの間にか彼女が寝てしまった。
とろりと甘くたれた目尻、にへらと緩んだ小さな口、白磁のような白いつややかな肌。
頬には健康的な桜色がまぶされ、銀色の髪は一本一本が細く、しなやかで手触りがいい。
ぽふり、と頬に柔らかいしっぽが当たる。
彼女の頭から生えた犬耳もピクピクとしているし、いい夢でも見てるんだろう。
うん、やっぱり彼女は可愛い。特に、無防備な寝顔というのはそそるものがある。
しかし、こうしているのは無論、最上の幸せなのだが。
いかんせん刺激が足りない気がするんだよなぁ。
あ、今スッゴイいいこと思いついた。――気がする。
思い立ったらすぐ行動。ゆらゆらと揺れているしっぽをガシッとわしづかみにする。
「ぴひぃやっ!?」
すごい声が出たな。
彼女は何事かと飛び起きて、力が抜けたようにがくんとへたり込む。
紅い瞳をパチパチとまばたかせ、しっぽをわしづかみにしながら笑っている俺を見つめる。
しかし、すぐに俺のやったことに気づき尻尾を振り回……そうとする。
今でも俺がわしづかみにしているので動かせないのだ。
その上、少ししっぽをまさぐるように手を動かすと彼女は腰が抜けたようになる。
おかげでむやみにしっぽに触るなと言われているのだが……この手触りのいいしっぽを。
だんだんとしっぽを動かす気力がなくなってきたらしく、不機嫌そうな顔をする。
そして、プクーと頬を膨らませて後ろを向く彼女。うん、可愛い。
「すまんな、しっぽが顔にあたって癪にさわった」
「ふぇ、えぇ! ご、ごめんなさい!」
用意していたセリフを言うと思った通りにあたふたとしだす。
別にいいって、などと言いながら彼女のあたふたとした仕草を堪能する。
それがあまりにも可愛いものだからつい、膝の上に乗せて撫で撫でしてしまった。
ペタンと犬耳が垂れて、しっぽを控えめに振る。
ああ、これはだめだな。この嘘は早めに撤回しないと、彼女の元気よく振られるしっぽも可愛いのに、それが存分に見れなくなってしまう。
顔を赤くして俯いてしまったため表情は見えないが、やはり彼女は可愛い。
「ごめん、嘘。ほら、今日って四月一日だろ。エイプリルフール!」
「……えぇ! だ、騙したなー!」
種明かしをした途端にガバッと顔を上げ、怒って顔を赤くする。
腕の中で暴れて抜け出そうとするけど抜け出せない彼女。
しまいにはふんすっと言わんばかりの顔で座り込んでしまった。
そんな彼女は怖くない。というか、やっぱり可愛い。
「ふーんだ、そんな嘘を言うあなたなんか大嫌いだよー」
「なん、だと……。お前に嫌われたら俺は生きていけないぞー!」
なんかいきなり衝撃的なことを言われたので、彼女をしっかりと抱きしめたまま床をゴロゴロと転がりまわった。
「きゃ、きゅうん!」
予想もしていなかった反撃を食らった彼女は可愛い悲鳴を上げて目を回してしまった。
横になったまま彼女と向き合って、おでこをコツンと触れ合わせる。
「で、本当に俺のこと、嫌いになった?」
「うぅ! そんなわけないよ。大好きだもん」
その言葉を聞いた俺はたまらずキスをする。
触れ合うだけの、幼稚にも見えるキスで真っ赤になった彼女は、これ以上ないくらいに可愛い笑顔を見せてくれた。
ほんと、俺も大好きだよ。だから、いつまでもこの可愛い彼女と居られますように。