starlight nightmare
月夜に漂うは霧、心に潜むは不安。
どこぞの森に優亞は立っていた。
白光はどこからか、
星月夜だからか、雲が降りたような明るさが満ちている。
あてどない小暗がりのなかを、道標もなく歩き続ける。
終わりがどこか果てなく、そもそもなぜここにいるのか始まりもわからない。
かつて幼い頃、お伽話を聞いて憧れた世界は、
淡い光が舞う現ではない魅了をもつこんな景色だった。
だがそれはとうに昔のことであり、
またその景色も彼女が思い描いただけで実在するものではないはずだ。
そしてその頃を思い出しながら、
なおかつ感じるのはどうしようもない不安だった。
次第に足は速まり、静かだった風景が残像を残して流れていく。
なぜ走るのか、それすら優亞にはわからない。
背後を見れば誰かに追いかけられていそうで振り向けない。
立ち止まれば帰るべきところへ戻れなくなりそうで足は止められない。
けれど風景はどこも同じで変わり映えせず、
闇の向こう側にたどり着く場所があるようにも思えない。
彼女は諦めをいだき出していた。
こんなに苦しいなら、走るのをやめてしまおうか。
なぜ走るのか、いや、走らされているのかもわからずに、
終わるとも知れない苦しみに耐えるぐらいなら。
ふと誰かの面影が浮かんだ。
それはどこかで会ったことのあるような、
だけど誰か思い出せない朧げなものだった。
しかし同時に、胸の中心に温かい核のような気持ちが灯るのがわかった。
体は軽く、足はなお速く、心は浮き上がって、
どこまでも走り抜けられそうな気がした。
世界は明るく輝き始め、終わりがないとしても
自分のできるところまでがんばってみようと優亞は走り続けた。
しかし黒い木の根がぐっと持ち上がり、彼女の足を絡めとった。
抵抗するひまもなく彼女は倒れる。
見上げてみれば、黒い木から闇はまた立ち込め出し、空を覆い尽くした。
木々は温かみを完全になくして闇色に、
そしてその暗がりは彼女の背後から世界を包み出した。
最後に力なく前に手を伸ばすと、その手を誰かにつかまれた感触があった。
目を開くと、そこは暗闇だった。
焦って見回すと、見覚えのある自分の部屋に間違いなかった。
気づけば汗にまみれ、パジャマは湿っている。
ため息と一緒に不安も吐き出そうと思ったが、
それは叶わず悪夢を見たという苦々しい心持ちだけが残った。