間
コントローラを動かすカチャカチャという雑音のなか、
智と那々絵がそれぞれのしたいことをしている。
智は15インチのテレビでコンシューマのRPGを、
那々絵はパソコンでテレビを観ている。
両者とも目を合わせず、黙ったままでぴくりとも表情を動かさない。
「……」
智はなんとなく話しかけることができなかった。
いや、自分に正直になって白状すれば、
ゆうべの那々絵の表情が忘れられなかった。
――薄暗がりのなか、見上げる那々絵。
まるで俺がそこにいることなど想定していなかったかのように、
目が合ってしまって表情がつくりだせないように感じた。
画面内のキャラクターが壁にぶつかる音は耳に届かず、
智は那々絵を気にしていた。
那々絵は考えていた。ゆうべの出来事のことを。
それほど大したことではなく、
友人から呼び出されて、相談に乗ってくれという用件だった。
こういったとき、幼馴染というのは細事ながら障害となることがある。
気兼ねない用件なら、
がさつとも云えるほど簡単に相手を気遣わずに伝えられる。
逆に少しでも引っかかるものがあるなら、
わざわざ心遣いをすることがおかしくて、
またそれを考えている自分が馬鹿らしくて伝えることに躊躇する。
結局、ゆうべの相談とは本当に些細なことだった。
告白されたと言って、那々絵に助言を求めてきただけのことだった。
告白してきたのはクラスも学年も別の、そうそう接点のない男子生徒。
フッてしまっても大してデメリットとなりそうなことはないだろう。
テレビの軽い笑い声に、小さな嘲笑がもれる。
気づけば那々絵のバイトの時間が迫っていた。
彼女のほとんど語らない様子に釈然とせず、だがなにも聞くことはできず、
智は出て行く那々絵を見送ることもできないままにドアは閉じられた。