真顔、その意味
「ふー……」
窓から射し込む淡い光。
早朝の染み入る冷たさが、今のヒートアップした智には心地よかった。
ゆうべ、なにげなく買ったジャンクセールのPSソフト。
今時の美少女バトルゲームの先駆けとも云える、
前時代の香りがするチープなパッケージだった。
裏面の売り文句も古臭く、女性キャラだけで格闘ゲームを構成したことを押している。キャラも鼻で笑ってしまいそうな絵だった。
内容に期待など抱いていたわけではなく、
コイン1つでお釣りが返ってくるという気安さに手が出ただけだった。
――8時間ぶっ通し。
それが侮りの代償だった。
心地よい疲労で陽光をこらえる術もなく、彼は億劫そうに目を閉じた。
彼は眩しさを感じて避けただけだったのに、それがいつしか長い眠りと変わっていった。
意識が念頭に目覚めたとき、智には時間という概念が理解できなかった。
開け放たれた窓の外は淡く暮れ、室内のライトが明るすぎるほどに感じる。
(あれ、さっきゲームしてて今って朝のはずじゃ……)
いつのまにか伏していた体を起こして外界を眺めると、1階の道路に人影が映った。
その影がこっちを見上げた気がして注視すると、それは那々絵だった。
完全に2人の目は合っている。
しかし思い出したように那々絵は背を向けて消えてしまった。
智は呆けたように真顔で動きもせず、ただわずかな違和感が胸に広がるのを感じていた。




