逆
ポップな曲が流れている。
近ごろ流行っているバンドらしいが、歌詞がちゃらくて好きじゃない。
カップを手に取り、コーヒーを飲む。
目の前には優亞がいる。
うつむいたままで、さっきまでと雰囲気が違う。
「智さん……」
横道にまで追いかけてきた優亞を、俺は見返していた。
俺のことを嫌いだと言った彼女。
彼女が追ってきたことは、嫌いという言葉に追われていることと同等に思えた。
俺が視線をそらすと、お互いが黙ってしまった。
外の通りを走る車の騒音が聞こえてくる。
それからしばらく沈黙のまま時間が過ぎた。
「あの……どこかで話しませんか?」
そして俺たちは通りに戻って、近場のファミレスに入った。
俺はなにをしてるんだろう。
相変わらずなにも話さない優亞を見て思う。
彼女はなにがしたいんだろう。
わからないことだらけで、もうどうにでもなれとすら考えてしまう。
時間を確かめようとケータイを取り出す。
気づかれないようにしたつもりだったが、彼女はそれに気づいた様子だった。
言外に「早く話せ」と催促したみたいで、バツが悪い。
そもそも嫌われてるんだから、これ以上悪くはならないかもしれないが。
彼女はなにかごそごそし出したかと思うと、
やにわにケータイを出してテーブルに置いた。
「あ、あの、教えてください!」
目を伏せたまま言われ、いやに白い彼女の手のなかのケータイを見る。
「えっと…………なにを?」
はっとしたように顔を上げると、視線を俺の胸あたりに漂わせる。
「あ……番号を……あ、それとアドレスを……」
やっと言葉の意味を理解し、俺は自分のケータイを開いた。
一体なにに使うのかわからないまま、
これで辛辣な内容のメールや面倒な電話がかかってくると嫌だな、と思う。
けれど断る言葉もこれ以上嫌われる度胸もなく、ボタンを繰る。
「教えるのは構わないんだけど、なんで?」
念のための確認と、間を繋ぐためにしゃべる。
「え……あ、はい……」
彼女は話しにくそうにまたうつむく。
その反応にまた気分が沈み始める。ケータイの操作に集中する。
「……私……」
もうしゃべらなくていいよ、と思いながら動くカーソルを見続ける。
「……私、智さんのことが好きだから…………」
ボタンを押しながら、操作のままに変わっていく画面を眺める。
「えっ?」
手元が狂って待ち受けの画面にまで戻ってしまう。
目の前の彼女は、白すぎる頬を紅く染めていた。
達矢が髪を整えながら歩いている。
ガラスを鏡のように反射させながら、髪型を確認する。
少し離れた場所では、反射角のせいでガラスが透けて店内が見えている。
目を凝らすと、その先には智がいた。
後姿ではあるが、智に違いない。
そしてその向かいには、可憐な美少女が。
智もやるな、と少し悔しく思いながらも、
これはオレに運が回ってきたかな、と達矢はにやける。
鼻歌まじりに通り過ぎるとき、彼女の頬が紅いのを横目に見る。
初々しくていいじゃん、と達矢はまた微笑した。