変化の兆し
寒さの際立つ空の青い昼間際、
智はなにとはなしに道を歩いていた。
部屋を換気しようと窓を開けたとき、
空を見上げて、外に出たくなっただけだった。
このところ、いいことがない。
自分にも、周りにも。
なぜ俺がこんな目に、と思うこともあれば、
俺が不幸を振りまく貧乏神なんじゃないかと疑うこともある。
じくじく悩んでいたかと思えば、
こうしてなにも知らない顔で散歩していたりする。
自分でも自分がわからない。
道を往く人も、同じようなことを考えたりするんだろうか。
犬にリードで引かれている気弱そうなおじさんも、
勤勉に見える眼鏡をかけた女子中学生も、
なにもかもがつまらないといった顔の無職らしき男も。
横断歩道で立ち止まり、智は赤の信号を見上げる。
点灯していない青には、歩く姿の人形が描かれている。
ライトがつくだけで歩き出せれば、人生に苦労はしない。
車道をはさんだ向こう側に、見た顔があった。
軽そうだがその分だけ寒そうな優雅に見える服装。
名前は……たしか優亞だったか。
『優亞がね……あんたのこと嫌いだって』
イヤなことを思い出してしまった。
俺は道を変えようと、振り返ろうとした。
そのとき目が合ったような気がした。
来た道を戻りながら、俺は一体どこに行きたいんだろうと不思議に思う。
まるで途方に暮れたように歩くことしかできないんだろうか。
答えのないような思考がふいの声に途切れる。
「智さん!」
声のほうに振り返ると、例の優亞がこっちに向かってきている。
まさかな、と思いながらも
俺って智だよな、と自分に確認する。
振り向くと、やはり彼女は俺のほうに走ってくる。
急に恥ずかしくなって、横道に駆け込む。
声をかけられたことなんかじゃなく、
こんなことを考えてる顔を見られるのが恥ずかしかった。
息が上がってもしばらく走り続け、
苦しくなってから立ち止まると、壁を背に深く呼吸をする。
額に手を当てると、ますます自分が情けなく感じた。
視界の端に人影が映る。
「智さん……」
それは案の定、優亞だった。