私にできること
白がシンプルな雰囲気をかもす自室で、那々絵は本を読んでいた。
傍らには読み終えたマンガと、まだ手もつけていない小説が積まれていた。
彼女がいま読んでいるのは、吸血鬼を題とした長いマンガだった。
ちゃんとオチをつけられるのかな、と彼女はささやかに危惧していた。
ふと咳き込む。
空気が悪いのかもしれない。
窓を開けると冷ややかな夜気が流れ込み、那々絵が少し目を上げると智の部屋の窓が見えた。
智の両親が日本にいたころは、この窓の向かいは一軒屋で智の部屋の窓も目の前にあったのに。
淋しさとも切なさとも異なる他愛もない感情はすぐに流れる。
ふと優亞の家の玄関で見た光景がよぎる。
優亞と、そして親密そうな男。
本当に似合いの男女という印象で、あの2人なら幸せを築けそうな希望が見えた。
そしてなにか失ったような虚無感が沁みてくる。
昔から兄弟や姉妹がほしかった。
ひとりっ子としては当然の願望だと思う。
昔は智が弟のように、かわいく振舞っていた。
智が気づいているかどうかはわからないけど、私は満足だった。
けれど中学に上がるころには、智のほうから離れたがった。
今になれば幼馴染が恥ずかしかったというだけだったんだろう。
でもそのころの私には、避けられていることがとにかく悲しかった。
そしてそのとき、優亞と出会った。
友達の紹介だった。共学の私たちが女子校の人たちを珍しがったからだった。
いつも学校で親しくしていたグループのみんなで会ったけれど、
優亞と気が合ったのは私だけだった。
わりとはしゃぐタイプだった他の友達は面白くないと思ったのかもしれない。
優亞は年齢のわりに、幼く映った。
私は妹ができたようで嬉しかった。
優亞と私の関係が、そう簡単に崩れることはないと思う。
けれど私や彼女が変わってしまうことは容易なんだろう。
今までは相談にのったりしていたけれど、
それも変わってしまうのかもしれない。
あ、そうか。
そうだとすると、私が彼女にできることはもうあまりないのかもしれない。
姉として、友人として。
少し寒く感じてきたころ、那々絵は窓を静かに閉めた。
ベッドのなかにもぐりながら、ゆっくりと本を開いた。