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Scenes  作者: Drealist
23/28

ないないない

覗く穴は暗けれど、そのなかにはうつおばかり――



智は財布を開いていた。

心のなかでは様々な葛藤が繰り広げられている。

今日の飯のこと。

いつも買っている雑誌のこと。

友人に借りている金、授業料のこと。

そして自分がいつまで無難に生きていられるかということ。


金が、ない。


独り暮らしの大学生には、よくある話だ。

むしろこの問題に逼迫ひっぱくしていない独り暮らしの大学生など存在しない。

親の脛をかじっていない限り。


札がなくなるのはまだ仕方がない。

なぜ……小銭がない?


つい数分前のことを思い出す。




「777円になります」


(お、ラッキー。スリーセブンじゃん)


財布のなかを数えると、ぴったり777円ある。


(俺ツイてんじゃねえの?)


支払いを済ませ、店員のおざなりな声もよそにコンビニを出る。





現実に戻ると同時に、

"どうしよう"という言葉が何度も去来する。


とうにブームの去った赤と青のジャージ姿の芸人がギターを弾きながら

"どうしよう〜、どうしよう〜"と延々と歌い続けているのが頭に浮かんだ。


歌詞が違うという自分へのツッコミもままならないほど焦っていた。


誰かに借りようか……

両親は海外にいて、連絡すらとれない。

友人たちにはすでに借りていて、これ以上は望めない。

となると、那々絵ぐらいしか。


単純に友人としては、気兼ねすることのないとても関係。

しかしこと金や時間といったルーズさにかけると、非常に口うるさくなる。

彼女には頼めない。


バイトの給料日は遠い。

というかなぜもらったはずの給料がこんなにも早くなくなるのかわからない。

世界三大怪奇の1つに違いない。


いつかもらった豚の貯金箱を見る。誰がくれたのか思い出せない。

手に持つと軽く、淋しい音しかならない。

10円以下しか入れた覚えがないだけに、心は寒くなるばかりだった。


ついたままのTVでは、金融系のCMが流れている。

まだ人間を捨てるには早い。誘惑に負けてはならない。




那々絵が例のごとくドアを開けたとき、まだ智は悩んでいた。

彼女は不思議に思ったが、智は那々絵を一瞥するとまた思考に耽り出した。


彼のなかでは、最終的に「このまま」か「働く」かの2つが残された。


那々絵は智の背後を回り、持ってきたマンガを戻す。

後ろの彼女にまったく気を配らず、智は頭を抱えていた。


マンガを数冊、手にして出て行く那々絵の後姿を見て、

彼女ならこのマンガの山を売れとでも言うだろう、と思った。


マンガが無理ならゲームソフトを。

それがダメなら……


ふと、智は孤独を感じた。しかしそれも一瞬のことだった。

那々絵に理解されなくてもいい。自分が納得できるなら。

結局、辿り着く答えは平凡なものだった。


食費を削るしがない生活が、また引き伸ばされるだけなのだから。


そして智は、目前のゲームの電源を入れた。

意識はTVの画面に吸い込まれるように集中していった。

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