誰知らぬ逃避
マフラーの位置を細かに正しながら、
那々絵は優亞の家へ続く道を歩いていた。
気がつけば、いつのまにかすっかり冬になっていた。
秋と冬の境目がわからないのは、私だけだろうか。
息が白くなるほど寒くなったら?
冬だと報道されたら?
金木犀が香らなくなったら?
那々絵の思考は、そこで途切れた。
目の前の優亞の家の玄関では、入り口で優亞が男と話していた。
那々絵の初めて見る光景だった。
まず優亞が誰か男性としゃべっているということ、
その場所が彼女の家の前であること、
そして優亞がその男性をみずから家のなかへ招き入れたということ。
すべてが信じられなかった。
駅前の商店街へ向かいながら、ぼんやりと那々絵は考えていた。
あの男性が優亞の好きな"彼"なんだろう。
柔らかそうな髪の後姿。模範的な優等生のイメージが似合う。
那々絵にはあまり好ましく映らなかったが、優亞にはぴったりだ。
途中、遠くに智の姿が見えて彼女は道を変えた。
その隣には以前に会った茨木という友人を連れていた。
話したい気分でもなかったし、
茨木が少し面倒な存在に感じられていたし、
なにより智がなんだか憐れに思えた。
商店街のなかは、もうクリスマスの色だった。
赤と陽気な音楽に包まれ、華やかというより浮かれ気味だった。
これが冬になる答えでいいのかもしれない。
なにかを忘れるために、別のなにかを求める。
今の那々絵には、当然であるかのように思えた。
明日はもう12月か。
微笑を浮かべながら、陽気さの最中へ歩いていった。