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Scenes  作者: Drealist
20/28

元気とやる気

コンビニの雑誌コーナーで、

無駄な明るさのなか、立ち読みをしている。


店員が彼を盗み見ている。

智はもう20分近くページをめくったり、

なにか動くといった気配を見せていなかった。


ふと智が顔を上げる。

気づいてみれば、外は薄暗くなっている。

ケータイで確認すると、4時58分だった。


コンコン、と音がした。

どこから音がしたかと見回し、

前のガラスを見て、

その主が那々絵だとわかった。



「よっ、なにしてたの」


那々絵は努めて明るく話しかけた。

コンビニから出てきた智は、億劫そうに返す。


「ああ、コンビニでちょっとな……」


上の空といった体で、

那々絵はわかっていたものの心配せずにはいられなかった。


「元気ないなあ。智らしくないじゃない」

「……俺らしいねー」


力なく呟き、智はゆるゆると歩き出した。


「そうよ、あんたはバカみたいにはしゃいでなきゃ」


那々絵がその後を追う。

追いついて肩を並べると、智は疲れた様子ながら笑った。


「バカみたいは余計だ」


軽口をたたく智に、那々絵は安心した。


「そうだ、お母さんに言われてたんだけどね、

 智ってば最近ウチに来ないからお母さんが淋しがってたよ。

 たまには来なよ」

「そっか……」


那々絵の家族は女系で、男の智を幼い頃からかわいがっていた。


「なんだったら夕食いっしょにどう?

 一人分ぐらいなんとかなると思うよ」


黙ったまま、智は決めあぐねている様子だった。


「ほら、独り暮らしなんだから、

 あんまり栄養のあるもの食べてないんでしょ?

 遠慮なんかする間柄じゃないよ」


強引な誘いにわずかに困りながらも、

「ああ」と智は答えた。


「あ、でさ、

 智に借りてたゲームなんだけど、ちょっと行き詰まっちゃって。

 攻略法とか教えてくれない?」

「ああ、わかるとこならいいけど」


アパートの前の角を曲がると、智が気づいて立ち止まる。

不思議に思いながら那々絵がその視線を追うと、

智のアパートの階段の前で、達矢が待っていた。


「お、おう智」


智は「ちょっと」と那々絵に言うと、

達矢のほうへ駆けていく。


「どうした?」

「いや、またなんか貸してもらおうかなーと思って」

「ああ、別にいいけど……

 お前って今日、授業ないんじゃなかったか?」

「え。まあ、そうだけど」

「休みにわざわざここまで?」


ここから大学までは10分程度だが、

達矢の住む駅からは1時間近くかかるだろう。


那々絵が智の後ろから、覗き見るように顔を出す。


「あ、ちょっと時間かかるかもしんないから

 先に帰ってていいぞ。後で行く」

「うん、わかった」


那々絵が家に戻っていくのを2人で見送る。


「で、なんなんだ。そこまでして貸してほしいソフトって」

「え? ああ、別になんでもいいんだけどさ」


訝しげに達矢を見つつ、階段を上がる。


「適当に見繕っていいから。今日は俺、用事あるからさ」

「ああ、さっきの那々絵さんの?」

「那々絵さんって……まあ、そうだ。

 夕飯をいっしょに、ってことになってな」


智は本棚を漁り、攻略本を探している。

なんだったら攻略本を貸せば、那々絵に教える時間は潰せるだろう。

達矢はそれを後ろで黙って見つめていた。

少し考えていた様子だったが、しばらくして立ち上がる。


「やっぱオレ帰るわ。あんまり目ぼしいのないみたいだし」

「おう、そうか。

 てかなにげに俺のソフトラインナップをバカにするな」

「ハハ、まあ元気そうでよかったよ」


振り向き様に、智が「え?」と呟く。


「いや、お前ここんとこ落ち込みっぱなしだったからよ。

 悪友とはいえ、励ましてやろうかなとか思ってたんだがな」

「お前、そんなこと考えたのか……?」


驚いて智が言う。照れたように達矢が笑う。


「まあ、オレの優しさが身にしみて感動したろ」

「するか。あーあ、明日は外に出らんないかもな」

「なんでよ?」

「お前が俺を心配するなんて、天変地異の前触れだろ? 

 地震と雷と火事とオヤジが同時に起こるなんて……怖えぇぇ」

「あるか、んなこと!」


パシンと達也が智の頭をはたく。


「まあ、そんなことはいいとして、俺も腹減ったし帰るわ。

 ってかお前も手間かけさせんなよな、たかだか嫌われたくらいで」


智が達也を見つめる。


「……なんでお前、知ってんの?」

「なにが?」

「俺が嫌われた、ってこと……」


ほんの一瞬だが、達矢がしまったといった表情をしたのを見逃さなかった。


「あー……まあ、いろいろとあるんだよ。じゃ!」


達也は逃げるように出て行く。

階段を駆け下りる音が響く。


恥ずかしさで燃えるように体が熱くなっていた。

智が落ち込んだときに黙るのは、

その理由を悟られたくないから語らないということがあった。


なぜ達矢がそのことを知っているのか考えてみて、

智自身以外には那々絵しかそのことを知らないことに辿り着いた。


なんだか急にすべてやる気がなくなり、ベッドに身を投げた。


断りの電話をいれるのも億劫だった。

でもおばさんには迷惑はかけられないな、と

那々絵のケータイにメールを送った。


短く『やっぱ今日いいや』とだけ。

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