運命と偶然
那々絵と優亞が肩を並べて歩いている。
駅までの道は少し風が強かった。
「ほんとにいいの、優亞?」
「うん。この前、相談にのってくれたから。そのお礼」
にこりと笑う優亞に、
ありがとうと言いながら那々絵も笑む。
駅構内に入り切符を買う。
2枚一緒に買ったうちの1枚を優亞に手渡す。
改札を抜けるとき、本能的に那々絵は身構えた。
(このパターンは……!)
以前の記憶が蘇る――
智を買い物に連れて行こうとしたとき、
改札が不遇にも閉じてしまいやる気を削がれてしまったこと。
未然に防ぐためブースを睨む。
と同時になにも知らずに通り抜けようとする優亞を手で阻む。
優亞は小首を傾げている。
案の定、駅員は間抜けな顔をしてこちらには気づきもしない。
キセル乗車や無賃乗車をしても気づかないかもしれない。無用心だな。
細心の注意を払い、改札機に切符を通す。
ガシャッと勢いづいた音が鳴り開く。
今回は大丈夫だったみたいだ。けれどいつもこうとは限らない。
念には念を入れていかなければ。
無事、優亞も改札を抜け安心していた。
だからプラットフォームからの階段を上がってくる智に気づかなかった。
「あれ、那々絵」
声に気づき顔を上げると、すぐ傍に智が立っていた。
「あ」
「なんだ、智じゃない」
那々絵の表情をほころばせる。
「ああ、また買い物か?」
「うん、そう。そっちは?」
「ん、ちょっとした用事でさ」
そう話しながら、智の視線が那々絵の隣に移る。
その後を追ってから気づいた。
「ああ、智は知らないんだっけ。こちらの可憐な女性は優亞。桃谷優亞」
優亞は控えめに会釈すると、那々絵の背後に隠れた。
「で、こっちの大した特徴もない男が朝妻智」
「どうも、朝妻です」
一応、智は儀礼的に笑顔をつくったが、優亞は隠れたままだった。
「んじゃ、俺はこれで帰るから。遅くなんなよ」
2人に背を向け、智が歩き出す。
「あんたは私の保護者か。っていうかそれだと立場が逆じゃない」
軽く笑いながら手を振り、そのまま智は小走りに改札を通っていった。
まったく、と呟きながら那々絵は優亞に向き直る。
「優亞?」
しかしその表情は暗く、優亞はなぜかつらそうに見えた。
「どうしたの、気分でも悪くなった?」
「ううん……」
首を横に振る優亞は、心配する那々絵を置いて階段を降り始めた。
不思議に思いながらも那々絵はその後についていく。
ちらっと今来たほうを見てみたが、もう智の姿はなかった。