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Scenes  作者: Drealist
15/28

期待のない立場

少し薄暗くオレンジの灯りが広がる店内で、

けたたましく会話が続けられている。


「オレはね、赤面症なの。

 だから普段は女の子といても赤くなってなにもできなくなるんだよ」


8人で座る大学生たちのなかで、男が語っている。

片側に座る男たちは、それぞれに向かい側に座る女たちに話しかけている。


「だからオレと2人きりになっても危険なんてないんだよ」


口元に笑みをつけ、サングラスをかけた男が呟く。

それに対し正面のロングの髪の女は乾いた笑みを浮かべている。

女を直視する男の隣で、智は頬杖をついていた。

黙っている智を、女が横目で見る。


「あれ、智くんお酒ぜんぜん減ってないじゃない。弱いの?」


智は別の席を見ていた目を、彼女に傾ける。


「ん……いや、べつに弱くはないよ」

「それよりさ!」


智の隣の男が、彼女の気を取り直そうと声を荒げる。


「へー。私、お酒強い人って好きなんだ」

「あ、オレ酒強いよ!」


大きく声を上げる友人に苦笑いしながら、智は手を組んで前に向き直る。


「そうなんだ。俺は酒の弱いコが好きだな」

「ほんと? じゃ、私はどうなのかな?」


智は彼女の目を見ずに、少し考えてから答えた。


「……いいと思うよ、かわいいし明るいし」


女はゆっくりと髪をかきあげる。


「……ありがとう」


女が視線を向けると、グラサンの男は彼女の隣の女と話していた。




飲み会が終わり、それぞれが散っていく。

2次会を続けるという4人に、女が帰ると告げて駅へと向かっていく。

智はロングの髪の女と並びながら、

グラサンの友人が肩を落として情けなく帰っていくのを見届けた。


「さっきはありがとうね」

「いや、べつに……」


すでに4人は二次会の店を探しに行き、智は女と取り残されていた。


「俺はただ困ってそうだと思ったから。ただそれだけだよ」

「よかった、智くんが気の回る優しい人で」


その言葉にちらりと彼女の顔を見るが、

見たか否かという程度で目をそらす。


「あ、俺の名前覚えててくれたんだ」

「まあ、一応はみんな自己紹介したしね」

「……こういうふうに飲んだりすることはよくあるの?」


彼女の名前を覚えていないことを知られまいと、

智から言葉をつむいだ。


「うーん……そうでもないかな。

 今日は大学でたまたまいた人たちで飲みに行こう、って

 そんな雰囲気になったけど……

 空気に流されやすいっていうのかな、今日はほんとたまたま……」


周囲は酔った大学生たちが騒いだりわめいたり嗚咽をもらしたりしながら、

この後、帰るのか飲み続けるのか会話を交わしていた。


2人の周りにだけ、沈黙が流れていた。

女はどこか、言葉を待っているようにも見えた。

智は駅をただ黙視している。


夜は更け切っていて、けれど駅前は人工的な明るさで満ちていた。

凪ぐ程度の風にも冷たさは潜んでいて、智は諦めのようなものを感じた。


「……家は、どこなの?」


やはり彼女の名前は思い出せず、ぶっきらぼうな物言いになる。


「え、家……? この近くだけど……」

「そっか。俺、ちょっと電車つかわないといけないからさ。

 終電なくなるのも困るし、帰るよ」


彼女が言葉を挟む隙もなく、智は歩き出す。

片手をポケットにもう一方の手を振り走っていくのを、

彼女はただ唖然と眺めていた。


私って魅力がないのかな……、

と 目を地面に落として彼女はため息をついた。



明々としたライトにまぶたを細めながら、智は券売機に足を向けていた。

自分の立場ぐらいはわかっている。しょせんは人数合わせだ。

彼女もつまらなさそうだったし、期待することはなにもなかったはずだ。


じゃ、なぜ断らなかったんだ、と自問する。

嘲笑を浮かべながら、券売機を通り過ぎたことに気づく。

誰にも見られていないのを確認しながら、肩をすかして後戻りした。

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