邂逅はときに我を失わせる
まだほんの少し温もりを残す陽射しのなか、
木枯らしの吹く道を、智と達矢が歩いている。
「ったく、大学生にもなって借りパクってガキかよ」
「これから返すんだからパクってはないだろ」
呆れ顔の達也に、智が答える。
「しかもこれが10年以上も前のハードのソフトだから困る」
「そうそう、この前とうとうサポートも終わっちゃったし。
ってかむしろ続いてたことのほうが驚きだっての」
アパートの前に着き、階段を上ろうとしたとき
隣の一軒屋のドアが開いた。
「あれ、智? あ……」
そこから出てきた那々絵は智の姿に気づき、
直後に達矢に目を移した。
「おう、どうしたんだ。なんか用事?」
「え、ああ……うん。ちょっと友達に呼び出されてね」
那々絵は智との会話の合間に、また達也をちらりと見る。
軽く会釈をする達矢。
「おい、早くあがれよ」
階段の上から呼ぶ声に気づき、達矢は慌てて駆け上った。
下を振り返れば、那々絵の姿はもう遠く離れようとしていた。
室内に入り後ろ手にドアを閉めながら、
「彼女って……」と達也が訊く。
「ああ、初めてなんだっけ。那々絵。幼馴染って言ってたろ?」
「ああ……そうだっけ……」
那々絵の顔を思い出しながら、達矢はおざなりに呟く。
「ちょっと待っててくれ、すぐに見つけるからさ」
手当たり次第に部屋のものをひっくり返しながら
苛立ったように見つからないゲームソフトを探す智に目もくれず、
達矢は茫然自失としていた。
「あ、あった」
ハードにささったカセットを見つけ、ほっとして智は振り返る。
「達矢、見つかっ……あー……」
難しい顔のまま玄関で自分の世界に入り込んでいる達矢を見つけ、
智はやっちゃったな、と思った。
こうなったら簡単には反応しないぞ、これだからAB型は、
などと考えながら、ぽりぽりと頭を掻く。
むりやり部屋にあがらせることも追い出すこともできながら
それをしないのは智の優しさかもしれなかった。
陽に焼けて黄ばんだソフトを見て、物憂げにため息をついたが
それすら達也には届いてはなさそうだった。