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賢者サマのおふね◇アリシアのこと  作者: 神代きい


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11/31

これぞクレリオ◇これぞクレリオ

「チビケンちゃん、おかわりはいかが?」

 頃合いを見計らったマリーが、空の皿を回収しつつ訊ねてきた。

 キオウはメニュー表をチラリと見たが、ため息をついてキーシに渡す。

「ハーブティーをあと1杯だけ貰おうかな。甘いモンはもういらねー…」

「もういらねー…って、そもそもキオウは何も食べてないじゃん」

 不思議そうなレイヴを一瞥するキオウ。

「あれほどの量の甘いモンが目の前で展開された後だぞ? 思い返すだけで口ん中が甘くなる」

「お得な体質だねぇ賢者サマ」

「嫌みが通用しないお前もな。てか、そろそろ夕方だぞ? お前ソレで晩メシ食えるのかよ?」

「俺の胃袋は各収納可なので」

「牛かお前は」

 仲の良いふたりに「ふふっ」と笑うマリー。

「チビケンちゃん、アップルパイはいかが?」

「だから、甘いモンはいらん。つーか、リンゴはしばらく食いたくない」

「あら、そう…?

 キーシちゃんは? 何かいる?」

 ゆっくりとプリンを味わっていたキーシが首を傾げる。

「んー…、今日はこのプリンで満足。また次に来たときにいろいろ食べます。キオウさんのおごりで」

 がく…っ

 間髪入れない補足に脱力する賢者サマ。

「あ、そうだ。今の季節のタルトってなんですか?」

「今テーブルにあるイチゴのタルトね」

「ふっふっふっ…、親切なレイヴさんはキーシのために半分残してい――!」

「レイヴさんの食べかけなら、いらない」

「うぐッ…、ちゃんとナイフで切り分けていたんですけどーッ」

「俺がさっき食ったけどよ、この紅茶のシフォンが美味かった。甘過ぎねぇし、風味も良いし」

「ジークさん、ホント? じゃあ、今度来たときに食べよっと。キオウさんのおごりで」

「…。いや、まぁ、いいんだけどさ」

「いや、良くない! 何かが良くない!」

「レイヴ黙れ。店に迷惑だ」

 うっ、とたじろぐレイヴ。幸いなことに短気な客はいなかったようだが、あちらこちらから微かに苦笑の気配がする。

 あーあ笑われちゃった、とバッサリ放つキーシ。完全なる他人事であった。

「先生もいかが? 食後のデザートに、アップルパイ」

 カウンターに戻ったマリーが、のんびりと単行本を開く剣士に話し掛けた。だが、彼もまたひきつった笑顔で手を否定に振っている。

「いや…、僕もいいよ。リンゴは今朝食べたし」

「リンゴはお肌にいいのに」

「レオに肌のこだわりなんてねぇだろ…」

 苦笑混じりの何気ない呟きはキオウのものだ。

 怪訝なジークの視線に気付き、キオウは「ああ…」と自嘲している。

「俺はこの街――てか、この国に顔見知りが多いんだよ。ぶっちゃけると、今この店内にいる客ならほぼわかる」

「はぁ?」

「例えば…、そうだなぁ」

 キオウは気だるげにグルリと店内を見回した。

「あそこで本を読んでいるメガネは、魔法図書館の司書。あっちの2人連れは、横丁で雑貨店をやってる。今マスターに世間話を振ってるオッサンは、渡し船の船頭だ」

「…いや、おい。今そのオッサンから、ありえねぇ単語が聞こえやがったぞ?

『今朝の航路で人魚に会った』…とか言わなかったか!?」

「言ってたな。海老を食いながら、人魚の話を」

「もー、嫌だなぁ。そんなに興奮するなよ、ジーク。クレリオの海には人魚くらいフツーにいるってば」

「…ッ! 哀れみの目で見んじゃねーよレイヴッ!

 てか、いるのかよ!? フツーに、人魚がッ!?」

「あははははっ。ジークの反応、超素直で面白れぇ〜っ」

「ちょっと…ッ。ジークさんもレイヴさんも、マジでうるさーいっ。あたしが恥ずかしいんだけどッ。

 ねぇキオウさん…っ、この馬鹿達を黙らせてよぉ〜…っ」

「はぁ〜…。元気だなぁ、お前ら…」

 ズルズルとハーブティーを啜るキオウ。キオウの肩を揺すって助けを求めるキーシ。まーくんも賑やかで楽しいのか、テーブル上でゆらゆら揺れている。

 この騒ぎだというのに、マスターが文句を言う気配はない。客が苦情を言う気配もない。マリーもお盆を抱えてニコニコと笑っている。

 そんな「異常」な店内に気付き、ジークはハタと我に返る。

「…。

 なんだ、その…、だから、なんだ? 寛大過ぎじゃねぇか? 俺らって迷惑だろ?」

「ジークさん、複数形にしないで。あたしを入れないで」

「小娘は数に入れてねーよ…」

「そうそう、複数形にしないで。俺を入れないで」

「テメェはしっかり入ってんぞ、レイヴッ」

「あははっ」

 よせばいいのに、またもやジークをからかうレイヴ。ジークは再びヒートアップ寸前だ。

 ――その中で。

「………」

 はぁ〜…、と特大のため息を漏らしたのは、ボタンシャツ姿の賢者サマであった。

 おもむろにハーブティーを一口飲むと、恥ずかしさと甘えからすがり付いたままのキーシと一緒に、席を立つ。


 ――直後。


 ビシッ…!

「いッ!?」

「ふへッ!?」

 一瞬でこの空間を支配したのは、青柳(あおやぎ)の賢者が放つ本気の覇気。怒りでもあり、殺気でもあり、しかしそれらとは異なる圧力。

 それを向けられた2人を襲うのは、肺を潰すような、あるいは心臓を掴まれたような――、次元が違い過ぎる凄まじい畏怖。

「…店にいる連中がケチをつけねーのはな、俺が誰かを知っているからだ。お前らが俺の連れだとわかっているからだ。俺が落とし前をキッチリつけると知っているからだ。

 お前ら、ガキか? 公共の場で騒ぐな。はしゃぐな。ブレーキをかけろ。馬鹿騒ぎは船でやれ。

 さて…。お前らのその単純な脳ミソでも状況が理解出来たなら、店の連中にきちんと謝罪しろ。そして、もう騒ぐな。

 もしもまた騒いで俺がキレたら、そのときは――」

 思わず誰もが、ゴクリ、と喉を鳴らす。

「――…そのときは、ちょうどお前らみてーにギャーギャー騒ぎまくっている時期の雛がいるドラゴンの巣に叩き込む。雛か親のブレスであっという間に丸焦げだろうが、俺は知らん」

「「スミマセンでしたーッ!!」」

 テーブルを頭突きで叩き割る勢いで店内に謝罪した仲良しコンビであった。

 ふん、と鼻を鳴らして再び席につくキオウ。キオウにベッタリなキーシ。すっかりヘコんだジークとレイヴ。

 店内もすっかり微妙な空気に包まれた――かと思いきや。

 やれやれと失笑している剣士。「ついにキレたか」と小さく笑い、本のページをめくるメガネ司書。船頭のオッサンは笑いながら「強く生きろよ!」などとジークとレイヴの肩を力強く叩いて退店していく。雑貨店の2人連れにいたっては、キオウがキレるか否かを賭けていたらしく、何やら盛り上がっていた。

 やはり見方によっては「異常」な店内。昼間の騒動といい、クレリオの民はどこかズレた感覚を持っているらしい…。

「そろそろ帰るか」

 聞こえてきた夕刻の鐘の音に外を見れば、白の街並みに映えた見事な夕焼け。夕食の席に遅れると、インパスがプチギレしかねない。

 帰り支度を始めたキオウ達に、マリーがさりげない仕草で小さな手提げの紙袋を差し出す。

「はいこれ、お土産のプリン」

「ああ、悪いな」

「…。キオウが食べるの?」

 恨めしげな声の持ち主は、叱られたダメージから未だ立ち直れずテーブルに突っ伏したままのレイヴである。

 キオウは苦笑して「まさか」と手をパタパタ振る。

「ラティにだ。話を聞けば、絶対に羨ましがるだろうからな」

「あっ、キオウさん待ってて。あたしトイレ行ってくるからっ。絶ッ対に待っててっ!」

「大丈夫だ。ちゃんとここで待っているから、行ってこい」

「本当にちゃんと待っててよねっ。約束だからねッ!」

「…そんなに心配なら、トイレの入り口まで付いていこうか?」

「キオウさんのバカ! えっち! 変態ッ!」

 キーシは真っ赤な顔でキオウの腕をバシバシと叩き、足早にトイレに向かっていく。

 それをやれやれと失笑混じりに見送る一同。

「――さて、と。

 マリー、僕も帰るよ」

 キーシがトイレに消えたのを見計らったように、カウンターの剣士がゆっくりと席を立った。

 マリーは心得たように微笑み、カウンターの内側で預かっていた剣を持ち主に返す。

「…」

 そっか…、と。情けないことに、ジークは今さら気付く。剣を預けていた以上、剣士は帰るに帰れなかったのだろう。

 キオウもそれには気付いていたようだ。小さなため息と共に立ち上がると、素早くカウンターに数枚の銅貨を置く。

「レオが時間潰しに飲んだコーヒー代だ。悪かったな」

「構わないさ。どうせ暇だったし」

「暇だぁ…? レオを捜すザビィに遭遇したけどなぁ?」

「ふぅん、そうか。では、今日キオは僕と会っていない、これで問題なし」

「また逃げてるのかよ…」

 レオと呼ばれた剣士は、当然のように自分の支払いを済ませ、肩越しにヒラヒラと手を振りつつ店を出ていく。自分の支払いを「会っていない人間」に払わせるつもりはないらしい。

 失笑しつつそれを見送ったキオウは、結局使われなかった自分の銅貨を財布に戻した。







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