序章◆ぼんやりした記憶
海の声が聴こえる。
空の声が聴こえる。
音のある世界へ出たのは、一体何年ぶりなのだろう…?
世界はすっかりと変わっていた。カタチそのものすら変化をしていた。
交流がなかった人々が、今では自由に互いの土地へと行き来をしている。自分が在た当時ほど文明は発達していないが、それでも人々は精一杯に今を生きている。
世界に在るチカラも変わった。あの頃は充ちていた純粋なチカラが薄くて…、息が詰まりそうだ。
その代わりなのだろうか…? あの頃にはごく稀な存在にだけ操ることを許された奇跡のチカラを、人々は生活の一部に上手く取り入れて使っている。
こんな軽はずみな行為など、許されるはずがないのに――…。
故郷は消えていた。
あの美しかった都が、永久に光と共に在ると思われた夢の都市が、今はその姿を完全に失っていた。
それでも――…、守護のチカラは、未だに消えてはいなかった。
都の周囲は鬱蒼とした深い森に変わっている。都を囲む白亜の外壁は、苔や蔦や風雨によって浸食されている。
だが――。都への扉は固く閉ざされたまま、今もなお息づくチカラによって開かれることはない。
――…自由の身となった今でも、自分は帰郷を許されない、ということか…。
自分が消えてから、一体どれだけの年月が過ぎたのだろう?
この都は何時から無人と化したのだろう?
みんな、何処へ消えたのだろう…?
…もう一度、考えた。
此処はどこなのだろう?
今は何時なのだろう?
そして。
――…自分は何故、今、現れたのだろう…?