大事なもの
「ねぇ・・・ヒロト起きないの?もう学校の時間だよ?」
モーニングコールで幸高 宙人は爽やかな朝を迎える。
「・・・・・・ん?」
ただし、ものすごい勢いで寒気を覚えた。
なにせ、この部屋、この家には自分以外存在しないためである。
宙人の両親は海外出張のため長期で外出している。
ましてや朝にわざわざ起こしに来るチャーミングな幼馴染もいない。
ということは誰か?ということで寒気を感じまくっている次第だ。
「聞いてるのかいヒロト!!おきろーっ!!」
俺は声の主に背を向けないように上体を起こす。
「誰だぁ!怖くなんかないぞ!出てこい!」
恐らく幽霊か何かの類か?それとも幻覚?
どっちだろうとその方向に大声で叫べばなんとかなると思っている。
――――――――――誰もいない。
おかしい、たしかに聞こえていた方に向いたはずだ。
くまなく探してみるが・・・人影はない。
向いた方向にあるのは勉強机とぬいぐるみのウィリーである。
実は小さい頃から可愛いものに目がない幸高 宙人は高校生になっても可愛いもの離れできずに延々と愛でている。
その縫いぐるみのウィリーは8才のころ母に買ってもらった一番の宝物だ。
背丈は6Cm強のミニサイズ、小さくて可愛い白熊。
そのどこでも手軽に連れていけるサイズにも惹かれた。
「やっと、起きたねヒロト!支度しちゃいなよ!」
その縫いぐるみがしゃべっていた・・・・。
「えっと・・・ウィリーさんですか?」
と冗談混じりながらも白熊の縫いぐるみに質問を投げかけてみる。
「はい、ウィリーです」
しゃべるウィリーもまた可愛い。
違う違う、そうじゃない。状況を確認するんだ・・・・・。
なぜ、縫いぐるみが喋っている?
現在であればそう言ったグッズもあるが、ウィリーは7年前から可愛がっているフツーの縫いぐるみだ
それとも何かが取り憑いた?にしてもウィリーですか?という問いかけに「はい」と答えるだろうか?
わからない・・・・・。
「ヒロト、時間がないんだけど・・・・大丈夫?」
冷静になって時計を見る。
「あぁーっ!間に合わねぇ!!」
死ぬほど急いで支度を始める。その傍らでウィリーの声が聞こえるがとりあえず幻聴と判断し先を急ぐ。
かろうじて遅刻せずに学校へ到着した。しかしあの朝の出来事はなんだったのであろうか・・・。
「まあ、疲れてるって事で・・・」
そこへ幼馴染の當地 由樹 が話しかけてきた。
「宙人くん、おはよう・・・・今日遅かったね」
彼女は非常に内気だ。今の今まで仲良くやれたのも俺の可愛い物好きが幸いしてのことである。
見た目は地味だが可愛い方なのでは?と常日頃思っている。
「おはよう由樹、それがさぁ朝変な夢を見たんだよ!」
朝の縫いぐるみが喋った事を話そうとした時、教師が教室に入ってきた。
「おら~席に付け~!ホームルーム始めるぞ!」
「宙人くん、ごめんね・・・後で聞くから・・」
由樹はそそくさと自分の席へ戻った。
そんな申し訳なさそうに言わなくてもいいのに・・と思いながら黒板に目をやる。
教師がテストが近いからどうのこうの言っている。
俺はそこまで成績は悪い方ではないので静かに聞き入っていた。
―――――――「ヒロトっ!ヒーロートっ!」
なんか俺の鞄から聞き覚えのある声がする。
恐る恐る鞄に目をやってみると・・・・・・・そこにいた、「ウィリー」が。
机に掛かっている俺の鞄の口から両手を出してこっちを見ている。
ここまで来ると普通なら恐い。B級のホラー映画になりそうなぐらい恐い。
しかし幸高 宙人には可愛く見えてしょうがない。この光景を写真で取りたいくらいだ。
いやいや、違う違う。ここは学校だ、取り敢えず騒ぎになるとヤバイ。
いそいでウィリーを押し込んで鞄を閉めた。
しかし、逆に鞄の中で騒いでいる。まずい、周りの生徒が気づかないか?
「ねぇ、誰かケータイなってない?」
「マジで!?先生に見つかったらやべーぞ!」
予想通りだ、このままではいろんな意味でピンチだ。
と・・・ここで教室内でのピンチを切り抜ける最強の方法を思いついた。
「先生!具合が悪いので保健室行ってきます!!」
ワンパターンだ。でもこれぐらいしか思いつかない。
「幸高、珍しいなお前が体調不良とは・・・まあお前は嘘をつかんか。誰か付けようか?」
さすが毎日真面目に授業を受けてただけあるぜ、俺!
「先生、とりあえず一人で行けます」
そう言い残し保健室へ向かう振りをして速やかに空き教室へ入る。
宙人は空き教室に入るなり鞄を開けた。その瞬間、鞄から何かが飛び出す。
「ぷはーっ!ひどいじゃないか!閉じ込めるなんて!」
どこからどう見てもウィリーが喋っている、もう現実逃避は不可能だ。
ここはもう腰を据えて話し合うしかない。
「なあ、なんでお前さん、喋ったり動いたりできるんだ?」
宙人は当然の質問をしてみる。
「なんでだろ・・?わかんないや。今朝からなんだ、言葉を話せたり動けたりするの」
彼の言い方だと今まで意思があったかのように聞こえる。
「もしかして・・・今まで意思は持ってたのか?」
「うん、あれだけ大事にされればありがとうを伝えたいって思うようになるよ!」
バカだ俺は。昔から思っていたはずなのに。ウィリーが動いたら・・・・。喋ったら・・・。
すごく嬉しいな、なんてずっと思っていたのに。
そしてウィリーはありがとうを伝えたくて意思を持っていたのに。
動いたことに驚いて現実逃避してたなんて・・・・最低だ。
「ごめんなぁ・・・気づいてやれなくて・・・お前がしゃべったっていうのに返事もろくにしなかったよな・・・。」
「驚くのは当然だよ、でもなんとかありがとうだけは伝えたかったからさ!」
「今までそばに置いといてくれてありがとう!」
とても嬉しそうに言ってくれた。
返す言葉がない・・・・・・。
だから俺はそんなウィリーの数センチ程しかない頭を撫でてやった。
目に涙を浮かばせながら。
―――――――いきなり甲高い音が教室内を響かせる。
携帯の着信音だ。何故かタイミングを見計らったかのように・・・・。
見たことがない番号だ。こういったものには出ることは無いのだが・・・違和感を感じ出ることにした。
「もしもし?」
恐る恐る相手を伺う。
「こちらは幸高 宙人様のお電話でしょうか?」
丁寧な口調だが、何か引っ掛かる言い回しだ。
「あんた誰だ?」
「私はそうですね・・・ニューとでも名乗っておきましょう。幸高様、あなたは選ばれました」
そのニューと名乗る男は楽しそうに語る。
「キルト(最愛の縫いぐるみ)たちを戦わせる人々『マスター』にね」
読んでいただきありがとうございます!
つづけて連載していきますので、アドバイス等あったら気軽にお願いします。