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いない編集者  作者: 夜明けの語り手


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7/8

7話 宣告

会議室は、思ったより狭かった。


長机。

壁際のホワイトボード。

ペットボトルの水。


相馬は、

椅子に座ったまま、

天井を見ていた。


何度も通った場所。

何度も話をした場所。


——今日は、

——話すことが少ない。


「……では、始めます」


デスクの編集者が言う。


数字が、

スクリーンに映し出される。


初動。

離脱率。

SNS言及数。


炎上は、

確かに拡散した。


だが、

売上は、伸びなかった。


「正直に言います」


デスクは、

視線を相馬に向ける。


「次で、

区切りをつけましょう」


その言葉は、

淡々としていた。


打ち切り。

終了。

連載停止。


どれも、

同じ意味だ。


相馬は、

頷いた。


——想定内。


……のはずだった。


だが、

胸の奥で、

何かがゆっくりと沈んでいく。


「担当から、

補足ありますか」


その瞬間だった。


「少しだけ、

いいですか」


声がした。


相馬は、

顔を上げる。


会議室の端。

壁際に立っている男。


スーツ。

地味なネクタイ。

目立たない立ち位置。


——あ。


あの廊下の男。


最初に切った編集者。


名前は、

まだ知らない。


男は、

一歩だけ前に出た。


それだけで、

空気が変わる。


「この作品は、

失敗ではありません」


誰も、

すぐには反論しなかった。


湊は、

数字を指ささない。


炎上も、

語らない。


ただ、

相馬を見る。


「でも、

連載としては、

終わらせるべきです」


相馬の喉が、

わずかに鳴る。


「理由は?」


自分でも、

驚くほど

落ち着いた声だった。


湊は、

少しだけ考えた。


「ここから先、

この漫画は

“説明”を求められます」


沈黙。


「理解されろ、

優しくしろ、

意味を与えろ、と」


湊は、

一呼吸置く。


「それに応え始めた瞬間、

この漫画は

別のものになります」


相馬は、

何も言えなかった。


——それは、

——自分が、

一番恐れていたことだ。


「今なら」


湊は続ける。


「この作品は、

“嫌われたまま”

終われます」


その言葉が、

胸に刺さる。


嫌われたまま。

理解されないまま。


「……それって」


相馬は、

言葉を探す。


「逃げじゃないですか」


会議室の空気が、

張り詰める。


湊は、

すぐには答えなかった。


そして、

静かに言った。


「逃げです」


誰かが、

息を呑む。


「だから、

僕が引き受けます」


相馬は、

湊を見た。


初めて、

ちゃんと見た。


この人は、

前に出る人間じゃない。


それでも今、

前に立っている。


「あなたは」


相馬は、

言った。


「俺の漫画を、

二回切るんですか」


湊は、

否定しなかった。


「はい」


それだけだった。


会議は、

それで終わった。



夜。


相馬は、

一人で机に向かっていた。


最後の話数。


何を描くか、

まだ決めていない。


だが、

一つだけ、

確かなことがあった。


——説明しない。


——許されなくていい。


相馬は、

ペンを取る。


線を引く。


その線は、

以前よりも

静かだった。


だが、

消えなかった。



同じ頃。


湊は、

編集部の廊下に立っていた。


自分の名前が、

議事録に残る。


それでいい。


誰かの漫画が、

嫌われたまま終わるなら。


誰かの人生に、

「納得できない判断」を

残すなら。


編集者は、

そこに立つべきだ。


湊は、

歩き出す。


また、

表に出ない場所へ。

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