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空想と宇宙のはじまり

作者: ひろ
掲載日:2025/12/08

※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。

 『僕』には空想癖がある。


 空想が趣味というのではない。いつの間にか空想の世界に入ってしまう。

 他人にはよく「ぼーっとしている」と言われるが、そういう時、僕は大体空想の世界に入ってしまっているのだ。



 仕事休みの日曜の朝。

 僕は性懲りもなく空想の沼に沈みかけていた。

 

 宇宙の始まり。そんなワードがふと思い浮かぶ。

 そうなるともう止まらない。思考の枝がニョキニョキと伸び始める。

 アパートの一人暮らし。誰も邪魔する者の居ない環境が、僕の空想癖に拍車をかける

 手に持ったコーヒーは冷める一方だ。



 宇宙は、次元のない世界にゆらぎが生じた事から生まれた、と云う話を聞いたことがある。

 無から有が生まれた訳だ。無というのは意外と適当で不安定なものらしい。


 …ゆらぎってなんだろう?何もないところにどうしてゆらぎが生じるのだろう?



 「それです。」


 「うわあぁっ!!!?」


 「それです。その【思考】です。

 より詳しくは、思考による【脳内イメージ】の発現です。

 現実世界の画像や音声は、どんなものでも究極的には量子から成る、つまり次元を持ちます。

 それに対して、脳内イメージというものには次元がありません。

 つまり【次元のない世界に生じるゆらぎ】そのものなのです。」


 「だ、誰!?きみ。どこから入ってきたの?何?脳内イメージ!!?」


 急な来訪者の出現に混乱する僕。



 「あ、申し遅れました。私、こういうものです。」


 そういうと、来訪者は腰を45度に折り、名刺を差し出した。


 「『宇宙開発公社 営業部渉外担当課 佐藤太郎』…?」


 「仮名です。」


 「仮名かよっ!!」

 思わず突っ込む。なんだこいつ?



 「失礼しました。

 私は、この宇宙よりはるか高次元に存在する世界の者でして、この姿はあなた方に合わせた仮の姿。

 本来の姿はあなた方には感知できませんし、本当の名前も、あなた方には音声とすら認識できません。」



 …ヤバい人のようだ。



 「いま、『ヤバい人のようだ』と思いましたね?」


 !!!



 「あなたの考えていることは分かります。

 高次の存在ですので、あなたの思考は【見える】し【聞こえ】るのです。」



 「えと、正直言っていろいろな意味で怖いんだけど…。

 僕を拉致したり実験体にする系?」


 「いえいえ、とんでもない!!!

 この度は、私ども、あなた様に御礼申し上げに参りました。」


 「ごめん、全く話が見えない。」


 「勿論そうでございましょうとも。

 順を追って説明申し上げます。

 …先程、宇宙の始まりのきっかけとなる【ゆらぎ】の素が、あなた方の思考であると申しましたのは覚えていますか?」


 「うん、なんとなくだけど。」


 「つまり、この宇宙を含むありとあらゆる宇宙の、高度生命体の行う思考という活動が、【ゆらぎ】の正体なのです。

 そして、我々が瞬間瞬間に行う思考によって発生させる膨大な数の【ゆらぎ】が、

 1の後ろにゼロを何個足しても足りないほどの宇宙の素を作り出しているのです。」



 「なんか、スケールが大きすぎてよくわからないんだけど。

 それと僕に御礼というのと、何の関係が?」


 「そこでございます。

 思考が膨大な【ゆらぎ】を生み、これまた膨大な数の宇宙の素を作り出すと言っても、この宇宙の素というのは基本的に不良品の山です。

 量子もロクに無いただの空間だったり、出来たそばからブラックホール化したり、蒸発したり…。

 まともな宇宙ができる確率は、これまた0コンマの後ろにゼロを何個足しても足りないくらいのレアケースなのです。」


 「ふんふん。」


 「ところがです!!

 あなた様の思考は特別に質が良く、なんとあなた様の思考によって、すでに425個もの良質な宇宙が誕生致しました。」


 「えーと…凄いことなんだろうね。」



 「凄いどころじゃありません。

 一つ出来るだけでも、宇宙の端と端から飛ばした一粒の砂粒同士が衝突する以上の奇跡なのです。

 それが『425』です。」



 「へー。」


 「まあ、それでですね。

 私どもは、そのようにして新しく生まれた宇宙を整備して、分譲する事業をしております。

 つまり、俗な言い方ですが、あなた様のおかげで大変儲けさせていただいているのです。」


 「なんか僕のおかげなんだろうけど、スケールが大きすぎてよくわかんないや。

 それでお礼という訳かい?良いよ別に。」


 「そうも参りません。

 実は、先日私どもの会社に、更に高次の世界から監査が入りまして、利益を本人に還元していない事に対し

 『即刻改善すべし。さもなくば、事業停止措置とする』

 という最大級のお叱りを受ける事態となりました。」


 「…いま、高次の存在に対して初めて親近感が湧いたよ。大変だね。」


 「温かいお言葉、痛み入ります。はい、とても不味い状況なのです。

 つきましては、あなた様に御礼申し上げるのみならず、利益を還元させていただきたく、馳せ参じた次第でございます。」


 「そうなんだ。僕としては何も苦労してないから別にそんなの良いんだけど。

 貰わないとそっちが困っちゃうんだね?」


 「そのとおりでございます。困っちゃうのでございます。

 つきましては、些少ではございますが、分譲中の宇宙100個ほどをあなた様に進呈したく…」 


 「待って。ちょっと待って。

 ごめん無理。意味わかんない。貰っても管理できないし、そもそも行き方が分からない。」


 「そうでございますか?

 それでは、それらから得られる利益を毎月こちらの世界へ転送するのはいかがでしょうか?」


 「まあ…それなら、大丈夫かな?」


 「では、こちらの世界で安定した資産とされています金を、毎月7000那由多トン程…」


 「待って!!無理。単位が大きすぎてよく分かんないけど、多分地球滅んじゃう!!」


 「そうでございますか…。

 …どうしましょう、このままでは我が社が解散の憂き目に…ヨヨヨ。」


 「高次の存在を泣かせてしまう僕って…」



 これは困った。僕は何もした覚えはないのに、莫大なお礼を貰わなければならない。

 でも下手に貰えば地球の危機だ。

 一体どうすれば良いんだ。


 ……………そうだ。


 「ねえ?僕にしかできないことで儲けていたのなら、

 逆に、僕には出来ないことを、君たちにしてもらうことで相殺できないかな?」


 「そうでございますね。それであれば、監査も納得すると思います。」


 「やった!

 それじゃあ僕のお願いはね…」



 **********



 仕事休みの日曜の朝。

 僕は性懲りもなく空想の沼に沈みかけていた。




 「また、空想の世界をお散歩?」


 「あ、うん。」


 妻の問いかけに僕は応えた。



 僕は、この通り空想ばかりしているので、周りの人と合わせるのが苦手だ。

 それもあって社交的でもない。

 そんな僕とも話が合うような、素敵な人との出会いが欲しかったんだ。



 その事を彼らに話したら。二つ返事で了解してくれた。

 そして、あっという間に、僕と気の合う女性を見つけ出して、出会いの場をセッティングしてくれたんだ。

 僕と同じで、空想が好きな人。


 「コーヒーのおかわり、要る?」

 「ありがとう。じゃあ今の、飲んじゃうね。」


 …でも僕と違ってしっかり者でもある。


 彼らにしてみれば、人間の思考をスキャンして、僕に合った人を見つけるなんてことは、造作も無い事らしい。


 そして、僕と彼女はすぐに意気投合。お付き合いを始め、そしてまもなく結婚した。


 僕は毎日が幸せだ。


 

 「ねぇ、今日はどんなお話?」

 彼女が、僕がどんな空想をしているのかを訊いてくる。


 「今日はね…」




おしまい

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