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第二十四話 敦子の結婚式

 ゴウさんとあたしが結婚してから、もうすぐ二年。

 けんからしいけんかを一度もしていないのは、ちょっと自慢できるかな。

 あたしがすねたりふくれたりすることは、それなりにありますが。

 これは、けんかではありません。

 あたしがそれなりに怒られることも、たまにありますが。

 これも、けんかではないでしょうし。


 そして今は、けんかをするどころか褒められているんです。

「俺が想像していた以上に、おまえが家事をできるのには驚かされるよ」

 ほら、ね。

「料理や洗濯に掃除まで、ほとんど完璧だし」

「そこまで褒められたら、ちょっと恥ずかしいわ」

 謙遜してはみたものの、もっと褒めてほしいっ!

「ワイシャツをクリーニングに出さず、アイロンがけまでするとは」

のりを効かせてアイロンをかけて、パリッと仕上げるのが好きなの」

「クリーニング屋いらずだな」

「パパのワイシャツを練習台にして、腕を磨いてきたんだもの」

「努力は、報われるんだな」

「あの努力が、むだにならなくて良かったわ」

 でも。

 ゴウさんが言おうとしていたのは、そんなことではなかったようで。

「何から何まで俺が家事を担当していたのは、いったい何だったんだ」

 えっ、この話題ってそっちの方向に?

「俺がやっているのを見ていて、申し訳ないとは思わなかったのか?」

 お姉ちゃんのふりをしていたころの話を、今さら持ち出されても……。

 ちなみに、これだってけんかではありませんよね。




「そういえば、昼間におふくろさんから電話があったぞ」

 ママったら、結婚してからの連絡はゴウさんの携帯電話にばっかり。

「あたしも携帯電話を買ったって、伝えてあるのに」

「昼だと、おまえは授業中で出られないからだろ」

「だったら、夜にかければいいでしょ」


「それで、ママは何て?」

「外村が結婚するから、式に参列するためにオーストラリアに来いって」

「ママったら、そんな大事なことをあたしじゃなくてゴウさんに」

「大事なことだからこそ、俺にしたんだろ」

「支社の運営が軌道に乗るまでは、結婚しないって言っていたのに」

「結婚するってことは、軌道に乗ったんだろ」

「どうして、結婚式を向こうでするのかしら?」

「任期が残っている昭と外村は、まだ向こうで働くからだろ」

「パパとママは、二年も前に戻ってきたのに?」

「立ち上げが終われば戻ってこられる、お偉いさんとは違うんだよ」

「大変なのね……」


「で、結婚式に参列するついでに第二の新婚旅行をどうかと」

「新婚旅行はもう済んだって、何回言えば分かるのかしら」

「親としちゃ、ちゃんとした新婚旅行をさせてやりたいんだろ」

「思い出だったら、あの旅行だけで十分よ」

「おまえにしては、殊勝なことを」

「そりゃ、あたしにとってはあの旅行が新婚旅行だもの」


「式への参列だけなら二泊三日で足りるでしょ、ならゴウさんも行けるわね」

「思い出だったらあの旅行だけで十分だと、言ったばかりだろ」

「妻として、ゴウさんのお仕事を心配したのよ」

「俺なら大丈夫、大きな作業もないし振替休日はたまりにたまっているから」


「向こうては子作りに励みましょ、今度こそハネムーンベビーを」

「いきなり、やる気満々だな」

「前の新婚旅行では授からなかったけれど、二度目の新婚旅行ではきっと」

「仕事は続けると言っていただろ、働きながら子育てするのか?」

 いろいろあったお料理教室の話が、ご破算になってからは。

 当面はお仕事を続けるつもりだと、ゴウさんに伝えてあるんです。

「ママが日本にいるなら、働きながらの子育てだって無理なくできるでしょ」

「また、いつもの他力本願か」

「だから、今度こそハネムーンベビーがほしいな」

「そうだな、そろそろいいんじゃないか」

 えっ、いいんですか?

「いつものようにはぐらかされると思ったのに、どうしたの?」

「新婚生活を二年も堪能したことだし、そろそろ子供がいてもいいだろ」

 おおっ!

「じゃあ、オーストラリアでは満を持して子作りに励みましょ」




「お姉ちゃんの結婚式だもの、先生も参列するわよね」

「サイパンから来るって、おふくろさんが言っていたな」

「先生に会うのも、久しぶりね」

「年に数回は日本に帰ると言っていたのに、今年は正月に帰ったきりだし」

「バラ園もそろそろ開園でしょ、忙しいのかしら?」

「オバちゃんが汗をかくわけじゃないから、どうせのんびりしているんだろ」


「オーストラリアへは、お義母さまと一緒に行くの?」

「いや、おふくろはもう向こうに行っているんだとさ」

 だとさ、って……。

 自分の母親のことなのに、ママからの伝聞ですか。

「もう?」

「昭と外村は当分の間は向こうにいるから、三か月ほど滞在するって」

「三か月も!」

「おふくろは、外村に料理を教えているらしいぞ」

「あのお姉ちゃんが、お義母さまらお料理を?」

「しかも、外村からおふくろに頼んだんだと」

「ママも何回かチャレンジしたけれど、そのたびに諦めていたのに」

 何せ、お姉ちゃんの壊滅的な腕前たるや。

 あたしがお姉ちゃんのふりをしていた、あのころの姿そのものですから。

 いかに壊滅的か、お分かりですよね。

「お姉ちゃんはお料理がまったくできないのよ、基礎の基礎から教えなきゃ」

「だから、三か月も滞在するんだろ」

「お姉ちゃん、昭さんのために一念発起したのかしら?」

「嫁としてしゅうとめから習うんだ、今回こそは何とかなるだろ」

「よくもあの腕前を放っておいたと、あきれられないかしら?」

「おまえと足して二で割れば、平均点ぐらいになるんじゃないか」

「どんな理屈よ」




「ママ~っ!」

 空港の到着ゲートで、先乗りをしてお迎えに来てくれたママと合流。

 周りを見渡してみると、お迎えはママ一人だけみたい。

「お出迎えは、ママだけなの?」

「仕方がないわよ、みんなはお仕事ですもの」

 そうか。

 日本は敬老の日でお休みだけれど、オーストラリアは平日だものね。

「あなたたちはこれからどうするの、ホテルに直行する?」

「観光する前に、とりあえず荷物をホテルに置いてからってゴウさんが」

「その後は?」

「さあ、予定はゴウさんしか知らないから」

「その剛君はどこにいるの、スーツケースはそこにあるみたいだけれど」

「ゴウさんなら、タバコを吸いに行っているわ」

 スーツケースを回収してから、喫煙所に一目散だもの。


「先生やお義母さまは、ホテルで待っているの?」

「ホテルに泊まっているのは、あなたたちだけよ」

「あたしたちだけって、先生はどこに?」

「先生は、あたしたちのマンションに泊まっているわ」

 どうせ年に数回は、オーストラリア支社に顔を出すんだからと。

 ママたちは、赴任中に住んでいたマンションを売らずにいるんです。

「お義母さまは?」

「昭君のお母さまは、敦子と昭君の新居に泊まっているわ」

「どうして、あたしたちだけがホテルに泊まるの?」

「うちに泊まりなさいって言ったけれど、剛君がホテルに泊まりたいって」

 だから、どうしてあたしではなくゴウさんに聞くのよ。

「二度目の新婚旅行だから、ホテルに泊まりたいんですって」

 ふうん。

 ハネムーンベビーについては、どうやらゴウさんも本気みたいね。


 ママと三人でタクシーに乗って、宿泊先のホテルへ。

「まずは、お義母さまへごあいさつしたいな」

「わざわざ顔を出さなくても、おふくろなら夜になれば会えるだろ」

 夕食にはステーキハウスを予約してあるって、ママが言っていたけれど。

「あたしは嫁だもの、何を置いてもお義母さまにごあいさつしなきゃ」

「だったらうちにいらっしゃい、先生もいるし夕方には敦子たちも来るから」




 ステーキハウスへ行く前に、パパとママのマンションに寄ると。

 リビングにいる先生のところへ。

「久しぶりだね美乃里、元気そうで良かった」

「お久しぶりです、先生もお元気そうで」

「サイパンの水が合っているんだろ」

「そうだ、お土産を持ってきたんですよ」

 ホテルでスーツケースから出して、袋に入れて持ってきたのは。

 先生が好きな、浅草の和菓子屋さんの芋ようかん。

「ありがたいね」

「よかった、喜んでもらえて」

「本格的な和菓子は。サイパンじゃ探してもなかなか見つからないから」

「昨日、ゴウさんが浅草まで買いに行ってくれたんです」

「ふうん、ゴウでもたまには気が利くことをするんだね」


 お義母さまにごあいさつした後、ゴウさんと二人で話しているけれど。

「あちらのご両親は日本にいるのに、昭たちは二人でどうするのかしら」

「子供じゃないんだし、二人でいれば大丈夫だろ」

 何を心配しているんだって顔のゴウさんが、ひっくり返るようなひと言か。

「でも、赤ちゃんが生まれたら」

「赤ちゃんって、誰の?」

「もちろん、昭と敦子さんの」

「ええっ!」

「半年もすれば生まれるのに、あなたは聞いていないの?」

「何も聞いていないよ」

「おなかが目立たないうちに挙げたいからと、結婚式を急いだそうよ」

 そんなことをお義母さまから言われて。

 ぽかんとしているあたしに、ゴウさんは。

「おまえは知っていたのか?」

「知っていたら、こんなに驚いていないわ」

「妹に知らせないなんてどうなっているんだ、おまえたち姉妹は」

「同じことでしょ、ゴウさんたち兄弟だって」

 あれ、これってちょっとしたけんかなのでは?




 お式の前に、ゴウさんが。

「ちょっと、外村の控室に行ってくる」

「お式の直前なのに、何をしに?」

「俺たちの結婚式の後に、外村が新郎の控室までやってきて……」


 ゴウさんが教えてくれた、結婚式の後にあったこととは。

「オーストラリアへ戻る前に、言っておきたいことがあるの」

「どうせしょうもないことだろ、二人そろって面倒な姉妹だな」

「あいかわらず横柄な態度ね、あたしはあんたの義理の姉になったのよ」

「だからどうした、言いたいことがあるなら早く言えよ」

「美乃里を……、よろしくね」

「ほう」

「何よ、その顔」

「おまえでも姉っぽいことを言うんだな、と思って」

「ぽい、じゃなくて正真正銘の姉だもの」

「俺たちの心配はいらないから、おまえこそ昭に優しくしてやれよ」

「あんたこそ、ずいぶん偉そうに言うじゃない」

「俺は昭の兄だ、おまえにとっては義理の兄になるんだから」

「面倒な関係ね、義理の兄だけれど義理の弟なんて」


 そんなことがあったそうで。

「おまえが迷惑をかけるだろうが、大目に見てやれとも言われたよ」

 はっ、恥ずかしいっ!

「それに、おまえは俺に怒られることが一番こたえるだろうからとも」

 確かに、ゴウさんに怒られるとしばらく立ち直れないもの。

「お姉ちゃんたら、結婚式の直後にそんなことを言うなんて」

「不満そうだが、俺はさずが外村だと思ったぞ」

「どうして?」

「結婚してからず~っと大目に見ているから、けんかにはなっていないだろ」

 けんかをしていない理由は、それだったのね……


 そんなことを聞いた後で、二人で花嫁の控室に行くと。

「ふうん……、馬子にも衣装てはよく言ったものだな」

「失礼ね、あんただって同じようなものだったくせに」

「違いないな」

「それで、挙式直前の花嫁の控室に二人そろって何の用?」

「こいつは付いてきただけだ」

 失礼ね、人のことを犬か猫みたいに。

「昭をよろしくな」

「何よ、意趣返しのつもり?」

「ただのお願いだよ、昭の妻になるおまえに」

「今さら言われてもね、だいぶ前から実質的に夫婦なんだし」


「昭のやつは気が弱いから、いざってときはあいつを立ててやってくれ」

「あんたでも、たまには兄貴っぽいことを言うのね」

「それと、昭はおふくろっ子だから……」

「お義母さまのことなら、日本に帰ったら同居するつもりよ」

「同居するって、おまえのおやじさんとおふくろさんはどうするんだ?」

「心配ないでしょ、美乃里が目と鼻の先にいるんだもの」

「まあ、こいつはおまえよりよっぽど家庭的だからな」

「大きなお世話よ、用が済んだなら先生を呼んできて」




 結婚式は、つつがなくとり行われて。

 あのお姉ちゃんが涙ぐんでいたのには、参列者一同が驚かされたけれど。

 この旅行での一大イベントが終わり、明日の予定は観光だけだから。

 昨夜に続き、今夜もまた。

 思う存分、ハネムーンベビー作戦に臨みましょうっ!




Copyright 2025 後落 超


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