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第十九話 家庭訪問、されちゃうぞっ!

 あと一日頑張れば週末、そんな木曜日の夜。

 今は、実家の近くにある焼き肉屋さんに来ているんです。

 あたしとゴウさん、そして香澄の三人で。

 ハナマルを排除したのには、それなりの理由があるんです。

 これから、ハナマルに聞かれたら面倒なことになりそうな話をしますから。

 とん起に行かなかったのも、豆キチさんやマスターに突っ込まれないため。

 あたしは、ゴウさんと香澄にある相談をするつもりなんです。

 一部の人たちにとっては、たちの悪い内緒話でしょうけれど。


 まずは、今夜の議題を二人に伝えると。

「何だって?」

 口をつけようとしていたジョッキを、ドンッとテーブルに置いたゴウさん。

 当然ながらゴウさんは、「一部の人たち」のうちの一人です。

「だから、生徒たちがうちに遊びに来たいってうるさいのよ」

「結婚前の教師への家庭訪問か、暇を持て余している高校生らしいな」

「ねえ、いいでしょ」

「いいんじゃないか、俺は構わないよ」

「えっ、いいの?」

 てっきり、だめだのひと言で却下されるとばかり思っていたのに。

「ああ、俺は外出していればいいんだから」

「それじゃ意味がないのよ、生徒たちはゴウさんを見にくるんだもの」

「川木が初めて来たときにも、同じことを言っていたぞ」

 あいかわらず、記憶力がいいこと。

「会ったこともない女子高生の相手をさせられるのか、勘弁してくれ」


「いてくれなきゃ困るのよ、ゴウさんだって当事者なんだから」

「何だ、そりゃ」

「学校で、生徒たちが騒いでいるんだもん」

「どうして俺が当事者に、騒いでいるって何を?」

「あたしが、人の彼氏を奪って婚約したんじゃないかって」

 文句を言おうとするゴウさんの、機先を制して。

「学校で机の上に飾っている、ゴウさんとあたしの写真を生徒が見たからよ」

「どうして、俺たちの写真を見て生徒が騒ぐんだ」

「ゴウさんは、文化祭で香澄とラブラブカップルになったでしょ」

「それがどうした」

「あのときの写真って、掲示板に貼ってあるの」

「だから」

「あたしの机の写真と見比べて、どっちもゴウさんだと気づいちゃったの」

「つまらないことに気づくんだな、暇な女子高生は」

 暇じゃなくても、女子高生なんてそんなものですよ。

「だったら、おまえが川木のことを説明すればいいだろ」

「もちろん、ちゃんと説明したわよ」

「じゃあ、それで終わりじゃないか」

「どこでどうゆがんだのか、あたしが婚約したのは親友の彼氏だって話に」

「まったく、最低な話だな」

「あたしたち二人が香澄と一緒にいるのを見ないと、信じないって言うのよ」


 ここでようやく、「一部の人たち」のうちもう一人の主役が参戦します。

 あたしとゴウさんのやり取りを、ここまで黙って聞いていた香澄ですが。

「篠原さんはともかく、どうしてあたしまで巻き込むのよ」

 ごめんね香澄、ここは立派にいけにえとなってちょうだい。

「元はといえば、ゴウさんが香澄とあんなコンテストに出たからでしょ」

「あれはコンテストじゃなくて、選考会だろ」

「出たくて出たわけじゃないのよ、あたしは」

 二人がそろって、ささやかな反論ですか。

「この際、本人の意思は関係ないの」

「どうして?」

「どうしてよ?」

 この二人、練習でもしていたみたいに息がぴったりね。

「二人で出場して、優勝しちゃったってことが重要なんだから」

「自ら進んで出場したんじゃなくて、させられたんだ」

「優勝したのはたまたまで、他のメンバーが実力不足だったからよ」

「過程じゃないの、結果がすべてよ」

 教師としてはあるまじき発言だけれど、今ばかりはお許しください。

「とにかく、家庭訪問のときには二人でおうちにいてちょうだい」

 やっぱり、ハナマル抜きでこの話をしたのは正解だったわね。

 ハナマルが知ったら、生徒たちの前で言い出しかねないもの。

 ゴウさんを奪われたのは、香澄じゃなくて自分だって。




 このような次第で、生徒たちがうちに遊びに来ることになったんです。

「日曜日に来るのか、結婚式を一週間後に控えて忙しいのに」

 別に、忙しくはないと思うけれど。

「とにかく、当日はあたしとゴウさんがラブラブなのを見せつけないと」

「生徒の勘違いを正すより、おまえの自己顕示欲を満たしたいだけだろ」

 ぎくり。

 いつものことだけれど、さすがに鋭いわね。

「そっ、そんなことはないわよ」

「こんなことがいつまで続くんだ、まるでラブラブカップルのたたりだな」

「それをあたしに言われても」

 反論してはみたけれど、何から何までゴウさんが言うとおりだと思うわ。

 今のあたしが感じている、これが俗に言う罪悪感ってやつなのね。




 日曜日は朝から良く晴れて、ちょっと暑いぐらい。

 玄関のチャイムが鳴ったのは、お昼をちょっと過ぎたころ。

「お邪魔しま~す」

 ぞろぞろと列をなしリビングに入ってきた、生徒たちを見ると。

 ゴウさんと香澄が、生徒には聞こえないように小声で苦情を。

「いったい何人呼べば満足するんだ、おまえは」

「こんな人数の相手を、あたしたち二人にさせるつもりなの?」

 言われてみれば、確かに大人数よね。

 顧問をしている料理部の部員のうち、三分の一が来ちゃったんだもの。

「女子高生の集団か、豆キチが見たら泣いて悔しがるだろうな」

「篠原さんたら、そんなのんきなことを言っている場合ですか」

 余裕のゴウさんと、明らかに緊張してきた香澄。


 リビングに通して飲み物を出したら、さあバトルの始まりよっ!

 最初に、あたしたち三人の関係を香澄から説明してもらうと。

 その後で、質疑応答タイムに突入。

「つまり、川木先輩はうちの学校の卒業生なんですね」

「そうよ」

「川木先輩と外村先生は親友でクラスメイト、ってことでいいんですね」

「ええ」

「外村先生の婚約者の篠原さんと川木先輩は、会社の同僚だと」

「そのとおり」

 香澄の説明は、これ以上の説明はできないだろうってレベルだったから。

 聞いていた生徒たちも、ここまではほぼ納得しているみたい。

 質問をされたあたしは、簡潔な返答を繰り返すだけで十分だったもの。

 なのに、ゴウさんったら。

「これって、親友の彼氏を奪った疑惑の説明にはなっていないだろ」

「下準備をしているのよ、ここまでは地ならしみたいなものだから」


 次に、ゴウさんと自分が学園祭で一緒だった理由を説明した香澄。

「じゃあ、川木先輩が外村先生の婚約者と学園祭を回っていたのは」

「美乃里は調理部の顧問で、調理実習室から離れられないからよ」

 ここでは、答えるのは香澄にお任せ。

「川木先輩は、外村先生に頼まれて母校の学園祭を案内していただけで」

「あたしに頼んだのは、自分の親友で篠原さんの同僚だから」

「ふうん、筋は通っているわね」

「筋も何も、これが真実だから」


 最後に、ゴウさんと自分がラブラブカップルに出た経緯を説明した香澄。

 これは最重要ポイントだけに、とても丁寧な説明だったわ。

「川木先輩と先生の婚約者がラブラブカップルに出たのは、偶然なのね」

「ええ、校内を巡っていたら司会の人に捕まっちゃったのよ」

「外村先生に連絡して、出場を交代しようと思わなかったんですか?」

「在校生と職員には出場権がないもの、美乃里は出られないのよ」

「ふうん、交代は無理だったんだ」

「そもそも、美乃里はレストランの責任者で忙しかったし」


「でも、外村先生が会場の最前列に座っているのを見た友達がいますよ」

 うわあ、厳しいチェックがっ!

「あのとき、レストランはてんやわんやだったのに」

「責任者がふらふらしていたんだもの、てんやわんやにもなるわよね」

 さすがに、ここはあたしが説明しなきゃだめね。

 臆してはだめよ、正々堂々と論破するの。

 相手は高校生、しかも教え子なんだから。

「あたしは、二人が心配だから見ていたのよ」

「婚約者と親友なのに、何が心配なんですか?」

「そっ、それは……」

「おまえは、黙っていた方がいいんじゃないか?」

 論破、失敗……。


 では、最後の詰めよ。

「つまり、外村先生が川木先輩の恋人を奪って婚約したんじゃないんですか」

 ここはお願いっ、香澄。

「当たり前でしょ、あたしと篠原さんはただの同僚よ」

「なんだあ、つまらないの」

 どんなドロドロを想像しているのよ、高校生のくせに。

「ほらね、先生が言ったとおりだったでしょ」

「そうですね」

「なんだあ」

「つまらないの」

 あたしの疑いが晴れたのに、生徒たちはひどく落胆しているわね。

「篠原さんは、どうなんですか?」

 いきなり、矛先をゴウさんに?

「聞いているばかりで、ほとんど話をしていないし」

「外村先生を愛しているんですか?」

 おお、何て素晴らしい質問なのっ!

「愛しているからこそ、結婚するんだよ」

 そして、何て素晴らしい答えなのっ!

 ちょっと棒読み、って感じで言われたのは気に入らないけれど。

 初めてゴウさんの口から愛しているって言われたのは、素直にうれしいわ。

 とにかく、これであたしの略奪結婚疑惑は晴れたんだから。

 作戦としては大成功でしょ、後は……。


 聞きたいことを聞けた生徒たちは、ゴウさんのひと言で納得したみたい。

「先生のお部屋を見せてください」

 待っていました、ここからが本日のメインイベントよっ!

「おっ、お部屋を?」

 まずは、動揺したふりをしてみせてから。

「新婚さんのお部屋を、一度は見てみたいんです」

「将来の参考にしたいから」

「いいでしょ、先生」

「もう、しょうがないわね」

 しぶしぶ同意したって体を取っているのに、勝手に笑顔にっ!


 ゴウさんと香澄をリビングに残して、ぞろぞろと二階に移動。

「ふうん、このお部屋が外村先生のお部屋なんですか」

「生活感がないんですね」

「っていうか、マンションのモデルルームみたい」

 そりゃそうでしょ。

 この家に引っ越してから、あたしはこの部屋で寝起きしていないもの。

 せいぜい着替えるだけで、月に何回か香澄とハナマルが寝るだけだし。

「こっちが、篠原さんのお部屋ですか?」

 ついに本丸、ゴウさんのお部屋へ。

「でも、ベッドに枕が二つあるわ」

「きゃ~っ、おそろいのパジャマも」

「結婚前からこっちで寝ているんですか、一緒に?」

「女子高生には刺激が強すぎますっ!」

 これよ、これ。

 黄色い歓声と、好奇に満ちあふれたまなざし。

 あなたたちを呼んだのは、こんな展開を期待していたからなのよ。




 生徒たちが帰り、やっと緊張から解放されたあたしは。

 冷蔵庫から取り出した缶ビールを抱えて。

 これからお疲れさまの会を開催しようと、リビングへ。

「疲れちゃったから、少し休みましょ」

「よくそんなことを、まずはここを片付けてからでしょ」

 大仕事を終えたばかりなのに、香澄ったら。

「片付けは俺とこいつがやるから、川木は休んでいていいよ」

 ゴウさんまで。

「どんなときだって、総括は必要でしょ」

 総括よりも、むしろ後片付けを優先しようとする二人。

「そもそも何が疲れただ、ほとんど川木が説明していたのに」

「美乃里は、一番疲れていないでしょ」

 そうは言いながらも、二人とも冷えたビールをおいしそうに飲んでいる。

「川木が頑張ったから何とかなったんだぞ、感謝しろよ」

「あの子たちったら、なかなか納得してくれないんだもの」

「見ていて感心したよ、あれだけ堂々と質問に答えていたのには」

 そりゃ、香澄は真剣な顔で答えていたけれど。

 外村先生って言葉を聞くたびに、ゴウさんは笑っていたくせに。

「生徒たちが納得して帰ったのも、香澄のおかげよ」

「それに比べておまえときたら、生徒の顔色をうかがいながら一喜一憂して」

「仕方ないでしょ、生きた心地がしなかったんだもの」

「それは、矢面に立っていたあたしのせりふでしょ」

「とにかく良かったわ、親友の彼氏との略奪結婚って疑惑が晴れて」


「そういえば、二階で何を騒いでいたんだ?」

「何って、別に……」

「俺の部屋でドタバタしていたみたいだか、まさか生徒を通したのか?」

「あたしが普段から生活しているのは、ゴウさんのお部屋よ」

「いい気なもんだな、羨ましいくらい晴ればれとした顔で」

「問題をすべて解決した上に、お部屋を披露できて満足したもの」

 これでこそ、心おきなく結婚式に臨めるってものよ。




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