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第十一話 後顧の憂いのないように 前編

 双方の親から結婚の許しを得た、今。

 ずっと気になっていたことを、奇麗さっぱりと片づけるために。

 あたしが用意したのは、二つのミッション。

 後顧こうごうれいのないように、がんばるのよあたしっ!




 まずは、ひとつ目のミッション。

 ようやく、婚約者になれたのに。

 あたしは、子供のころのゴウさんについてまったく知らないの。

 まあ、今のゴウさんについても知らないことだらけだけれど。


 知らないままでいるのが、どうにも気になっているけれど。

 かといって、先生や豆キチさんたちに聞いても。

 浴衣や着物について聞いたときみたいに、めぼしい情報は得られなさそう。

 もう、お姉ちゃんのふりをしなくてもよくなったんだから。

 直接、本人に根掘り葉掘り聞いてみましょ。




「子供のころのゴウさんって、どんな子だったの?」

「どんなも何も、ごく普通の子供だったよ」

 普通の子供じゃなかっただろうと思うから、聞いているのに。

「好きだったことや、夢中になった遊びを知りたいのよ」

「面白いことなんて、何もなかったぞ」

「あたしは面白いことが聞きたいんじゃないの、いいから教えてちょうだい」

「いつもながら、面倒なことを言い出すやつだな」

 言われなくとも、そんなことは本人も十分に自覚しております。




「銭湯に行くのが好きだったな」

「いきなり、遊びじゃないことから?」

「知りたいのは子供のころの俺、なんだろ」

 まあ、聞けるなら何でもいいか。

「おうちにお風呂があるのに、どうして銭湯へ行くの?」

「銭湯の隣のおでん屋で、湯上がりに買い食いをするのが好きだったんだ」

「湯上がりにおでんって、コーヒー牛乳とかじゃなくて?」

「銭湯帰りにおでんを食うと、大人になったみたいで」

 そうか、大人をまねたがる子供だったのね。

 まずは、ひとつ目の収穫っと。




「他には、何をして遊んでいたの?」

「そうだな、自転車であちこちを走り回っていたな」

「自転車だって、遊びではないでしょ」

「遊びに行くための足なんだから、遊びの一部と言ってもいいだろ」

「自転車に乗れば、活動範囲がぐんと広がるものね」

 何を納得しているのよ、あたしっ!

 でも、自転車は誰でも乗るから収穫とは言えないか。




「遊びで好きだったのは?」

「何か月かに一度、水元公園に釣りに行っていたっけ」

 やっと、遊びの話が聞けるわね。

「水元公園までは、自転車で行くの?」

「さすがに遠いだろ、普通に金町まで電車で行ってそこからはバスで」

「昭さんも一緒に行くの?」

「いや、友達とだよ」

「どうして連れていってあげないの?」

「あいつは、外遊びがあまり好きじゃなかったから」

 双子の兄弟なのに、何から何まで真逆なのね。


「それで、何が釣れるの?」

「コイやフナだ、釣れたためしはなかったが」

「釣れないって、一匹も?」

「ああ、釣りの才能がないのかさっぱり釣れなかった」

 釣れないのに何度も行ったなら、釣りが好きだったのは間違いないわ。

 これは、二つ目の収穫ね。


「どうして何度も行っていたの、釣れないのに」

「公園の手前の釣り堀に、見たことがないぐらいでっかいマッカチンがいて」

「マッカチン?」

「アメリカザリガニのことだ、最後のころは釣りそっちのけでマッカチンを」


「近所でもザリガニを釣っていたから、好きな遊びだったんだろうな」

 でしょうね、今までで一番の熱気だもの。

「ザリガニなんて、この近所で釣れるの?」

「じいさん先生の医院へ行く途中に、小さな池があっただろ」

「池って、そろばん塾の前にあったため池?」

「ああ」

 そんなところで、釣れるんだ。

「まずは、アメヤで十円の酢漬けイカを買って」

 ずっと前に、ちらりと登場しましたが。

 アメヤとは、ゴウさんとわたしが通っていた小学校の前にあったお店で。

 今はもう閉店しているけれど、文房具と駄菓子を売っていたの。

「酢漬けイカって、おやつで食べるために?」

「いいや、ザリガニの餌にするんだよ」

「ザリガニって、酢漬けイカを食べるの?」

「雑食性だから、何でも食べるな」

「だったら、どうして酢漬けイカを?」

「よく釣れるからだ」

 他にどんな理由があるんだよ、って顔ね。

「みんなは、さきイカを使っていたんだが」

「ゴウさんは違うのね」

「においが効果的なのか、酢漬けイカの方が釣れるんだ」

「ふうん、釣りざおや道具は?」

「道具なんて必要ないんだ、身ひとつで楽しめるお手軽な遊びなんだよ」

「さおもなしで、どうやって釣るの?」

「そこらへんに落ちている、棒がさおの代わりだ」

「へえ」

「棒の先にタコ糸を縛り、糸の先っぽに切った酢漬けイカをくくり付けて」

「針は、釣りなら針がいるでしょ?」

「いらないんだ、酢漬けイカをはさみで挟んだザリガニをぶっこ抜くから」

「ずいぶん原始的なのね、そんなもので釣れたの?」

「まあまあだ、三十匹ぐらい釣れることもあったな」

「三十匹!」

 水元公園では、コイやフナが一匹も釣れなかったのに。

 近所でザリガニを、三十匹ね……。




「あとは、宝探しだな」

「宝探しって、いきなりアドベンチャーね」

「通りの向こうに、ボウリング場があっただろ」

「ファルコンボウルだっけ、すぐに学校から立ち入り禁止の通達が出た」

「俺たちは、禁止になる前によく出入りしていたんだが」

 流行を追う子供だったのかしら?

「あそこからずっと奧に行くと、おもちゃメーカーの工場があって」

「知らないわ、小学校低学年だったあたしには行動範囲の外だもの」

「工場の横に、製品にならなかったものが山積みになっていて」

「へえ」

「探していると、中にはほとんど使えるようなものもあるんだ」

「それが、宝探しなんだ」

「フォノシートやビニール人形にロボット、掘り出し物はプラモデルだ」

「工場の敷地内でしょ、立ち入り禁止なんじゃないの?」

「ああ、警備員に見つかってこっぴどく怒られてからは行かなくなったな」

 ずいぶん乱暴な遊びをしていたのね。




「他に、好きだった遊びは?」

 遊び、というフレーズに力を込めて聞いているのに。

「う~ん、もんじゃだな」

 せっかく聞き取りが軌道に乗りかけたのに、また遊び以外に逆戻りですか?


「駅を出てすぐの細い路地に、駄菓子屋があっただろ」

「あまり通らないから、駄菓子屋さんがあったなんて知らないわ」

「中でもんじゃが食べられて、子供にとって社交の場になっていたんだ」

「どうして、それが遊びなの?」

「遊びというより、もろもろを学べるから」

「もんじゃで、学ぶ?」

「手持ちの小遣いで、もっとも満足できるもんじゃのオーダーを考えたり」

「足りなければ、どこを我慢するか考えるのね」

「金の使い方だけじゃないぞ」

「他に、何が?」

「年上が席を占拠して、なかなか空かないことがあるんだ」

「ふうん、子供心にも理不尽だと思うことがあるんだ」

「逆に、年下の子たちがうらやましそうに待っていたり」

「ゆっくり食べても、いられないねね」

「それはそれで、社会の仕組みを学んでいるみたいで意外と楽しいもんだ」

「だから、遊びとして捉えていたのね」


「でも、もんじゃはもんじゃでしょ」

「あのころ子供が駄菓子屋で食っていたもんじゃは、ちょっと違うんだ」

「何がどう違うの?」

「今、もんじゃ屋やお好み焼き屋で食っているもんじゃとは別物ってことだ」

「別物って?」

「まず、土手なんか作らない」

「土手もなしで、もんじゃを焼くの?」

「小さい鉄板を囲んで、子供が何人も座っているんだぞ」

「そうか、一人が焼けるスペースが限られているんだ」

「自分のテリトリーがあって、そこでちまちまと焼くことになる」

「ちまちまって?」

「一回に焼くのは、せいぜい大さじ四~五杯分ってとこだな」


「値段も三十円ならみそ汁の椀で、五十円だと大きなご飯茶碗なんだ」

「本当に、駄菓子価格なのね」

「百円も払うと、ラーメンどんぶり一杯分も」

「おやつにしては多すぎるんじゃない?」

「五十円でも多いんだ、小さな袋入りの乾燥ラーメンを買って入れるから」

「コンビニエンスストアとかで売っている、ベビー何とか?」

「あれとは違い、もんじゃ専用の味がついていない乾燥ラーメンがあるんだ」


 おやつに食べるもんじゃが、人格形成にも影響があったなんて。

 まずまずの収穫、ってことにしておきたましょ。




「子供のころ、何より夢中になったのはカタだな」

「カタ?」

 見たことも、聞いたこともないわ。

「大から小まて、いろんなサイズの素焼きの粘土型に絵柄のくぼみがあって」

「粘土を使った遊びなの?」

「放課後になると、空き地にカタ屋のおやじが来て」

「カタ屋ってことは、商売なのね」

「くぼみに粘土を詰めてから抜いて、彩色用の粉をかけて芸術点を競うんだ」

「子供の粘土細工で、芸術点って……」

「芸術点といっても、酔ったおやじの採点だからかなりいい加減なものだが」

「酔った?」

「採点役のカタのおやじは、酒を飲んでいるから」

「そんなことか許されていたなんて、ゆるやかな時代だったわね」

「採点開始の口上を言い、『その前に乾杯~』と瓶ビールをラッパ飲みする」

「ビール、しかも瓶!」

「荷物になるだろうに瓶ビールなんだ、せめて缶ビールにすればいいのに」

 そういう問題ではないと思うけれど。

「今になって思えばぬるいビールだっただろうに、うまかったのかな」


「カタや彩色用の粉は、最初はカタ屋のおやじから買うんだが」

「ザリガニ釣りとは違って、お金がかかる遊びなのね」

「最初は買うけれど、点数を集めるとカタや粉と交換できるから」

「さっき言っていた、芸術点をためるの?」

「ああ、でかいカタで作った作品には高得点がもらえるんだ」

「大きいカタは値段がはるけれど、採点のときには有利なのね」

「高い金を払ったってことだから、雑な彩色でも高得点をもらえることも」

「微妙に競争心をあおって、子供を夢中にさせるのね」

 相手がいて競うのが好きなのか、技術を競うのが好きなのか。

 道具を使う遊びが好き、って可能性もあるわ。

 これは、今までで最大の収穫ね。




「遊びじゃないが、カラーヒヨコなんてのもあったな」

 初めて、あたしが知っている話題になったわ。

「小学校の裏門の横で、おじさんが売っているやつでしょ」

 正門だとすぐに先生に見つかっちゃうから、見回りにこない裏門で。

「ああ、ヒヨコにスプレーで着色しただけなんだが」

「何日かすると色が落ちて、普通のヒヨコになっちゃうのよね」

「やけに詳しいな」

「だって、あたしも買ったことがあるもの」

 何よ、それを聞いた途端に笑っちゃって。

「下校時に見て、急いでおうちにお小遣いを取りに走ったわ」

「ヒヨコ屋のおやじからすれば、模範的な客だな」

「家にヒヨコを持って帰ってから、ママに自慢したら笑われたっけ」

「おふくろさんより、外村が大笑いしただろ」

 よく分かるわね。

「見るだけで触るのが禁止だったのは、今から思えば色が落ちるからね」

「俺らはそれを見ながら、次は誰が買うかと面白がっていたんだ」

「引っかかった子がかわいそうじゃない、どうして教えてあげないの?」

「痛い思いを経験して、世の中ってものを学ぶことも大事なんだよ」

「確かに、色は落ちるしすぐにただのニワトリになるし」

「しばらくは、近所中で早朝からニワトリの鳴き声が聞こえて迷惑だったな」


「売りに来るのは一年に一度ぐらい、だったな」

「同じ学校で、何度も同じ手は使えないものね」

「敵もさるもの、ほとぼりが冷めたころに別の手を使って商売をしていたよ」

「あたしは知らないけれど、別の手って?」

「白と黒に着色したウサギを、パンダウサギと称して売りにきていたな」

「あこぎな商売ね、手を替え品を替え……」

「次から次へとカモ、だまされる子供は入学してくるからな」

「それを狙うんだもの、本当に世の中の縮図なのね」

 人がどうするのか、高みの見物をするのが好きだったのかな。

 いい趣味とはいえないけれど、とりあえず収穫としておきましょ。




 遊び以外にもいろいろなことを、本人から直接聞けて。

 思っていたよりも多かった収穫に、大満足。


 ちょっと待って!

 まさか、あたしがおねえちゃんのふりをして猿芝居をしていたのを。

 素知らぬふりで続けさせ、泳がせていたのも。

 高みの見物をして、楽しんでいたかったからでは?




Copyright 2025 後落 超


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