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5話 彼女は誰だ

 部活動紹介。それは各部存続のため、新入生獲得のための説明会である。

 一年生全員が集められた体育館でそれは行われ、吹奏楽部に入部決定している皐月も例外ではない。


 まずは運動部から。

 陸上競技、野球、サッカー、バスケットボールから始まり、バドミントンもある。葵が気にしているかもしれないと思った皐月は、彼の様子を見るが、全く気にかけていないようだ。少し安心した。

 一通り運動部の説明が終わると、次は文化部だ。

 写真、コンピュータ、美術、演劇等から始まり、いよいよ吹奏楽部の番だ。


「一年生の皆さん、こんにちは! 吹奏楽部です。私達の一年は主に大会参加の他、定期演奏会や地域活動に力を入れています」


 主な大会四つに出ている。メインイベントとも言える吹奏楽コンクールはもちろん、マーチングバンド、アンサンブルコンテスト、ソロコンテストだ。定期演奏会は秋山高校の名前だけに秋に行われ、地域活動はオファーがあれば参加している。

 他にも野球部の応援、入学式のような演奏等、さまざまなイベントに引っ張りだこなのだ。


「そんな私達、二、三年の部員数は八十名ですが、吹奏楽は大勢でやるのも楽しいのです。初心者経験者問いません。皆さんにぴったりな楽器が見つかるかも知れません。まずは是非とも見学にいらしてみて下さい。お待ちしてます!」


 もう楽しみでならない。葵を連れて行く約束をしているものの、本当は今すぐ突撃したい衝動に駆られている。だがまだ待たなくては。


 説明会が終わった後、教室ではどの部活がいいか話題になっていた。中には部活動を行わずにバイトをする人、何もしない人もいる。

 そんな中で盛り上がっていたのは吹奏楽部。全国大会が魅力的らしい。強い部活に入りたいという想いは誰にでもあるのだろう。

 皐月も例に漏れず、女子達と話していた。


「佐山さんは吹奏楽? 昨日先生に話しかけられていたし、決まりかな」


「うん。今日から練習参加するんだ。みんなはどうするの?」


 楽器を吹く体験はしてみたい。他の部も見てみたい。運動をしたい等、さまざまな意見が交わされた。

 中で質問されたのはマーチングについて。皐月は簡単に説明した。楽器を吹きながらパフォーマンスをする事だと。基本の歩幅も決まっており、音が揺れないように上半身が動かないように歩かないといけないから難しい。皐月も中学は未経験だが、家で自主練したが上手く出来ない。


「何の楽器やってたの? 私、曙でアルトサックス。あれ、楽器持ってきたんだ。フルートなんだね」


「曙!? 袖で聴いてた! コンクールめっちゃ上手かった! 全国大会はどうだったの?」と皐月が食いつく。


「楽器持ってるの? すごい見たい!」


 皐月達が黄色い声で盛り上がり始める。晴巳達は一度視線を向けると話題に戻った。


「盛り上がってんな、女子。吹奏楽強いみたいだから入ってみるかな」


「晴巳どーすんの? やっぱりバスケ?」


「そうだな〜、俺はバスケ一択。吹奏楽って言ったらさ、そこの皐月ちゃん。中学の時のソロ、めっちゃ上手かったらしいよ」


 興味を持った男性陣だが、女性陣の賑わいの中に入るのを躊躇う。リクエストに応じた皐月が楽器ケースを開けて中を見せていたところだ。傷一つなく常に手入れされている銀色のフルートは美しい。


「見学の時にでも聴いてみるわ」


 晴巳と話していた男子の一人が皐月を見て思い出した。


「ん? 佐山さん、見覚えあると思ったら、和久井の好きな子じゃね? 合格発表の時の子」


「そ。昨日から葵の彼女」


 葵の彼女。その一言だけが女子の耳にすんなり入り、瞬間に教室内が湧き立った。

 しかし晴巳との話は聞いていないようで、皐月とは耳にしていない。葵の彼女は誰なのか、幼馴染の女の子という噂は翌日には流れていたようで、その話題も響き渡る。


「葵くんの彼女なら、可愛い子なんだろうな〜。美人かも!」


 顔を赤くして聞いていた皐月は脳内で全力で否定した。過剰な期待を寄せないで頂きたい。


「で、葵くんの彼女って誰!?」


 クラスメイトの女子に迫られた晴巳は、ちらりと皐月の方に視線をやった。両手の人差し指をクロスしている彼女は赤くなって困惑している。言わないで、と言っていると理解したが、難しい事を頼まれた気分だ。

 するとそこは天の助けが。


「おーい、ホームルームやるぞー」


 担任の柳原が教室に入ってきたのだ。

 ほっと安心した皐月と晴巳。皐月が彼女だと知れ渡ったらどうなるのか、心臓の音が煩くなるほど焦りを感じたのだった。


「部活動見学は本日から一週間だ。うちの吹奏楽部も初心者経験者関係なく歓迎するぞ。バイトするなら届をする事。だだし、何をしようがあくまで学業優先だ。それだけは忘れないように」


 そんな感じですんなりとホームルームが終わった。

 待ちに待った吹奏楽部の部室に行く前に、再び話題は葵の彼女へ。


「ヒントは幼馴染のさっちゃんでしょ? サ行の人だよね。幼馴染なら泉河の人じゃない?」


 まるで犯人探しだと、皐月は冷や汗を流す。

 この後の部活動見学は吹奏楽部の部室まで葵を案内しない方が良さそうだ。それぞれ吹奏楽部の部室へ向かおうと葵にCoPeoで送ろうとした時だった。


「晴巳、さっちゃんの席どこ?」


 葵の姿と声を察知した女生徒の瞳がギラリと光った。


「悪い、今は都合が……。向こうで」


 自分への視線から何となく察した葵は「いいや、先に行ってるから」と言うと、晴巳と皐月の事を話していた男子生徒がポツリと呟く。


「大変だな、和久井も佐山さんも。……あ」


 ほんの数秒静まり返り、その呟いた男子生徒が焦った。それと同時に沸き立ち葵と皐月へ視線が行く。


「佐山さんが葵くんの彼女!?」


「ええと、佐山……、皐月! サ行だ……」


「月丘出身だよね。全然違う学区じゃん。幼馴染ってどういうこと?」


「どうやって葵くんを落としたの?」


 皐月に集中する女生徒たち。非常に困る質問を投げかけられ、頭がぐるぐると回る皐月。彼女だという実感がまだないだけに、何を答えればいいのかも不明である。


「頼むよみんな、さっちゃんを困らせないで」


 騒ぎの中、皐月を救い出そうと女生徒の束に近づいた葵の言葉に静まり返り返った。


「ごめん、俺のせいで」


謝る葵に、皐月は首を横に振った。


「行こう。鞄持とうか?」


「だ、大丈夫」


 ささっと鞄と楽器を持つと、葵の背を追いかけるように皐月は「また明日」と言って教室を後にした。

 その後も教室内の話題は皐月と葵で持ちきり。


「助けに来たって感じよね、葵くんかっこいい」


「葵くん、ああいう普通の子がタイプなんだ。もっと美人な子だと思ってたからショック」


「真っ赤になって困る佐山さん可愛かったな。泣かせてみたい」


「お前歪んでるって言われない?」


 そんな賑わいの中、相模だけは冷静だった。教科書を整え、筆記用具を片付けると鞄の中に整理しながら入れ、立ち上がる。


「あ、相模さん、またね」と声をかけても「ああ、また明日」と無表情で去った。

 その印象が他の女子生徒には苦手なようで、愛想がないように感じられてしまったのだが、本人は違う。


(ちゃんと笑えたかしら。佐山さんはいいなぁ、くるくる表情変わって。羨ましい。……いけない、行かなきゃ)


 時計を見た楓は、足早に学校を後にした。




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