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皐月と葵〜恋愛初心者同士の付き合い方〜  作者: 青枝沙苗


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12話 初合奏

 多忙を極めていた皐月達吹奏楽部。初心者達の役割が決まった。皐月達フルートパートには一名、矢澤瑠奈が新しく入った。


「矢澤瑠奈ですぅ、よろしくお願いしますぅ」


 ゆっくり独特の喋り方だという印象がある皐月に対し、二年生軍団の女子二人佐藤弥生と相沢睦美は頭に筋が見え隠れしている。苦手なタイプなのだろう。真顔で弥生が聞いた。


「なんて呼べばいいの?」


「ルナでお願いしますぅ。でも、みんなから鈍臭いからドンルナとかビリルナのか言われてますぅ」


 自信がなくしょんぼりと首を垂らしている。表情筋が緩んできた弥生と睦美は顔を見合わせ質問した。


「マーチングの練習、辛くない?」


「もうダメダメですぅ。一番後ろで追いかけるので精一杯ですぅ」


 根本的に合わないのでは、と考えたが瑠奈曰く鈍臭いのを治したいから吹奏楽に入ったという。

 喋り方が苛立ったものの根はいい子だと判明した事で歓迎し、自己紹介を始めたのだが同級生同士の挨拶ではーー


「田原ビーナスだけど、菜奈って呼んで」


「あっ有名なドキュンネームの人ですねぇ。会えて嬉しいですぅ」


 悪気がないと分かっててもビーナスこと菜奈が怒る寸前だった。切り替えようと間に入った皐月に至ってはーー


「さ、佐山皐月。皐月って気軽に呼んで」


「わぁ、葵くんの彼女の人ぉ。特別美人でもかわいいわけでもないって話、本当ねぇ」


 皐月は凍りつき、涼はショックを受け、他のパートメンバーは複雑な表情になった。

 皐月自身も普通だと分かっている。瑠奈のようにふわふわして可愛いわけではない。それでも毎朝一緒に登校しているだけでも十分ではないかと皐月は考えたのだが、果たしてそれで良いのだろうか。


「それより練習しましょう! スプリングコンサートもコンクールのオーディションも近いですから」


 ももと涼は皐月が何やら考え込んでいる事に気づいていたが、この時は触れなかった。だがももは瑠奈に言う。


「あなたがとっても素直だってことはよく分かった。言葉を選ぶことを覚えましょう。田原さんの事は菜奈って呼んで。堤はフラワーじゃなくて花で。いいわね」


 練習が始まると、まずは運指を覚えるところから始まる。瑠奈の場合は楽譜の読み方を教え、ももの練習時間が無くなる。

 そのため三年生が交代で教える事になった。良くも悪くも瑠奈はとても素直にうけれる。皆に追いつこうと必死になっていた。


 そんな1年生が入って初めての基礎合奏は生徒達で行う。最初は音程が合わなくてもいいから基礎合奏に入れるのだ。その中には、トイレで皐月を呼び捨ててにした一年生二人もいた。結局ホルンと打楽器になったらしい。

 コンサートマスターのクラリネットの三年生は、皐月と涼の交互にピッコロに切り替えるよう指示した。全体のバランスを見たいという。


「うーん、涼は繊細なのよね。それはそれでいいんだけどもう少し厚さが欲しい」


「はい」


「皐月ちゃんは音の幅が課題ね。とてもパワフルでいいんだけど」


「はい」


 その基礎合奏をしている間、そっと顧問の柳原が入ってきていた。コンサートマスターと同じ考えのようで頷いている。

 一区切りすると、柳原への挨拶から始まった。それではスプリングコンサートの合奏から始めるのだが、初心者の一年生達はこの日は見学である。演奏を観ることも大事だ。


「とりあえず流しで。中川と佐山は交互にピッコロとファーストやって」


 スプリングコンサートは二部構成で合計六曲とアンコール二曲で検討中だ。正式に入部となったのでこの日が初めての合奏がであり、練習時間は三日程度だった。皐月と涼は誰が振られてもいいようにピッコロとファーストセカンド両方のフルートの譜面を練習していた。

 ちょこんと座って見学していた瑠奈は凄いと目を輝かせていたのだが、皐月を呼び捨てにしていた一年生二人は自分も出来ると馬鹿にしていた。


「後ろの一年生、黙っていられないなら帰っていいぞ」


 牽制するとピタリと止まった。

 一通り通した後、新しい楽譜が配布された。曲の構成を悩んでいることもあり、初見でやってみるというのだ。フルートとピッコロのソロがある。


「クラのソロ草野、フルートは渡辺、ピッコロ佐山。次は新山、相沢、中川で」


 二度やるというが、そこにいきなり皐月が入っている。本番ではないのに緊張が走った。

 初見で楽譜を追いながら本番さながらで皆挑んでいる。全国大会のレベルの部活はレベルが高いと体感しながら、さっきのソロの出番。多少間違いはあったが、何とか吹き切った事で安堵した。

 次の中川涼はさらっとこなしたので、素直に尊敬した。練習から涼は上手いと知っていたが、合奏になるとまるで人が変わったように上手くなる。


 いくつかの注意点とその分を合わせる合奏の続きを行い、その日の最後はついにオーディションの宣言になった。


「まず、スプリングコンサートは全員出てもらう。一部は二、三年生と経験者、二部は初心者のみんなも入ってもらいます。一部の一曲目はさっき初見でやった曲に変える。で、ピッコロ、Sクラ、ソプラノサックスと、ソロのオーディションをします。ソロはファーストだろうがセカンドだろうが関係なくやるのはいつも通りだから、みんな気合を入れるように。当然、一年生が上手いなら一年生にやってもらう」


 にやりと笑う柳原。反応はまばらだが焦る二、三年生の様子がちらほらと見える。


「コンクールのオーディションはスプリングコンサート翌日にやるからな。オーディションに合格したとしても赤点とったら補習優先だ。コンクールにも出さない。文武両道を目指す様に」


 部員の脳裏に浮かんだ。テストという単語。吹奏楽コンクールの地区予選の前週は校内テストが控えている。大会に出たいがために、勉強を頑張るしかない。


 風呂上がり、皐月は部屋ベッドに寝転がりながら杏と葉子へCoPeoでやりとりをしていた。もちろん吹奏楽の報告だ。


『さすが全国レベルの秋山だね。オーディションとかきっついわ』と葉子。


『皐月なら大丈夫って言いたいけど、もも先輩がいるのよね』と杏からだ。


『もも先輩めっちゃ上手くなってたからファーストは確実だよ。ピッコロの先輩もみんな上手くて自信ない』


『皐月なら大丈夫っしょ。それよりもっと報告すべき事があるのではないかな?』


『部活で忙しいからって放置してないわよね』


 部活以外で杏と葉子に報告する事があるだろうか。葵と付き合い始めた事は伝えたので、他にはないはず。

 何のことか聞いてみると、二人から激怒のスタンプが送られてきた。


『葵くんとの進捗に決まってんでしょーが!』


『もうすぐ二週間、どこまで進んだの?』


 どこまでと言われても皐月にはピンとこない。ここから親友達による皐月攻めが始まるのだ。

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