10話 バイトの面接
葵と一緒に登校をしては早くも一週間が経過した。最初の土日はさっそく部活があり、夕方は家族と外食する予定があるという。最初の土日に一緒に居られず、葵は少し残念に思っていた。だがその分CoPeoのメッセージやりとりで復活を果たしている。
「今日だよね、バイトの面接。ホールとキッチン、どっちにするか決めたの?」
メッセージのやりとりで悩んでいるという事を話した。和俊と同じファミレスで、友人はキッチンをやるという。自分はどうするかまだ悩んでいたが、心は決まっている。
「ホールかな。ホールだったらさっちゃんが来たらすぐ分かるし」
さらっと言う葵の一言に、皐月の口元が緩む。葵の働いている姿を見たいため、どこかで行こうと思っているものの、実際に口にされると照れてしまう。
照れていると分かると、葵の口元も緩む。皐月が来る前におそらく晴巳が来るのが早いだろう。それでも皐月が来るときが楽しみでならない。その前に面接に合格しないといけないのだが。
その日の授業終了後、皐月は葵へ『頑張って!』と応援のメッセージを送った。これだけで勇気と元気が貰える葵の頬がどんどん緩んでいく。
和俊は葵より先にバイトを始めており、共に店に向かいながら様子を聞いている。
バイト先のファミリーレストランは制服が支給され、賄いは数百円で好きなものを食べられるという。賄い代は給料天引き。バイト先の先輩たちがとてもいい人達で、仕事の説明も丁寧だという。
和俊が選んだのはキッチン。理由はこうだ。
「注文はタッチパネルだしホールでもいいかって思ったけど、少しでも母さんに楽させたくてさ。もっといろいろ作れるようになって、いろんな晩飯とか弁当を用意出来たら母さんも喜ぶだろうし」
何とも和俊らしい考えである。中学でも家で料理をしていた彼は、もっとバリエーションを増やしたいと考えていたのだ。少しでも多くの料理知識があるに越したことはない。
「今でも十分いろいろ作ってんじゃねえの?」
「そこそこな。だいたい晩飯の残り詰めてるようなもんだし。ネットでいろいろ探して作るのも楽しいけど、レパートリーがな」
「ワンパターンになりがちってことか。料理か……」
休みの日、皐月とタイミングが合えば料理を作ることも楽しそうだ。作って皐月に食べてもらうか、一緒に作るか、妄想が膨らんでいく。
そもそも皐月の好きな食べ物は何だろう。猫が好きな事は知っているが食べ物は知らない。先日は家族と外食をしたというが、どこへ行ったのだろう。よく考えたらそこまで皐月の事を知らないのでは。
「お前、今佐山さんの事考えていただろ」
「何で分かるんだよ」
「最近、お前の話題のほとんどが佐山さんだからな。店に来る想像でもしてた? 佐山さんも部活で滅多に来れねえだろうに」
「いや、一緒に作るか作って食べてもらうか……」
和俊が信じられないものを見るような目で葵を見た。妄想が進んでいる男が心配になってくる。そもそも皐月と再会してから早いペースで彼女にのめり込んでいっているのだ。文通している時は楽しそうにしていたが、十年の距離を埋めるように皐月で頭がいっぱいになっていっている。だが、本人にその自覚がない。
「……いいんじゃねえの。きっと佐山さんも喜ぶだろうし」
「そっか、喜ぶか。俺も料理覚えてみるかな。教えてくれよ和俊」
「ネット見ろよ」
そんな皐月脳になっていた葵は、ようやく面接脳に切り替わった。和俊に面接の様子を聞き始めたのだから。ようやく抜け出したのだと、ほっとした和俊。
面接自体は簡易なものだが、葵は左腕の事があるので正直に話した方が良いこと、翌年の話だがプレートを外す手術がある事も話す方がよい事を話した。あらかじめ入院することが分かっているなら、それを事前に話しておくに越したことはない。
「バイトの面接って受験よりハードル高そう」
「そりゃそうだろ。母さん曰く、バイトだろうと対価として給料が発生してるから、遊びじゃねえから生半可でやるなってよ。将来仕事するようになったら嫌でも分かる。だから働く以上は今から就職したつもりでしっかりやれって」
「だったら今こんな腕で、来年入院するって分かってる人雇うかよ」
「さあな。あ、こうも言ってたぞ。明らかにブラックなとかもあるから、ダメだと思ったら会社毎見限るって。矛盾してるだろうけど、見極めろって言ってた」
到着したファミリーレストランの中には、ちらほら客がいた。和俊は葵をバックヤードに招くと店長に紹介し、自身は着替えるためロッカーへ向かった。
店長は五十代前後だろうか。とても穏やかでダンディという言葉が似合う男性だ。葵を小さな休憩室に案内すると、早速記入用紙を提出した。履歴書代わりらしく、簡単に書いてくれればいいという。学歴、まだない職歴、アレルギー情報や自宅からの距離、希望はホールとキッチンどちらかなど、基本的なものを書いて提出する。
一通り目を通した店長は、ふむ、と話し出した。
「ご両親の承諾は頂いているんだね?」
「はい」
「九十九くんの紹介だから彼からも話は多少聞いているけど、腕は大丈夫?」
前年の夏に左腕を複雑骨折をし、日常生活には支障がなくなったものの重いものがあまり持てないこと、翌年秋にはプレートを外す手術が必要なことを説明した。しっかり頷いて聞いている店長に安心感を覚えた。
「なるほど。ホール希望って事だけど、うちの店はある程度料理をロボットに運んでもらっているものの、忙しい時は自分達で運びます。こう、片手で持って行くこともあるんだけど、やってみるかい?」
左腕でトレンチを支えて料理を出す真似をした店長は、実際の皿を持ってきたものの、そこで葵が左利きだからトレンチを支えるのは右腕だと気づいた。
そこで右腕で支えて左手で料理を出す真似をしてみる。料理がある事を考慮しても問題なさそうだ。
「体が資本だからね、もし腕が辛くなったりしたら言ってね。それに小さいお子さんのいる家庭もある。子供の体調が悪くなったら休んだり早退するから、互いに協力し合っているんだよ。それに君たち学生はテスト期間もあるだろう。休んでくれて構わないから。あ、でも自分で出したシフトの希望は守って下さいね。なるべく希望に合うように調整はするから」
驚いた事に面接は合格した。両親に報告したうえで最終意思を連絡し、アルバイト雇用になるという。最短で週末から始められるらしい。
早速、皐月へ連絡した。部活が終わったであろう夜八時以降に、皐月から返事があった。
『おめでとう!』
相変わらず短文だが、それでも満足だ。




