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異空間が消え、気づけばもう夕暮れ時の街角。
ビルの窓に反射する橙が、どこか気だるい日常を思い出させる。
何事もなかったように現実に戻ってきた二人。
でも、その空気は少しだけ違っていた。
主人公は擬態を戻し、人間の姿になっている。
けれど、ほんの一瞬前に見せた“正体”──怪異の本当の姿は、潤の脳裏にバッチリ焼きついていた。
「……なぁ」
潤がぼそっと呟く。
「お前、見た目、こっっっわ」
「それな」
主人公は他人事のようにあっさり頷く。
「いやマジで、なんかもう、クトゥルフ神話に出てきそうだったぞ? めっちゃ触手だし、目ん玉めちゃくちゃあったし、どう見ても人類の敵だし!」
「触手は便利なんだよ? ハサミとか要らなくなるし、荷物も持てるし……ほら、多機能って大事じゃん?」
「キッチン家電かお前は!? いやもう多機能とかじゃなくて、ヴィジュアルがホラーのラスボスなんだよ! 人の形してねぇ!!」
「いやあ……自分でも鏡で見たらビビったもん。初日、家のトイレでうっかり擬態解いたとき、マジで叫んだし」
「自業自得だろそれ!」
潤はしばらく頭を抱えて呻いた。
「くそ……“死んで強くなって戻ってきた”って……ジャンプ漫画かよ……」
「ありがちだけど、現実だとめちゃくちゃややこしいなって思った。なにせこの見た目だし」
「うん、いやほんとそれ。心が君でなかったら俺もう十回は祓ってるからな」
「さすが霊媒師……殺意高い」
「お前が怪異でなかったら言わねぇよ!」
でも、そんな怒鳴りながらも、潤の顔には笑みが浮かんでいた。
「……なんだかな」
主人公も肩をすくめながら笑った。
「まさか俺が死ぬとはなぁ。しかもこんなかたちで帰ってくるとは思わなかったわ」
「ま、でも……お前が帰ってきてくれて、よかったよ」
「潤……お前、ツンデレ?」
「殴るぞてめぇ」
「わー謝る謝る、俺もう人間じゃないから物理効きづらいけど!」
「やっぱ祓おうかな!」
夕暮れの街に、二人のくだらないやり取りが響く。
でもそれは、確かにあの日のまま──
“親友”としての変わらない証だった。
そして、奇妙な“第二の人生”が、ここからまた始まっていくのだった。