第1章・第31話 捕らわれた由子
ピィーイ、ピィーイ
笛の音が周囲に木霊し、ガサガサと竹藪が揺れた。笹の葉が、不自然に螺旋を描いて視界を奪った。
それと同時に弩やクナイ、飛刀や千本手裏剣などが隙間無く飛び交って襲って来た。
由子は常人離れした身のこなしで、攻撃を躱わしながら飛燕剣で全て叩き落とした。そこへ黒装束の者らが5人同時に突き、更にその上からも踊りかかって来た。
上に逃げられず、息の合った同時突きをギリギリで下に転げて躱わし、その足を斬って置き上がった。間髪入れずに6人が同時に頭上から剣を振り下ろし、由子は左手の剣でそれを受け、神速の斬撃を繰り出して6人を瞬殺した。
これほどまでの連続攻撃を受けても尚、身に掠らせる事すら無かったが、呼吸が乱れて来た。
無影は息も吐かせぬ連続攻撃で、由子を仕留める為に次々と新手が現れた。だが、驚異的な体術で捌き、まるで剣舞を舞う様な身のこなしで剣を一閃する毎に死者が増えた。
由子は体力を温存する為に、流して戦っていた。それが見てとれるので、無影達は「馬鹿にするな!」と憤った。
およそ300人ほど斬った所で、無影の新手は現れなくなった。最後の1人が斬られる前に、任務失敗を報せる花火を打ち上げた。
由子は、新手が現れる前にその場を急いで離れた。すると間合いを取りながら、付かず離れずを繰り返して引き離せない者がいる事に気付いた。
「チッ、誰だ!?」
「久しいのぉ。小璘」
「是你?(あなたなの?) 師傅!(師匠!)」
小璘と言うのは、無音が名付けた由子の幼名だ。2人は、およそ5年ぶりの再会であった。
「小璘よ、ようも我が手下達を殺してくれたな?」
「師傅 (師匠)の手下?では無影と言うのは…」
「そうとも、この儂が創った組織じゃ」
無音が平然と間合いを詰めると、由子は後退りした。
「今、正体を明かして、私の前に現れた目的は何だ?」
「お前だよ。お前が欲しい」
「私が欲しい?斉に降れと言う事か?」
「ふふふ、美しくなったな小璘。お前を抱きに来た」
「私を…?」
無音が近づくと、由子は身構えた。
「育ての恩をまだ返していないが、私は子を生んだのだ。そうで無ければ恩返しに、抱かれてやっても良かったんだがな」
「子を生んだだと?誰の子だ!?」
「私と対等でいられる相手だ」
「まさか、馬光か?」
そう言うなり、無影歩法で間合いを詰めて来た。由子もまた無影歩法で一定の距離を取り、無音の間合いに入らないように保った。
師弟対決は、本気になれない由子が不利であった。飛燕剣を使えば、無音に勝ち目は無かっただろう。しかし老練な忍は、間合いを詰めていると見せかけて辺りに毒を撒いていた。
毒と言っても麻痺毒に近い。筋弛緩剤に似た効果があり、吸った者は身体に力が入らなくなる。由子は「しまった」と思い、風上に回ろうとしたが既に毒が回っており、無音に捕らえられた。
「ふわぁははは。お前さんも、まだまだじゃわぃ。甘いのぉ。儂を斬れなんだ情を憎むと良い」
手足を拘束されて担がれた。とても齢70歳を過ぎている様には見えない。
「ふふふ、たっぷりと可愛がってやるでのぅ。楽しみにしておけ。小璘が、どんな声で喘ぐのか聴かせてもらうでな。ふわぁははは」
「…」
由子は、毒の為に口も自由に動かせなくなっていた。
「由子が戻らないだと?」
「はい、すでに四刻(2時間)は過ぎています」
由子は、刺客を追って行った。あれほど強い由子に万が一は考えられないが、用意周到に張り巡らされた罠であったなら、絶対に無事だとは言い難い。
「由元帥を探せ!」
手分けをして捜索させると、1㎞ほど離れた竹林で争った形跡があり、更にそこから300m離れた場所から轍の跡が見つかった。轍の跡とは車輪の跡の事であり、馬車が隠されていた事が分かる。
また、馬光が現場を確認すると、足跡に由子のものがある事が分かった。争った形跡はあるものの遺体は残っておらず、その馬車に積んで証拠を消した可能性が考えられた。
そうなると、由子は無事では無い恐れが出て来た。彼女が無事なら、仲間の遺体を回収して去る余裕などないからだ。
「3百騎ほど付いて来い!」
馬光は、機動力を活かせるだけの兵を率いて馬車の後を追った。
「ううん…」
「気が付いたか?」
無音は、露わになった由子の太ももを撫で回していた。
「可愛いのぉ。愛しい、愛しい娘じゃ」
「… 師傅は、私の事が好きなのか?」
「ああ、愛しているとも。共に暮らしておった時、何度も襲いたくなる衝動を抑えておった」
「そうなの…」
太ももを撫でられる事に嫌悪するどころか、むしろ足を広げて触りやすくした。
ヌチョっ
無音は遠慮も躊躇いもなく由子の大切な秘部に触れ、指を入れたり出したり或いは膣内を掻き回したりした。
「ああっ…んっ。くうっ…」
「ははは、気持ちいいか?そうか、そうか」
由子の反応に満足して、気分が良くなった無音は、彼女に口付けをして舌を絡めた。由子は嫌がる事なく、自らも舌を絡めた。
由子は両親を知らず、親代わりの姉に育てられた。その姉が亡くなってからは、無音に育てられた。
修行は厳しく、何度も挫けそうになったが、姉の無念を思うと耐えられた。いや、それだけでは無い。修行に成功すると、 師傅(師匠)は優しく頭を撫でてくれた。それが嬉しかった。
1人でも生きて行ける様にと、獲物の狩り方や魚の獲り方、食べられる山菜や薬草、毒キノコの見分け方まで教わった。
厳しくとも優しさが見え、自分が高熱でうなされた時は、熱が下がるまで看病してくれた。父親を知らぬ由子にとっては、初めて接する優しい男性であった。
育ての親であり 師傅(師匠)でもある無音に、恋心など持ってはならないと自分に言い聞かせた。
そう、由子にとって無音は、初恋の男性であったのだ。女の子の初恋の相手は大抵が身近な父親であり、「大きくなったら、お父さんのお嫁さんになる」と言うのは良く聞く話だ。由子も例外では無かった。
だが、まだ20歳の由子に対して無音は、70歳を超える老人だ。気持ち悪く無いのか?と思ってしまうのだが、幼い孫が可愛くて口付けをし、「おじいちゃん、お口臭い~」と言われても口付けを拒まれたりはしない。
それと同じ感覚なのかも知れない。孫は、おじいちゃんを嫌いな訳では無いので口付けを受け入れるのだ。
由子は人妻となり、子を生んだ。しかし、そこに恋愛感情があったのか疑問だ。
馬光とは、その場の雰囲気の流れで肉体関係となった。妊娠してしまった為に、簡易的に婚姻関係を結んだ。
だが馬光とは違い、無音に対しては間違いなく恋愛感情があった。好きだった人が、自分の身体を求めているのだ。抵抗など出来るはずも無かった。
抵抗する気配が無いので、挿入するには邪魔となる足枷を外した。由子の足を開いて体を差し込み、上半身を肌けさせて形の良い膨らみを揉みしだいた。
「愛しい、愛しい娘じゃ」
「ああ…うっ…イっ、気持ちいい…はぁ、はぁ…んっ…」
由子は馬車の中で、ほとんど全裸になっていた。
「ふふふ、可愛い娘じゃ。鬼の様に恐れられたお前も、1人の女だったのじゃな?安心したわぃ」
そろそろ頃合いだろうと挿入する為に押し当てると、愛液でヌルヌルの秘部に吸い込まれそうで、押し当てただけで気持ち良くてイキそうになった。
「報!馬光が、こちらに向かって来ます!」
馬光の名を聞くと、由子は肌けた服で胸を隠して強張った。浮気の現場に、夫に乗り込まれた妻の心境だ。
それと同時に、2人を戦わせてはいけないと思った。少なくとも馬光は夫であり、 師傅(師匠)の無音は愛した男だ。
それに何よりも、馬光では 師傅(師匠)には勝てないと思った。夫を殺させる訳にはいかないと思い、急いで服を着ると馬車から飛び降りた。
一瞬の事であり、しかも自分に身体を預けて喘いでいた女が、馬車から飛び降りるなど予測不能で対処出来なかった。
そこへ馬光が兵を連れて追いついた。無音は舌打ちして、そのまま走り去った。
「大丈夫だったか?」
「あ、ああ…大丈夫だ」
馬光が手を差し伸べると、その手を取って騎乗した。彼の腰に腕を回し体温を感じると、最後までヤらなくて良かったと反省した。
「对不起(ごめんなさい)、阿光…」
聞き取れない様に、か細い声で謝罪した。幕舎に戻ると、馬光は由子に纏わり付かれた。
未遂だったが浮気をしてバツが悪く、懺悔の意味も含めて優しく接した。結局未遂で終わった為に身体の火照りは収まらず、自分から求めて馬光と床を共にした。
男は好いた女子から、積極的にHを求められて拒める者などいない。日頃の由子を知っているなら、今夜はまさにツンデレだ。
馬光は、助けられたのが嬉しくてご機嫌なのだと思った。しかし実際は、浮気をした清算で夫に優しくしているだけなのだ。
この様に妻や彼女が突然、自分に優しくしたのなら疑ってかかるべしだ。自分に隠れて浮気をしているかも知れない。




