セールス上手な鍛冶屋さん1
食べ歩きをしながら辿り着いた鍛冶屋の店内は、鉱石と火の匂いが混ざり合った独特の空気で満たされていた。
観光客向けのお土産横丁にある鍛冶屋とあって、店内には女性客も多い。
壁には短剣や長剣がずらりと並び、見ているだけで何だか気が引き締まる思いに駆られた。
(そう、三十分前はそういう気持ちだったのに……)
私がつい、薄目になってしまうのは、目の前で熱心に短剣を選ぶアシェルのせいだ。
「こちらの短剣も、キャメロン王国で産出される、鋼よりも強く特別な力を持つ鉱石、ミスティラルを素材にしたものでございます。ぜひお手に取ってご覧ください」
店員さんの青年はショーケースの中から、透き通るような青白い剣身を持つ短剣をうやうやしく取り出すと、カウンターの上に広げた赤いベルベットの上に置いた。
「ミスティラル鉱石は、魔力の伝達効率がきわめて高いとされておりますので、近隣国であるルミナリウム王国で活躍される名のある魔法使いの皆様にも大変人気のお品となっております。さらに!」
青年は目をカッと見開く。
「わたくしどもの工房で制作される剣はすべて、剣身に高純度のミスティラルを含有させてありますので、切れ味においては他の工房の追随を許しません」
「ふむ」
真剣な表情をしたアシェルが相槌を打つ。
「さらにこの短剣は軽量化の魔法も施しておりますので、長時間にわたってご使用いただいても腕への負担は最低限で抑えられます」
「へえ……」
感心しているふうを装う声を出したものの、内心思う。
(つまり切れ味抜群な魔法の短剣ってことでしょ?)
ショーケースの上にずらりと並べられた短剣をじっと見つめる。これはかれこれ三十分以上、接客され続けた結果だ。
「ミスティラル鉱石は、極めて精密な加工技術が必要だと聞いたのですが」
アシェルが口を挟むと、青年の目が輝いた。
「お詳しいですね! そうなんです。ミスティラルは非常に硬度が高く、加工中の温度管理を一瞬でも誤ると内部構造が崩れてしまうので、熟練の鍛冶職人でも苦労する素材なんです!」
「なるほど。それに魔法を付与するとなると、硬度とエーテル伝達力の両立が求められる上に、使用する魔法陣の設計も専用のものが必要となるのか。特にこの短剣のように、軽量化魔法と切れ味強化を同時に付与する場合、魔法陣の結界部分をどう設計するかで……」
「そうなんです! その通りでして!」
アシェルと店員さんは目を輝かせながら、鍛冶職人の技術や魔法付与の難しさについて熱弁し始めた。
(え、何この空気……。完全に置いてけぼりなんだけど)
二人の会話はますます専門的になり、私には完全に理解不能な領域に突入している。
(たぶん、この店員さんは、人生でこんなに話が通じるお客さんに会ったの初めてなんだわ)
ため息をつきながらショーケースに肘をつき、話が終わるのを待つことにした。
しかしその後、さらに十分は熱弁が続いた。
(どんだけ短剣に熱いのよ、あの二人……)
ふと私そっくりな見た目をした、兄ロティシュの顔が浮かぶ。
(お兄様は確か鉱石マニアだったような。となると、アシェルと絶対に引き合わせたらダメ。混ぜるな危険だわ)
嬉々として語り合うアシェルと店員さんを眺めて、密かに誓う。
「アシェル。ちょっとあっちの女の子用っぽい、ショーケースを見てきていい?」
盛り上がる会話の合間に隙を見つけて、すかさず割り込む。
「どうぞ」
アシェルはすんなり頷くと、すぐに店員さんへと向き直る。
(よし)
小さくガッツポーズをして、奥にあるショーケースの方へ移動する。




