油断すべからず3
「そう言えばお姉様は、飛行船の中で見知らぬ紳士に骨付き肉をもらって、眠くなったって言ってたわ」
早速アシェルに情報を共有する。
「だとすると、そいつもグルかもな。騒ぐと面倒だから、睡眠薬入りの肉を与えたのかも知れない。あいつらは大きな窃盗団の一味なんだろう」
スペルタッチに指を滑らせながら、彼は続ける。
「手口はこうだ。飛行船内で金持ちや貴重品を持つ目ぼしい乗客を見つける。そして、スペルタッチを使い地上待機組に、ターゲットの特徴をあらかじめ伝えておく」
「なるほど。それで不慣れな土地に到着して、事情がわからない観光客を集団で取り囲み、一人が気を散らしている間に、効率よくスリをするってわけね」
状況が整理され、怒りが込み上げてきた。
(特に許せないのは、お姉様に睡眠薬入りの骨付き肉を与えたことだわ)
姉の死因は睡眠薬の過剰摂取によるものだ。その事実が頭をよぎり、さらに私は怒りに震える。
「窃盗団に子どもを巻き込むなんて、世も末だわ」
腕組みし、ふんと鼻を鳴らす。
「まぁ、君のことを侯爵令嬢だと見抜いた時点で、いいカモだと思ったんだろうな」
「なんで?」
「あいつらからしたら、金持ちに見えるだろうし、何より世間知らずだから」
「ひどい、悔しい、ムカつく」
人を馬鹿にしてと、詐欺集団に叫びたい気持ちに襲われる。
(でも私は、確かにまんまと奪われた状況だわ)
間抜けにもほどがあり過ぎる状況に、落ち込む気持ちで頭を抱える。
「とりあえずこんな感じでどうだろうか?」
彼がこちらに向けたスペルタッチの画面には、「拡散希望★羽が青く光るカラスを探しています★」とフレアスクロールの下書き画面が表示されている。しかもちゃっかりハッシュタグで『#キャメロン王国』と入れてあった。
「さすがアシェル。仕事が早くて助かるわ」
落ち込む気持ちが、即座に浮上する。
「まぁ、今回はプロの仕業だから、前回のようにあっさり見つけられるかどうかは怪しい。ただ、販売経路を絶つ意味でも、拡散しておくのは無駄ではないだろう」
「そうよね。もしかしたら犯人が身代金を要求しようと、DMで接触してくるかも知れないし。最悪お金が足りなかったらフィデリス殿下に、支え合いの精神代の追加を強請ればいいわ」
道が開かれたと、胸の前で拳をつくる。
「……君たち姉妹の思考回路には、時々ついていけない」
アシェルはため息をこぼした。
「とりあえず、投稿するぞ」
「うん、お願い」
彼はスペルタッチの画面に指を滑らせ、投稿ボタンを押した。
「よし。後はこの辺の治安官事務所に被害届けを提出し――」
「駄目よ」
慌ててアシェルの声を遮る。
「なんでだよ。盗難に遭ったんだぞ?」
彼は悪態をつくように告げる。
「いい?私たちは家出中の身なのよ?しかもあなたの両親は、キャメロン王国にあなたが向かおうとしていたことを知っている」
「ふむ」
彼は腕組みをし、片方の手で顎をなぞった。
「私を嫌う両親に限って、ないとは思うけど」
前置きしてからアシェルに身を寄せ、声を潜める。
「お互いの両親がルミナリウム王国の治安官に私たちのことを知らせていた場合、『家出人』としてキャメロン王国の治安維持局に捜査協力を要請しているかも知れないわ」
「確かにな」
アシェルは頷く。
「だから、私たちは自力で犯人を捕まえて、お金を取り返すしかないってこと。絶対逃さないんだから!」
拳を握り立ち上がる。するとアシェルは苦笑いしながらスペルタッチをポケットにしまい込む。
「家出するには、君くらい前向きな人間と一緒の方がいいのかもな。いや、前向き過ぎるから家出なんて思いつくのか……」
「アシェル、なにぶつぶつ言ってるの?」
「いや……。まずは、鍛冶屋に行こう。物騒な場所だということは身に沁みて理解したからな」
「オッケー。ついでに屋台で腹ごしらえもしましょ」
笑顔で告げると、つられたように彼も笑う。
「マイペースな君といると、最悪な状況も笑えてくるな」
「あなたはいつもひとこと多いわ」
アシェルを睨みつけながら、私の嗅覚はすでにめぼしい香りを嗅ぎ分けていたのだった。




