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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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油断すべからず1

 キャメロン王国の港に降り立った瞬間、目の前に広がった光景はまるで絵本から飛び出してきたようだった。


 石畳の道がくねくねと続き、赤茶色の屋根が広がる鮮やかな街並み。市場からは異国情緒たっぷりなスパイシーな香りが立ち込め、露天の店主と会話する話し声の中には、共通語に混じって私には分からない言葉も飛び交っていた。


「アシェル、早く戻ってきてよね」


 小さなベンチに腰を下ろしながら、若干不安な気持ちに襲われつつ、突如迷子探しをする不運に見舞われた彼を待つ。


 遡ること数分前。飛行船から降りた所で、デッキで私にぶつかってきた女性に捕まり、迷子の子どもを探してくれと懇願された。


 もちろん、正体が明らかになることを恐れている上に、親切心を必要最低限以下しか持ち合わせていない私は「急いでるんで!」と断り、その場を去ろうとした。


 しかし、「息子がぁぁぁぁ!!」と女性は私に絡みつき、中々離れてくれなかった。


 ほとほと困り果てていたところで、アシェルが「僕が探します……よ」と実に面倒臭そうに女性に告げて、その場を丸く収めてくれた。


 その結果私は、荷物番として残されたと言う状況だ。


「旅行中に子どもの目を離すなんて、信じられないわ」


 両手で抱えた鳥かごの中にいる姉に愚痴る。


「それに、私たちには百メートルの呪いがあるのよ?だから、アシェルが限界距離を突破した途端、私はこの人混みの中、宙を浮いて彼の元まで飛ばされちゃうの。そんなことになったら恥ずかしいじゃない」


 言いたいことを言い切った私は、頬をふくらませる。


「時差ボケかしら、それともさっき食べた骨付き肉のおかげかしら。すごく眠いわ」


 鳥かごの中に横たわり、トロンとした目で姉は告げる。


「え、骨付き肉?いつ誰にもらったの?」


「船内で、ロッテがアシェルと二人で仲良く昼食を食べてる時よ」


 恨みがましい視線を向けられた。


「食堂には、衛生上の観点から、動物の持ち込み禁止だって書いてあったんだから仕方ないじゃない」


「でも、すっかり私のことを忘れていたくせに。哀れに思ってくれた心優しい紳士が骨付き肉をくれなければ、私はお昼抜きだったわけだし」


「お姉様に好き嫌いがあるのが悪いんじゃない。私はちゃんとタラのフライをあげたでしょ?」


「私はあっさりした白身よりも、脂ののった魚がいいの」


「前はタラのフライが好きだったじゃない」


「この体になってから、味覚も変わったのよ。今まで黙ってたけど、何ならハチも食べたいし、イナゴだってよだれが出るほど、美味しそうに見えるわ」


「なんてこと!!」


 驚き、私は姉の入った籠をそっと横に置く。


「とりあえずお昼寝するから、宿屋についたらカァー、カァー」


 鳥かごの中にいる姉は、羽を折り丸くなると眠りについてしまった。


「ちょっと、お姉様」


(何となく青白い光が弱まっているような)


 ぐったりしているようにも見える姉に不安になる。


「どこか具合が悪いの?」


 心配になってたずねてみたけれど、機嫌を損ねた姉からの返事はない。


「ま、具合が悪かったら教えてくれるもんね」


(なんせお姉様は、喋るカラスなんだから)


 姉との会話を諦め、目の前に広がる光景を眺めながらアシェルを待つことにする。


 乗船場周辺には様々な露店が立ち並び、食べ物や怪しげな土産物を売る店が多く並んでいた。


 その中でもとりわけ賑わいをみせていたのは、広場に設置された大きな屋台だ。そこでは調理したばかりの魚介類や肉類を次々と網の上で焼いていた。串に刺された肉は程よい焦げ目がついていて美味しそうだ。


(ピンク色の魚なんて、美味しいのかしら)


 S字になるように串刺しされた、艶やかなピンク色をした魚を見て、素朴な疑問を抱く。


 そんな時だった。前方から急に、地図を広げた人が私に向かってやってきた。クルクルになった赤毛と顔の周りを囲むように生えたひげが特徴的な人だ。


 頭にカンカン帽を被り、リネンシャツにベージュのベストにパンツという、典型的な観光客の見た目をしている。


「◎△$♪×¥●&%#?!」


 彼は私の横に座ると、地図を広げて、指さしながら勢いよく話し始めた。


「え、えっと……」


 困惑する私に、さらに言葉の波が押し寄せる。


「○!※□◇#△!○▼※△☆▲※◎★●?」


「ちょ、ちょっと待って、わからないから!」


 慌ててスペルタッチを取り出し、翻訳アプリを開く。


「では、どうぞ」


 彼にスペルタッチを向ける。


「○!※□◇#△!○▼※△☆▲※◎★●?」


 スペルタッチの画面に表示される翻訳結果は「すみません。パルティーヌ遺跡に行くには、何の交通機関を使うのが一番いいですか?」とのこと。


「え、そんなの知らないし」


(なんで、観光客が観光客にその情報を聞くのよ)


 薄目になりつつ、翻訳アプリを使い「今調べてみます」と彼に伝える。


「▲☆=¥!>♂×&◎♯£!!」


 地図を広げ、にっこり微笑む赤毛の人。翻訳機には「ありがとう、あなたは親切だ!!」と表示されていた。


(ねえ、アシェル早く戻ってきて……)


 懇願しつつ、スペルタッチで魔導ネットワークに接続して早速ブラウザ検索する。


「ええと、パルティーヌ遺跡、行き方っと」


 スペルタッチに視線を落として呟いた時、背後から聞き慣れた声が響く。

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