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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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家出のはじまり2

「大丈夫か?」


 アシェルが私の顔を覗き込む。


「あ、うん……うわっ」


 お腹に回された彼の手に気付き、慌てて彼から離れた。


「危機一髪だったわ」


(色々な意味で)


 動揺して顔に熱がこもる。


「お、お姉様はどこかしら?」


 赤らむ顔を彼から隠すように、姉を探す。


 飛行船の中央には高くそびえる操縦塔があり、その上部には、大きなガラスのドームが輝いていた。ドームの中では、操縦士たちが飛行船の動きを見守りながら、複雑そうな魔導機械を操作している様子がかすかに見える。


 視線を木目の美しい床材が敷かれたデッキに戻す。するとデッキの隅に設置された木製のベンチの上でじっと羽を整えている姉を発見した。


「お姉様、こっちにくれば?とてもいい景色よ」


 手を振って呼びかける。すると姉は顔を上げて、羽をバサバサと一振りした。


「あれは、拒否しますってことね」


「そのようだな」


 アシェルは苦笑する。


「流石に喋るカラスはまずいと理解しているようだ」


「人の言葉を理解しすぎるカラスも怪しいけど」


「それを言ったら、青白く発光する羽を持つカラスもまず見かけないわ」


「確かに」


 姉を誘うことを諦め、私は再び眼下に広がる景色を眺める。


 広大な緑の大地が広がり、その向こうには青々とした海が見えてきた。


(いつまで、お姉様を騙せるかな)


 実のところ、実家に告げ口されることを恐れ、姉には家出の件を伝えていない。しかも、キャメロン王国で探し人テミスがすんなり見つかるかどうか不明なため、飛行船の切符は行きの分しか用意していないという状況だ。


(つまり、お姉様とアシェルと私。片道切符の旅ってこと)


 感情の赴くまま、家出を決行した私には、二度とルミナリウム王国の大地を踏みしめないという確固たる覚悟はない。


 段々と小さくなる故郷の大地に、後ろ髪を引かれる思いを抱く。


(って、まだ出発して一時間も経ってないのに、しんみりしてる場合じゃないし)


 未練がましく景色を眺めているのがいけないと、私は手すりに背をつける。


「アシェル。折角なんだし、親の目を離れてやりたいことを今から考えておかない?」


「親の目を離れてやりたいことか……」


 雲を見つめながら、アシェルが呟く。


「私はまず、キャメロン王国に着いたら、市街地にある屋台で食べ歩きをするわ。侯爵家の令嬢として絶対許されないジャンクフードをたらふく食べるの」


「屋台って……折角キャメロン王国に行くんだ。もっと高尚な目標はないのか?」


 彼は呆れたような視線を向けてきた。


「高尚な目標?例えば?」


「例えば……そうだな。歴史ある大図書館に行くとか。古い書物を見つけるために古本屋を回るとか、あとは遺跡巡りとか?」


「アシェルらしいね。確かに遺跡巡りは楽しそう」


「それから、鍛冶屋に行ってみたい」


「鍛冶屋?」


 キャンプでそれなりに日焼けしたとは言え、相変わらず色白でひ弱そうなアシェル。そんな彼と筋骨隆々、汗だくで仕事をしているイメージのある鍛冶屋が結びつかなったため、首を傾げる。


「エーテルに恵まれなかったせいで、キャメロン王国には魔法使いがいない。その代わり武器や防具は評判がいい。だから一度見ておきたいんだ。それに……」


 彼は少し言い淀んでから続けた。


「家では禁止されてる、実戦用の短剣なんかも、できれば手に入れてみたいし」


「実戦用の剣!?」


(なにそれ、一気に冒険感が高まるんだけど)


 わくわくして、自然と笑顔になる。


「名案じゃない。私も一緒に選びたいな。どうせなら見た目も格好いいのがいいわ。あ、でも重すぎるのは嫌だけど」


「流石に、子どもの遊び道具じゃないからな、ある程度の重さは必要だろうな」


 アシェルも楽しげに笑う。


(何だかんだ巻き込んじゃったけど、少しは楽しい気分になれてるなら良かった)


 彼の笑顔を見て、心の重荷が少しだけ軽くなる。その時、クラウディアが「カァ!」と大きく鳴き、私たちの間の手すりに留まった。


 彼女の黒い瞳がじっと私を見据える。


「何よ、お姉様。まさか『自由を満喫しすぎるな』なんて、この期に及んで説教するつもりじゃないわよね?」


 姉は一瞬沈黙した後。


「羽を伸ばしたくなる気持ちはわかるわ。でもまあ、ほどほどにね」


 小声で姉が告げる。


「やった。お姉様公認。屋台に鍛冶屋に、遺跡の探検なんて、最高な旅になりそうね」


 調子よく告げて微笑むと、アシェルはため息をつきながら笑った。


 この時の私はまだ、無計画な旅が引き起こすトラブルについて、知る由もなかったのだった。

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