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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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アシェルの秘密2

 高くそびえる玄関扉には、家紋が刻まれた真鍮のドアノッカーが取り付けられており、門前に立つだけで訪問者に緊張を強いる威圧感があった。


(なんか、きちんとしてる家ね)


 雑草一本許さないような、整然とした庭に、同じ高さの花で揃えられた花壇。


 我が家の寂れたタウンハウスとは大違いだ。


(まぁ、うちの本拠地は領地だし)


 アシェルの実家を観察しながら、彼について歩くこと数分。


「ここで待っていてくれ」


 彼は私を裏庭に導いたところで足を止めた。


「了解」


 言われた通り、庭木が茂る隅っこにしゃがみ込んで身を隠す。


「静かにしてれば誰にも見つからない……はずだ」


「でたわね、お得意の不安を煽る微妙な間」


「何事にも絶対はないからな。とにかく、静かに。独り言も駄目だ。わかったな?」


 念を押すように彼は怖い顔で告げた。


「わかってるって」


 ニコリと笑顔を向けると、彼はわざとらしくため息をついてから、私に背を向け立ち去っていく。


 一人になった途端、外壁の向こうから聞こえる魔導車の音、屋敷内を行き来する使用人たちが歩く音や話し声などがクリアに耳に届くようになる。


(珍しくない音ばかりなのに)


 少しだけ心細くなって、身を守るように両腕を抱きしめた。


 視線の先に動く影を見つける。私が隠れた庭木に張り付くのは、虹色に輝くルミナスビートルだ。頭に二本の角状になった突起がある甲虫は、幼い男子を夢中にする夏の風物詩的な虫だ。


(へぇ、王都にもいるんだ)


 領地で見かけることはあっても、王都で見かけたことがなかったため、興味深く観察する。


(大きな角を持っているってことは、雄だわ)


 樹液を吸うイメージがあるルミナスビートルが張り付いているということは、自分が隠れている木も樹液なのだろうか。


(そもそも、樹液の出る木って種類が限られているものなんだっけ?)


 気になった私は、暇つぶしも兼ねてスペルタッチで調べようと、ベストのポケットに触れた。


「ねぇ、聞いた?アシェル様が帰宅されてるんだって」


 気になる名前が聞こえたので、声のした方をこっそり確認する。


 清潔感溢れる、白襟のついた黒いワンピース型のお仕着せに身を包む女性二名がすぐそこにいた。手には洗濯かごのような物を持っている。


(どう見ても使用人ね)


 私は彼女たちに発見されないよう、庭木の影にさらに身を滑り込ませる。


「アシェル様が?玄関に迎えの車はなかったように思ったけど」


「来客の予定もないのに、執事のダンテ様が慌てた様子だったってポーリーが言ってたから、間違いないわ」


「でもどうしてアシェル様だってわかるのよ?」


「だってルーセント様は、一ヶ月ほどブレイビリッジ王国に大学の御学友たちと旅行に出かけてらっしゃるし、エリザ様はそもそも屋敷にいるじゃない」


「消去法ってやつね」


 明るい声が響く。


(なるほど)


 使用人たちが、いつでもなんでも知っているのは、こうやってすぐに話題が共有されるからのようだ。


 感心しつつ、やることもないので、庭木に隠れつつ彼女たちの話に聞き耳を立てる。


「ねえ、アシェル様の目を見たら、呪われるって本当なの?」


 何気なく放たれた話題に私はどきりとする。


「誰がそんなことを言ってるのよ」


「調理場担当のマリアンナさんから聞いたわ。なんでもコンラッド侯爵家に時折現れる紫の瞳の持ち主は、『災厄を呼ぶ者』とされ、疎まれた歴史があったとかなんとか」


「そんなの、都市伝説でしょ」


「でも、先代ご夫妻も奥様も旦那様も、ルーセント様もエリザ様も、コンラッド家の皆様はアシェル様以外、みんな琥珀色の瞳をしているわ」


「確かにそうだけど……」


「それにね、マリアンナさんが言うには、先代の御主人様が、アシェル様を嫌ってらしたようじゃない。ご主人様がお亡くなりになるまで、アシェル様は家庭内で隔離されるような扱いを受けていたって聞いたわ」


 衝撃的な事実が明かされて心臓が跳ねる。声を漏らさないよう慌てて口元を両手で押さえた。やたら自分の鼻息が響き、背中に変な汗が滲む。


「だとしても、今は何もないわよ。奥様だってアシェル様を可愛がってらっしゃるじゃない」


「でもアシェル様は、ケンフォード魔法学校でアーク寮なんでしょ?何もなければコンラッド侯爵家の御子息だったらルクス寮のはずよ」


「そうだけど……」


「二人とも、何をサボってるの。早くアイロン室に洗濯を持って行きなさい」


「あ、はい!」


 新たな声がして、使用人二人が慌てて立ち去るのが影の動きでわかった。


 二人の気配が消えたことを確認した私は、口元を覆う手を剥がす。


 むしばむ季節だからか。それとも、とんでもない噂を耳にしてしまったからか。やたら汗ばむ私の肌に、リネンシャツが張り付いて気持ちが悪い。


(アシェルにそんな秘密があったなんて)


 嘘か本当か今はまだわからない。けれど、姉の記憶の中でエリザ様が「弟ながら同情する」と口にしていたことから、アシェルに何か秘密があるのは間違いない。


(アシェルが人嫌いな理由って)


 災厄を呼ぶ者と言われて育ったからだろうか。


(もしかして、彼がいつも長めの前髪なのって)


 特徴的な紫色をした瞳を隠すためとか?


(でも、実家に帰る前に彼は前髪を切って失敗してたわ。隠したいなら切らないはずじゃない?)


 頭がこんがらがってきて、眉間にシワを寄せる。すると突如頭上で屋敷の窓が開き、部屋の中の声が漏れ聞こえてきた。

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