アシェルの秘密1
王都の中心部、石畳の広い街路に面して建つアシェルの実家は、誰が見ても一目でそれなりの貴族が住まう家だと分かるタウンハウスだった。
街路と敷地内をわける灰色の石造りの外壁に、門扉は青銅製。敷地に一歩踏み込むと、よく刈りこまれた芝生の絨毯が敷き詰められた前庭が広がり、その向こうには三階建てで石造りの屋敷がそびえていた。
たとえ、評判が地に落ちていたとしても、一応侯爵家の娘である私は、通常なら魔導車で表玄関から堂々と訪問できる立場だ。
(何が悲しくて、こんな格好でコンラッド侯爵家を訪問しなければならないのよ)
私はポケットがやたらついた、姉のお下がりであるベストにパンツという、どう見ても遺跡に残された財宝を狙うハンターのような格好にため息をつく。
しかも人気を避け、外壁沿いを周囲を警戒してこそこそと移動しているのだから、傍目に見たら不審者そのものだ。
「足元、気をつけろ」
「ラージャー、アシェル隊長!」
ピシリとこめかみに揃えた指先をつけて軍隊式の挨拶をする。
「真面目にやってくれ。誰かに見つかったら、さらに面倒なことになるんだからな」
いつもより三割増し、鋭い視線を向けられた。
「わかってるって。で、参考までに聞かせて欲しいんだけど、玄関まであと何分くらいかかるの?」
かなり歩いた気がするのに、一向に屋敷に近づいていない現状に不安になっでたずねる。
「歩いたことなんてないから、正確にはわからないが、五分もあれば到着するんじゃないか?」
「五分!!」
「静かに」
アシェルに睨まれて、私は両手で口を塞ぐ。
「ルグウィン家のカントリーハウスよりは、ずっと狭いから徒歩でも余裕だろう?」
「大きさでいったらそうだけど。タウンハウスだけで比べたら、あなたの家はうちの三倍くらい大きいじゃない」
「だから?」
「つまり……王都の方が地価が高いから、物件価値的にはあなたのお家の方がきっと高いってこと」
「興味ない」
ぴしゃりと返された。
(いつにも増してピリピリしてない?)
実家に帰宅するのが嫌だという気持ちが、全身から溢れ出している彼にため息をつく。
(せっかくお家を褒めてあげたのに)
アシェルに遅れを取らないよう、身をかがめ、足を動かしながら、整然と刈り込まれた植え込みの奥に立つ、背の高い石造りの屋敷を視界に入れる。
屋敷の壁には細長い窓が整然と並んでいる。残念ながら、どの窓にもレースのカーテンが引かれ、中の様子を窺うことは不可能だ。
(王都って住むには便利だけど、どこに行っても人で溢れているから、プライバシー確保は必須よね)
カーテンを閉めっぱなしにせざるを得ない理由に一人納得する。
そうこうしているうちに、植え込みの隙間から屋敷が充分見渡せる位置に到達したことに気付く。
「ねぇ、もうこの辺で……いいんじゃない?」
中越しのまま、彼に小声で提案する。
「父の執務室まで、まだ百メートル以上はありそうだ。もう少し屋敷の近くまで移動した方がいい」
アシェルは、私の返事も待たずにさっさと移動してしまう。
(ちょっと!)
慌てて私も後を追う。




