最後のお願い4
はい注目といった感じで、姉が羽を合わせて鳴らす。
「というわけで、アレックスから得た情報を元に、テミスの元を訪ねましょう。もちろん今度は私も同伴するわ」
「じゃ、お姉様だけ飛んでいけばいいのでは?」
ボソリと呟くと、カラスのくせに、またもや半目になって私を睨んできた。
「今回もまた、飛行船の手配はしておいたから」
「ちょっと待て。飛行船となると、まさか大陸を渡るのか?」
目に見えてアシェルが動揺する。
「飛行船が怖いの?」
「怖くない。他国に渡るとなれば、パスポートだの何だのと、色々必要だろう?」
「それなら心配はいらないわ。サマーキャンプでスカイギアに行った時パスポートは更新したばかりだし。あ、もしかしてアシェルは期限切れなの?」
彼は私の問いにわかりやすくため息をつく。
「未成年だけで、他国に渡る場合は親の同意が必要だ。サマーキャンプは両親が喜んで参加させたから、すでに必要書類は用意してくれていた。けれど今回はそうもいかないんだろう?」
アシェルは確認するように姉を見る。
「そうね。今回はキャメロン王国に向かう飛行船のチケットだけフィーに頼んで押さえてもらっただけよ」
それと、と姉は得意げな表情で続ける。
「フィーから、支え合いの精神代として個人的に寄付してもらったお金を旅費として充てる予定。だからお金の心配はしなくても大丈夫よ。人生最後の旅だもの。贅沢しちゃいましょう!」
浮かれた調子で告げる姉は、さりげなく殿下からお金を分取ったと暴露した。
「つまり、お互いの家に一度顔を出す必要に迫られるってことだ」
彼が明かした内容を理解した瞬間、姉に向き直る。
「お姉様、無理だわ。ごめんね」
両手を合わせ謝罪の気持ちを表しておく。
「許さないわ」
「許さないも何も、我が家は今、コンラッド侯爵家の名前を口にしたら最後、父に打ち首にされるくらいの覚悟をする必要がある状況なのよ?アシェルを連れて実家に帰れるわけないじゃない」
「大げさな」
ぼそりと呟く彼をキッと睨む。
「そっちは、エリザ様がフィデリス殿下の婚約者最有力候補だからお祭り気分かもだけど、生憎こっちはお姉様の件に、社交界での心無い噂、それからお父様が来季決定していた議長の座を降ろされそうだとかなんとかで、非常にまずい状態なんだから」
お姉様には悪いと思いつつ、そもそもの原因でもあるので敢えて口にした。
「そう。それは悪いことをしちゃったわね」
姉は羽で唇に触れる仕草をしながら、首を傾げる。
(全然、反省してるように見えないんですけど)
薄目で我が家に不幸を持ち込んだ張本人である姉を睨む。
「とにかく複雑な事情があるから、親の同意を求めに家に戻るわけにはいかないし、そもそもアシェルと二人で旅行するなんて、お父様たちが許すわけないじゃない」
「それはそうだな。未成年な上に、家族でもない未婚の男女が一緒に旅行するのは、マナー違反だ」
彼が口にしたまともな意見に「そうだ、そうだ」と大きく頷く。
「二人が同行してくれないなら、この写真をネットにばら撒くしかないわね」
「え、写真?なんの?」
嫌な予感たっぷりな私の疑問に答えることなく、姉がクッションの上から飛び立つ。そして、本棚に着地した。
「お姉様、何してるの?」
さらなる私の疑問を完全に無視し、姉は、本棚に並べていたことすら忘れていた埃を被った本、『森羅万象のひそひそ話』と『古代魔導文明の遺産』の間に嘴を器用に差し込む。
「やだ、そんなところに何を隠してるのよ」
「ロッテの本棚は置物と化してるから、秘密を隠すには丁度いいの。例えばこういうのとかね」
姉が嘴で本棚の間に隠していた紙を引っ張り出す。私は、はらりと床に落とした紙を拾う。
そこに映るのは、アシェルと私がスカイギアにある天空湖レジャーランドに向かうため、二人で飛行船に乗り込むところを盗撮したものだった。しかも私は小洒落たサマーワンピース姿で、アシェルはオフホワイトのコットンスーツに頭にはカンカン帽を乗せている。
どこからどう見ても、私たちは行楽地に向かう浮かれたカップルにしか見えず、それぞれ手にした大きなトランクは、旅行が泊まりであることを確定させる要素で、非常に良くない構図だ。
「なによこれ。これじゃまるで恋人同士に見えちゃうじゃない!」
写真を指差し、姉に示す。
「そうね。どう見てもお似合いの二人にしか見えないわね」
「で、でもこんなの合成写真だって言い張れば……」
「君がそれを言うとは滑稽だな。確か……噂は不確かな情報だとしても、どんどん広まってしまう。 そして一度広がってしまった噂は、もう消すことはできない。そう断言して僕を脅したのは、確か君だったはずだが」
かつて私が彼に放った言葉を引用した彼が、意地悪な顔を向ける。
「で、でも……」
「本当に、君たち姉妹はそっくりだな」
アシェルは言い捨てると、一直線に部屋のドアに向かう。
「追って連絡する」
ぶっきらぼうに告げると、彼は振り返ることなく部屋を出て行ってしまった。
「絶対怒ってたじゃん……お姉様のせいだからね」
クッションの上に戻り、羽を休めている姉に頬を膨らませる。
「でもいい写真でしょ?」
悪びれることなく告げる姉は、楽しそうに見えた。




