最後のお願い2
「僕はもう部屋に戻っても?」
気配を消していたアシェルが口を挟む。
「だめよ。私にはまだやり残したことがあるんだから。あなたも手伝って頂戴」
すかさず姉がダメ出しする。アシェルが盛大に溜息をつく。
「そもそも、僕と彼女の契約は、ネクロメモリアで君の記憶を呼び覚ますことだったはずだ。最後の記憶の再生が終了した今、約束は果たしたと言える」
アシェルはうんざりしたといった表情で、言い切った。
(今回の記憶は、エリザ様も出てきたから、精神的に疲れてるのかも)
全体的にしおれた感じがする彼を見て、私は決意する。
「そうね。アシェルには今までお世話になりっぱなしだったし、お姉様のやり残したことリストの最後は、私一人でやるわ」
私はアシェルに向き直る。そして彼の少し伸びてきた前髪で隠れつつある紫の瞳を見つめる。
「色々あったけど、あなたがいたからピンチも乗り越えられたと思ってる。それに、少なくとも私はあなたを友人だと思ってるわ。だからその、ありがとう」
スッと彼に手を差し出す。
「気にするな。君に振り回されるのは、わりと楽しかったしな。じゃ」
アシェルは手を握ることなく、私の横を通り過ぎる。
(なるほど。結局最後まで友だちにはなれなかったってことね)
宙にむなしく差し出されたままの自分の手を見つめて肩をすくめる。
「お待ちなさい、アシェル」
バサバサと姉が羽ばたく音がして、慌てて振り返る。
「あなたの抱えるものに同情はする。でも、自分一人で抱えるべきじゃない」
彼にまつわる事情を知っているらしき姉は言い切った。
「あなたには関係ないことだ。どいてくれ」
アシェルが目の前で羽ばたく姉を手で払いのける。
「ちょっと、危ないわね!」
咄嗟に彼の攻撃を交わした姉は、バシバシと羽でアシェルの顔を攻撃し始めた。
「それに、あなたとロッテは百メートルの呪いにかかったままじゃない!」
大きく羽を羽ばたかせながら、姉が叫ぶ。
「あ」
すっかり忘れていた事実を思い出す。
「……チッ」
アシェルが短く舌打ちする。
「余計なことを」
彼は姉をキッと睨みつけた。
「それに、今度の私のお願いは簡単だから。残りの夏休みでサクッとこなせること間違いないしだし。二人にとっても、いい気分転換にもなると思うの」
「簡単なの?」
「シャルロッテ、性悪カラスの言うことを信じるな」
すかさずアシェルの声が飛んでくる。
(確かにそれは、そう)
改めて警戒心を抱き、姉に向き直る。




