表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
82/167

記憶:世界が終わる瞬間4

 私の気持ちなんておかまいなし。姉とテミスのやりとりが続く。


 ――――――――――――



テミス:ねえ、アストレア。本当にどうしようもなくなったら、私を助けに来てくれる?冗談じゃなくて。


アストレア:もちろんよ。例えこの国中を敵に回しても、私はあなたの味方でいる。


テミス:本当に?


アストレア:ええ、本当に。


テミス:ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった。



 ――――――――――――



 その直後、映像が突如乱れ始める。


「アシェル、これって……?」


 動揺する私に、彼は小さく首を振った。


「クラウディア様の中で、大きな影響を受けた場面に近づいているんだろう」


 視界の揺れが収まると同時に、新たな文字が映し出される。


 私は吸い込まれるように、その文字を視界に映し読み取る作業に没頭する。



 ――――――――――――



アストレア: ねえ、テミス。最近どうして返事をくれないの?前みたいに気軽に話せなくなった気がするんだけど。


アストレア: ミストグラムの更新もないけど、何かあったの?


アストレア: きっと、忙しいだけよね。



 ――――――――――――



 姉が必死にテミスに話しかけるも、返事はないようだ。


「あんなに仲良かったのに、どうしたのかしら?」


「関係を切ったり、ブロックしたりするのは、罪ではないからな」


「ネットあるあるか……」


 ため息をつくと、画面に映し出される文字が更新される。



 ――――――――――――



テミス: ごめんなさい。本当に。


アストレア: 別にいいのよ。戻ってきてくれたなら。


テミス:すごく、色々あって。


アストレア:それは……悪いこと?


テミス:すごく悪い。でも、なんとか立ち直ろうと必死にもがいている。


アストレア:何があったの?


テミス:それは……言えない。


アストレア:そっか。話ならいつでも聞くからね。



 ――――――――――――



「テミスが復活してるわ。どういうこと?」


「気が向いて戻ってきたのかもな」


「お姉様は、怒らないのね。私なら何も言わずに連絡を絶った人なんて、即ブロックしちゃうけど」


「君らしいな」


「お褒めの言葉をありがとう」


 ニコリと微笑むと、アシェルは肩をすくめる。



 ――――――――――――



テミス:ごめん。


アストレア:いいのよ。気にしてないから。


テミス:許してくれて、ありがとう。


アストレア:ごめんね。そろそろ落ちなきゃ。



 ――――――――――――



 何となく素っ気ない感じの会話が表示されたあと、すぐに画面が入れ替わる。



 ――――――――――――



アストレア:友人の飼っている犬が、私の目の前で亡くなったの。


テミス:まぁ、それは残念だったわね


アストレア:老衰だったんだけど、でもね、小さい頃から私も知っている犬で。


テミス:悲しいわね。


アストレア:そう。悲しかった。でも、体のあちこちを悪くしてて、ずっと苦しそうに見えて、私は友人が何で安楽死させてあげないんだろうって思ってたの。


テミス:それは、とても難しい問題だわ。


アストレア:でもね、亡くなって、本当に苦しさから開放されたように安らかな表情で横たわっていたの。そんな彼女を見て、ようやく楽になれたんじゃないかなって、私はそう感じたわ。


テミス:アストレア……。


アストレア:それで初めて私は、死ぬことの意味について真剣に考えだしたの。


テミス:だめ。残された人のことを考えないと。


アストレア:でも、これは私の人生でしょ、テミス?


テミス:そうだけど……。



 ――――――――――――



 画面に映し出された言葉に、思わず息を呑んだ。


「この犬って……まさか」


 アシェルの表情が一瞬こわばるのが見えた。彼も同じことを考えているのだろう。


「これって、アシェルのお家で飼ってた犬のこと?」


 私の問いかけに、アシェルは慎重に言葉を選ぶように間を置いてから答えた。


「断定はできないが、可能性としては考えられる。実家で飼ってたラテ……犬が亡くなったのはクラウディア様が亡くなるより前のことだ。それに、僕よりクラウディア様の方が母に気に入られていたから、彼女が屋敷に良く顔を出していたのも事実だ」


 彼は少しだけ自分の本音を明かしながら、私の知らない、姉の交友関係を明かした。


「そう、なんだ」


(お父様はコンラッド侯爵家と仲が悪い。でも、お姉様個人は、エリザ様やアシェルのお母様と仲良しだったんだ……)


 だとしたら、家同士がいがみ合う関係に少なからず胸を痛めていたかも知れない。


 私は画面に映る姉の言葉を、もう一度読み返す。


「これは私の人生でしょ」―― その言葉の重みが、心に突き刺さる。


(アシェル、止めて。もう見たくないから)


 喉まででかかった、私の本心。でも、目は自然と画面に向いてしまう。これが姉の記憶の中の重要な出来事なら、私には見届ける義務がある。そう思った。


「大丈夫か?」


 アシェルの声には心配する気持ちが滲んでいる。


「大丈夫」


 私は深く息を吸い込んで、背筋を伸ばす。


「魔導ネットにいるフレンドを即座にブロックして、何もなかったことにする。たぶん、これはそんな単純な解決法では対処できない問題だもの」


 私の言葉は宙に浮いたまま、新たな会話の文字列が浮かび上がってきた。



 ――――――――――――



アストレア:あなたと会話したところで、私を取り巻く環境は変わらないし、私は一生幸せになれないし、誰にも理解してもらえない。


テミス:そんなことない。あなたを傷つけるつもりはなかった。ごめん。


アストレア: もううんざりよ。全て終わらせる。生きてることに疲れたわ。


テミス:全部の重荷を分かち合えるわけじゃない。分かって欲しい。


アストレア: そうよね。わかってる。


テミス:落ち着いて。


アストレア:ちょっと頭を冷やしてくる。


(日付が飛ぶ)


テミス: アストレア、今どうしてる?


テミス: 傷つけてしまったならごめんなさい。


(さらに日付が飛ぶ)


アストレア: テミス、今どうしてる?


アストレア: テミス、あなたと話したいわ。


(さらに、さらに日付が飛ぶ)


テミス: 間が悪いみたい。いつもすれ違いになる。連絡して。


(さらに、さらに、さらに日付が飛ぶ)


アストレア:全てに疲れちゃった。



 ――――――――――――



 プツリと画面から文字が消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ