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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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記憶:世界が終わる瞬間2

 ――――――――――――


アストレア:はじめまして。書き込みを見ました。「助けて」って書いてあったけど、何かあったの?


テミス:返信があるなんて思わなかった。誰も気にしてくれないから。


アストレア:そんなことないわ。少なくとも私は、あなたがどうしてそんな言葉を残したのか知りたいと思って声をかけたもの。


テミス:ただ苦しくて投稿しちゃったの。


アストレア:どうして?


テミス:お父様が再婚してからずっと、継母にいじめられてるから。食事もまともに与えられないし、屋根裏に閉じ込められることもある。それに、父は妹ばかり可愛がるの。


アストレア:それは辛いわね。よく耐えたと思う。


テミス:もう限界かも。誰も私なんか必要としてないんだもの。


アストレア:そんなことないわ。私はここにいるし、あなたの話を聞いてる。全ての人があなたを大切に思ってないなんて、絶対にそんなことはないわ。


テミス:どうしてそんなこと言えるの?私のこと何も知らないくせに。


アストレア:確かにあなたのことを知らない。だけど私も、「消えればいい」って、誰かにそう思われる気持ちを理解できるから。


テミス:あなたも苦しいの? なんで?


アストレア:私はみんなから「完璧であること」を求められるの。それがすごく苦しい。どれだけ頑張っても、それ以上を求められる。でも本当は、私だって助けてほしいのに、誰も気づいてくれないからよ。


テミス:それ、すごくわかる気がする。私もみんなから「もっと強くなれ」って言われるけど、もう強がるのも疲れたわ。


アストレア:ねえ、もし良かったら、ここで話してみない?お互いのこと、誰にも言えない秘密とかも。私たち、ここでは誰にも邪魔されずにいられるから。


テミス:私でいいの?


アストレア:もちろん。テミス、あなたが話してくれるなら、私も話す。


テミス:ありがとう、アストレア。


 ――――――――――――



(消えればいいって、誰かにそう思われる気持ちを理解できるから……か)


 ミストグラムで交わされる、秘密の会話に目を通し終わり、私の心は重く沈んでいた。


(やっぱりお姉様は、私の気持ちに気付いてたんだわ。それなのに、私が抱く醜い思いを、今まで秘密にし続けてくれていたわけで……)


 誰にも言えない思いをミストグラムで誰かと共有したかった。そこまで追い詰められていた姉の気持ちを考えると、胸が苦しい。


 しかも、自分が彼女を無視していたことが原因だとするとなおさらだ。


「お姉様……」


 ギュッと唇を引き結ぶ。


「書き込みから察するに、このアストレアという女性とクラウディア様が同一人物なのは間違いないだろうな」


 アシェルの言葉に、上の空で頷く。


「ネットで愚痴を吐き出すのは、よくあることだ。あまり気に病むな」


 アシェルが気遣うように声をかけてくれた。


「ありがと」


 なんとか苦笑を返し、新たに表示された文字列に視線を向ける。



 ――――――――――――



テミス:今日は屋敷の一階と二階を何往復したと思う?


アストレア:五回くらいかしら?


テミス:甘いわ、アストレア。二十八回よ。


アストレア:それは……筋力がつきそうね。でもどうしてそんなに往復したの?


テミス:したんじゃなくて、させられたのよ。妹のドレスの修繕、アイロンがけ、妹に来た手紙の代筆、それから、使用人が階段を蝋で磨くのも手伝わされたわ。


アストレア:そんなことまで任されているなんて。


テミス:私は階段をいったりきたりするうちに、人生が終わりそう。


アストレア:どうにかならないの?例えばお父様に相談してみるとか。


テミス:お父様は駄目。格上の実家を持つ義理の母のご機嫌を取ることに夢中だから。


アストレア:それは辛いわね。


テミス:こんな人生、生きる意味あるかなって思う。


アストレア:あるわよ。


テミス:それは、あなたが恵まれているから、そう思えるだけよ。


アストレア:そうかしら?私の人生だってかなりハードよ。


テミス:じゃあ、私より悲惨な所を教えて。


アストレア:いいわよ、まず私には好きな人がいるの。


テミス:それって、幸せ自慢じゃない。


アストレア:でも、その人とは結ばれることはないわ。


テミス:どうして?


アストレア:親が決めた婚約者がいるから。


テミス:婚約者は、物凄い年上なの?


アストレア:いいえ、幼馴染よ。


テミス:貧乏なの?


アストレア:いいえ。


テミス:暴力的とか?


アストレア:とても優しい人よ。


テミス:私をからかってる?


アストレア:とても素敵な人だけど、その婚約者は私の親友が好きなの。


テミス:修羅場じゃない。わかった。親友があなたに嫉妬して嫌がらせをするのね?


アストレア:違うわ。親友はとてもいい子だし、私は彼女を信用しているし、大好きなの。だからこそ、私は自分がとても嫌になるわ。


テミス:邪魔者に思うってこと?


アストレア:そうね。私がいなければ、二人は結ばれる可能性が高いし。


テミス:うわぁ。でもそれじゃまだ私の方が不幸だわ。だって私は、妹のドレスをアイロンで焦がしたからって、屋根裏で反省するように言われて、まさに今、閉じ込められてる状況なんだから。


アストレア:近くに住んでいたら、今すぐ食事を持って助けにいけるのに。


テミス:気持ちだけ受け取っておくわ。今はあなたの不幸な話をお腹いっぱい聞かせて。


アストレア:いいわよ。そうね……私は何をしても許して貰えると思われているから、みんなから頼られるわ。


テミス:また自慢?


アストレア:違うわ。その逆。体調が悪かったり、そういう気分じゃない時に、頼み事を断っただけで、他の人の三倍は悪口を掲示板に書かれるのよ?


テミス:有名人なのね。


アストレア:貴族社会なんて、どこもそんなもんじゃないの?


テミス:ええ、そうね……。


アストレア:でも、目立つのも本当は嫌。人の目ばかり気にして、本当の自分がわからなくなるから。


テミス:本当のアストレアは、どうありたいの?


アストレア:そうね。今すぐこの国を飛び出して、童話に出てくる王子様のように、あなたを助けに行きたいわ。


テミス:アストレア、それ最高ね!



 ――――――――――――



『彼女が語る家庭の状況は、私とはあまりにも違うものだった。けれど、その「誰にも認められない辛さ」には自分でも驚くほど共感できたの』


 姉の声が直接心に響く。


 そして私に考える隙を与えないまま、新たなチャットが表示された。



 ――――――――――――



アストレア:ねえ、テミス。少し愚痴ってもいい?


テミス:もちろん。どうしたの?


アストレア:私、大学に進学したいって両親に話したの。魔法をもっと深く学びたくて。だけど。


テミス:だけど?


アストレア:父も母も、そんなの必要ないって言うの。代わりにキャメロン王国のマージフィニッシングスクールに通うべきだって。


テミス:マージフィニッシングスクールって、とても厳しいことで有名なところよ?


アストレア:そう。それで、「もっと女性らしく振る舞うための教育を受けなさい」ですって。私の意志なんてどうでもいいみたい。


テミス:ひどい。


アストレア:本当の私は、結婚だけの人生なんて望んでないのに。自分で何かを成し遂げたいって思うことが、そんなにおかしいのかな。


テミス:全然おかしくないよ。むしろ立派だよ。アストレアには、兄と妹がいるんだよね?二人は味方してくれないの?


アストレア:兄は、事なかれ主義だから、全然駄目。相談したところで「両親を困らせるのはらしくない」って言うだけよ。私がどれだけ苦しいかなんて、これっぽっちも考えてないんだから。


テミス:あなたのお兄様ってそういう感じなんだ……。妹は?


アストレア:妹は……私を恨んでる。たぶん、私が何もかも妹から奪ったと思い込んでるんだと思う。彼女にとって、私はただの「ずるい人」みたいだから。


テミス:なんで妹はそんな風に思うの?


アストレア:わからない。でも、たぶん私が完璧でいるためにと、努力してるところを見せないからかも知れないわ。何をしても期待されるから、そう振る舞うしかないのに。妹から見たら、それが鼻につくのかもしれないわね。


テミス:姉妹って上手くいかないことが多いのかしら。良く物語の中でも「羨ましい」「ずるい」って、そういう感情を姉妹は抱いているわよね。


アストレア:テミスも妹から嫉妬されてるのよね?


テミス:理不尽な理由でね。


アストレア:私は、本当の意味で誰からも愛されていないのよ。


テミス:アストレアは家族に期待されてるじゃない。それが愛なのかもよ?


アストレア:期待されるのは、愛じゃなくて重荷だわ。


テミス:アストレア。あなたは立派だと思う。親に逆らうことはできなくても、大学に行きたいってちゃんと言えたんだから。


アストレア:でも結局、何もし変えられない。ただ命令通りに動くしかない自分が情けないわ。


テミス:そんなことないよ。変えられるかどうかは別として、言ったことには意味がある。あなたはきっと、もっと強くなれる。


アストレア:ありがとう、テミス。あなたに話せて、少しだけ救われた気がする。


テミス:私だって、アストレアがいてくれるから頑張れるのよ。私たち……似た者同士だから。


アストレア:ええ、本当に。似ているわよね。



 ――――――――――――



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