あり得ないこと2
「シャルロッテ。いつまでも悩んでいても仕方ない。灯籠作りが始まるぞ」
アシェルが淡々と言い放つ。
顔を上げると、テーブルに用意された色とりどりの魔法紙を手に取り、シンシアやソフィーが、早速作業に取りかかっていた。
「えっと……シンシアは、もうイメージが湧いてる感じかな?」
イアン様が配布された魔法紙を手に取ると、隣のシンシアが遠慮がちに口を開く。
「私は初めてで。よく分からないので、イアン様にお任せします」
「それじゃ駄目だよ。この作業は、二人の意見を取り入れて作ることに意味があるんだ。だから、遠慮せず君の意見を教えて欲しい」
「私の意見ですか……」
シンシアが考え込んだ様子で黙り込む。
(いけ、シンシア!)
私は魔法紙を握りしめたまま固まるシンシアに心でエールを贈る。
「じゃ、ソリスのシンボル。成長と共生を象徴する緑の葉のリースなんてどうですか?」
「いいね。俺らにはぴったりだ」
イアン様が微笑むと、シンシアの顔は真っ赤になった。
(あれはもう、イアン様にも恋心が筒抜けなような……)
このまま上手く行きますようにと願いつつ、同じテーブルで並んで座るラスティンとソフィーに目を向ける。二人は早速、騒がしく作業を進めているようだ。
「ソフィー……その紙は裏表が逆だと思うけど」
「なによラスティン、どっちだって大して変わらないわよ。細かい男性は嫌われるわよ」
「大雑把な女性だって、どうかと思うけど。ちょっと貸して」
「あっ、触らないで。私だってちゃんとできるわ」
手を伸ばそうとするラスティンの手をソフィーが払いのける。
「こういうのはね、インスピレーションが大事なの」
ソフィーが意地になって赤い紙を折りはじめる。
「ソフィー、それって」
「薔薇を折るのよ。何か文句ある?」
「そう言えば、小さな君に薔薇の折り方を教えてあげたような。もしかして」
「その時教わったやつよ」
二人は言い合いながらも、気づけば息の合ったペースで作業が進んでいる。
(喧嘩してるくせに、息ぴったり)
思わず苦笑していると、アシェルが冷ややかな目を向けてきた。
「他人を観察している暇があるなら、自分の灯籠に集中しろ」
「……わかってるわよ」
苦々しい顔で返しつつも、ふと横目でアシェルの手元を見ると、彼が予想外に器用に魔法紙を折っているのが目に入った。
「……意外と器用なのね」
「君が不器用な分、僕が手際よく進める必要があるからな」
「余計なお世話なんだけど!」
再び言い合いになりかけたところで、スタッフの声が響く。
「皆さん、完成した星灯は、最終日に湖へ浮かべる予定です。ペアの絆をしっかり形にしてくださいね」
(絆ね……)
深いため息をつきながらも、私は手元の材料を見つめる。赤や緑や黄色。色とりどりの魔法紙に、スライムみたいな糊とハサミまで用意されている。
(五歳の子どもなら、大喜びで作業するだろうけど)
生憎私は十六歳。しかも誰かと感性を合わせる作業は苦手だ。
(でも、やらないと終わらないし……)
ため息をつき、アシェルに顔を向ける。
「星灯の灯籠って、ペアの相手を思いながら作るんでしょ?」
「らしいな」
「……この状況で何を考えればいいのよ?」
嫌味たっぷりに睨みつける私に、アシェルは一瞬だけ視線を向ける。
「僕が君をどう思っているか、知りたいか?」
「別に、知りたくない」
即座に拒否すると、彼はどこか愉快そうに口元を歪める。
「まあいい。僕は適当に作るから、君も自由にやればいい」
「適当って……」
(ああ、もう! 何もかもが癪に障るんだけど。 百メートル縛りだの、星灯の灯籠だの、勝手なことばかり!)
半ば投げやりになりながら、私は手元の魔法紙を半分に折る。
(こうなったら、アシェルに恨みを込めたデザインにしてやる)
決意して、ふと隣のアシェルを見ると、彼は真剣な表情で灯籠の土台の形を整えている。その横顔には、読書している時と同じように、静かな集中力が宿っている。
(……なんでこんな時だけ、真面目に作るのよ。色々勘繰っちゃうじゃない)
理不尽な状況に、ますます私の心はかき乱されていくのだった。




