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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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あり得ないこと1

 ハイキングから無事生還して一晩ぐっすり眠った私は、新たな気持ちで翌日を迎えた。


(なんか、かつてないほど健康的かも)


 洗面所の鏡にうつる自分を見つめる。


 引きこもりな夏休みから脱した私は、少し日焼けして見た目的にも生き生きして見えた。


 ところが、世の中は無情なもの。私に次なる試練が訪れた。


 木陰に作られたテーブルに、対になって用意された椅子に座る参加者たち。


 ハイキング前は、何となくテントごとに集うことが暗黙の了解だった。しかし、星影の誓いというカップルイベントが迫った現在、自然とペアが出来上がっている。


「キャンプ生活も残りわずかとなりました。今日は最終日に天空湖に浮かべる、『星灯(ほしあかり)』と呼ばれる、魔法の灯籠制作を行いたいと思います。星灯は特殊な魔法紙と樹脂を使用して――」


 キャンプスタッフが特別仕様らしい灯籠制作について説明する中。


「だから、どういうこと?私は一体何に巻き込まれているの?」


 隣で澄ました顔をして、本を広げているアシェルに小声で詰め寄る。


「私語厳禁」


 本に視線を落としたまま、短く返された。


「だとしても、ちゃんと説明してよ!」


 つい声を荒らげると、一斉に参加者たちが私たちの方を振り向いた。


「何だ?痴話喧嘩か?」


 参加者のひとりから冷やかしの声が飛んでくる。


「仲良しだもんね。あの二人」


 くすくすと笑う女性の声。


(違うし)


 今すぐ席を立ち、反論したいところだ。しかし今はそれどころではない。


(これもあれもそれも、全部アシェルのせいだわ)


 冷やかしの視線を浴びるむず痒い状況を、俯いてやり過ごす。


「シャルロッテさん、何か質問ですか?それともトラブル?」


 親切すぎるスタッフに問われ、慌てて顔をあげて居ずまいを正す。


「すみません。何でもありません」


 ニコリと微笑む。


「そうですか?では続けますね。それから、灯籠作りで注意すべき点は――」


 スタッフが説明を再開した。みんなの意識も私たちが逸れる。


 ほっと胸を撫で下ろすと同時に、隣に座るアシェルへ視線を戻す。しかし彼は相変わらず本を読むふりをして、私の視線から逃れようとしている。


「アシェル。これは見てみぬ振りはできない問題よ。だからちゃんと答えて」


 身を乗り出して、彼の横顔に訴える。相変わらす黙っていれば、それなりに見た目がいい。それもまた、私をイライラさせる原因の一つだ。


「分かったよ。言うから、少し離れてくれないか?」


 うんざりしたような溜息のあと、ようやく観念したらしい彼が口を開く。


「君が僕を裏切った結果だよ。絆の制約が発動して、僕たちは百メートル以上離れることができなくなったようだ」


 一瞬、何を言われているのかわからなかった。しかしすぐに、現在私の身に降りかかる最悪な状況の事だと理解する。


「百メートルって……」


「現在僕と君の距離は三十センチといったところだろう。だとすると、百メートルは、今の僕らの距離のざっと三百三十三倍だ。そう考えると、以外と遠い」


「この距離の、三百三十三倍……」


 横並びに座る私と彼の距離を目視で確認する。


(これの三百三十三倍なら、生活には困らなそう……って、問題はそこじゃないし)


 うっかり納得しそうになったものの、その手には乗らないと彼に詰め寄る。


「どうしてそんな厄介な魔法を私にかけたのよ」


「危険な行動を取る可能性のある相手には、こうするのが最適だと思ったから」


 アシェルはいつもの調子で肩をすくめる。


「むしろ助け合いを強制する、合理的な仕組みだと思えばいいじゃないか」


「助け合い?百メートルの距離しか離れられないなんて、もうそれは監視か拘束でしかないわ」


「拘束とはちょっと違うな」


 彼は本に視線を落としたまま、微かに笑みを浮かべた。


「僕としては、できるだけ君と関わりたくはないのだから」


「私だって」


 そうよ、と言いかけて慌てて口を噤む。


(悲しいかな、こんな厄介な人を巻き込んだのは、私だった)


 私はテーブルに肘をつき頭を抱える。


 図書館でアシェルを脅さなければ。そもそも姉が自殺なんてしなければ。ルグウィン侯爵家なんかに生まれてこなければ……。


 どうしようもないことに対する、イライラとした気持ちがわいてくる。


 けれど、どれもいまさらだ。


「以上で説明は終わりです。星灯の灯籠作りで一番大切なのは、ペアとなった相手を思って作ることが重要とされています。思いやりの心を抱いた相手と灯す星灯は、特別な光を放ち、永遠に二人の心を結ぶ象徴となりますからね」


 スタッフの言葉に、参加者たちのどこか期待するような、甘ったるい溜息が漏れた。


「で、この魔法はどうしたら解除できるの?」


 苛立つ気持ちをこらえて、彼にたずねる。


「さあ?」


 他人事のようにアシェルは首をかしげた。


「さあって。このへんてこな魔法をかけたのは、あなたでしょ?」


「その件に関して、異論はない。僅かではあるが、君に申し訳ないことをしたとも思っている」


 彼は謝罪を口にしながら本を閉じると、真面目な表情を私に向けた。


「正直に告白する」


「……うん」


 いつになく神妙な表情の彼に、嫌な予感がしつつ頷く。


「僕がかけた魔法――『絆の制約』は魔導ネット上に存在する、闇オークションサイトで購入した魔法書のコピー本に書いてあった術式だ」


「闇オークションって……」


 耳を疑う言葉に目を見張る。


「しかも僕が調べたところによると、『絆の制約』という魔法は、現在僕らが閲覧可能な魔法に関する辞典や文献に一切の記載がない、実に謎多き魔法だということが判明している」


「…………」


「よって、僕も今後どうやったら解除されるのか、詳しいことは知らない」


 アシェルが涼しい顔で語った衝撃的な事実に啞然とする。


「し、知らないってどういうことよ! しかも闇オークションって、それ絶対怪しいやつじゃない!」


 怒りに声が裏返る私に、彼は肩をすくめた。


「確かに怪しいという意見には同意する。ただ、今や発禁となる魔法書を手に入れるためには仕方がなかったし、ちょっとしたお試しのつもりだったんだよ」


 ため息混じりに愚痴っぽく言い訳を口にする。


「お試しって、勝手に人を実験台にしないで」


 あまりの無責任さに、頭がくらくらする。


「確かに現時点で解除方法は不明だ。でも心配するな。君のようなトラブル体質の人間に、近くで監視がついているのは、むしろ有益じゃないか」


「余計なお世話よ!」


 つい語気を荒げてしまうと、再び周囲の視線が集まる。


「本当に仲がいいのね、あの二人」


  「見てるこっちが照れちゃうわ」


「夜中こそこそ抜け出してデートしているらしいよ」


「物凄く好きあってるのねぇ」


 ヒソヒソ声が耳に飛び込んでくる。


(なんでこんなことに……!)


 私は顔を真っ赤にし、思わずテーブルに突っ伏す。

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