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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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ハイキング3

「ちょっと失礼」


 公言通り、アシェルとラスティン様の間に割り込むソフィー。


「おっ、レオポルド家のお転婆娘の登場だ」


 ラスティン様がソフィーをからかう。


「失礼ね。それは昔の話だわ」


「でも、ロイドが『妹は、マージフィニッシングスクールからも匙を投げられそうだ』ってこぼしてたけど」


「お兄様の情報を鵜呑みにしないで下さる?どこからどう見ても、私は立派なレディじゃない」


 ソフィーがぷくうと頬を膨らませた。


「確かにしばらくみないうちに見違えた。レオポルド家を訪問しても、君がいないと寂しいと思うくらいには、君が恋しかったよ、ソフィー」


 ラスティン様は、ソフィーの膨れた頬を指先でつつく。するとソフィーは、見る間に熟れたトマトのような顔になった。


「もう、気軽に触れないで。子どもじゃないんだから」


 ソフィーは必死に言い返すも、ラスティン様はそんな彼女に目を細めている。


(……これはもしかして)


 ピンときた。


(ソフィーの本命はラスティン様。そして彼の気を引くために、アシェルをダシに使ったのね!)


 なんて悪い子だと思いつつも、彼女の行動力に感心してしまう。そんな二人の様子を、アシェルは白けた表情で見ていた。


(うん、彼は平常通り。問題ないわね)


 うんうんと、一人頷く。


「ラスティン、折角だから友人のシャルロッテ嬢をエスコートしてくださらない?」


「もちろん。美しい女性のエスコートなら喜んで」


 ラスティン様がお世辞を口にして、後ろを歩く私に向かって微笑む。


「美しい?」


 アシェルが、信じられないといった表情で私を振り返る。


(失礼なんだけど)


 こちらを向くアシェルから、プイと顔を背けておく。


「アシェルくん。君はまだ女性の魅力をわかっていないんだな?」


 ラスティン様は臆する事なく言い切った。


「……だから?」


「人生を損してるなぁと思って」


「損している?」


 アシェルが眉間に深いシワを寄せる。


「そう。例えばそこに咲くスカイブルーベル。あれを見て美しいと思う気持ちを共有できる誰かがいれば、日々の景色は更に色づくと思わないか?」


 ラスティン様の視線は、青く輝く小さな花へ向けられた。


「そうだろう、ソフィー?」


 ラスティン様がふと振り返り、ソフィーに向かって微笑む。すると、彼女は頰を赤らめて「ええ……そうね」と小さく呟きながら頷いた。


(ほらやっぱり。ソフィーの本命はラスティン様だったのね)


 私は確信する。


(後は二人が上手くいくようアシェルを上手く引き剥がすだけ)


「アシェ――」


「でも私には、もう時間がないの。行きましょ、アシェルくん」


 私の声を遮ったソフィーは、わざとらしいほどツンとした態度で、アシェルの腕を引く。


「は?僕を巻き込むな」


「いいから!」


 彼女は戸惑うアシェルを無理やり引っ張っていく。


(時間がないってどういうこと?)


 初耳な情報が気になりつつ、どうすることもできなかった私は、二人の後ろ姿を目で追う。


「さてと、じゃあ俺たちも行こうか」


「あ、はい……」


 私は彼と並んで歩く。


「彼女は、君に迷惑をかけたりしていない?」


「迷惑だなんて。むしろ頼れるリーダーです」


「そうか。元気過ぎる所が彼女のいいところだけれど、我が国ではまだまだ女性に保守的な役割を求めるからね。彼女みたいな子は生きづらいんだと思う」


「なるほど」


(だから、ソフィーの推してる恋愛小説が平凡令嬢シリーズなわけね)


 良くも悪くも目立ってしまい、周囲に馴染めないからこそ「平凡」に憧れる気持ちはわかる。


(だって私もそうだったもの。でも)


 私は隣を歩くラスティン様を見上げる。


(ソフィーが平凡令嬢だったら、きっと彼は興味を示さなかったんじゃないかしら)


 彼の視線は、ソフィーに注がれている。


「ん?どうかした?」


「いいえ」


 私は首を横に振ると前を向く。


「ソフィーは自分の道を進む勇気を持っていると思います。それはとても素敵なことだと思います」


 私は少し微笑みながら答えた。


 ラスティン様は驚いたように目を見開き、そして穏やかに笑った。


「君は、ソフィーのことをよく理解しているんだな。彼女はこのキャンプに来て正解だったのかも」


「彼女は、いつも私を引っ張ってくれるんです。むしろ私の方が感謝しているくらいです」


「いい関係だね。人と人とのつながりがあるのは大事なことだよ」


 その言葉にはどこか重みがあり、私は思わず立ち止まって彼を見上げた。


「ラスティン様も、大切なつながりをたくさんお持ちなんですか?」


 その問いに彼は短く笑い、木漏れ日の下で小さく首を振った。


「どうかな……僕には失くしたつながりも多い。だからこそ、今あるものを大事にしたいと思っている」


「それって、もしかしてソフィーの……」


 ことですか?と言いかけた時、先を歩いていたソフィーの声が響いた。


「ロッテ!急いで!この先で休憩ですって!」


「あ、うん。ありがとう!」


 ラスティン様がふと立ち止まり、私に手を差し出してきた。


「シャルロッテ嬢、ここの石段は、少し滑りやすいみたいだ。気をつけて」


「あ、えっと。ありがとうございます」


 遠慮なく手を取ると、彼の手が意外に温かくて大きいことに気づく。


(エスコートされるなんて場面が、滅多にないから忘れかけていたけど)


 男性に気遣ってもらうのは、悪い気がしないどころか、特別感を感じるようだ。


(ソフィーがラスティン様に惹かれる理由が何となくわかる気がする)


 久しぶりに女性扱いされた私は、少し心が踊るのだった。

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