ハイキング1
朝の光が木々の間から差し込み、草花にきらめく露を纏わせている。
集合場所となったキャンプ地の中央広場には、出発を待つ参加者たちが集まっていた。
「全員そろったようですね。それでは、本日のハイキングコースについてご説明します」
案内役のスタッフが、魔法で浮かび上がった地図を指し示す。ルートは緩やかな丘を登り、森を抜けて美しい滝へ向かうというものだった。
「ゆっくり歩いて、休憩込みで往復五時間程度の軽いコースです。それでは、出発です!皆さん、気をつけて楽しみましょう!」
キャンプスタッフの元気な掛け声と共に、グループごとに歩き始めた。
私たちの班は、男女三人ずつ。
お風呂上がりのアシェルとイアン様を襲撃した成果もあって、男子はイアン様とアシェル。それから、なぜかソフィーと同郷のラスティン様と一緒に回る事になっている。
何となく歩き始めたものの、私は意図的にみんなから一歩遅れを取り、グループの様子を窺う。
「アシェル、少しは慣れたか?」
むすっと歩くアシェルに、にこやかに声をかけるのは、ラスティン様。
彼は、まさに「爽やかな好青年」を絵に描いたような人物だ。
緑のサファリハットの下からのぞくのは、明るい栗色の短めな髪。柔らかい琥珀色の瞳はいつも笑みを湛えているようで、初対面の人でも心を許してしまいそうな親しみやすさがあった。
「ぜんぜん。むしろ慣れたくもないが」
いつも以上に、ぶすっとした表情のアシェル。
彼もまたラスティン様と同じようなサファリハットを被り、フラップ付きの大きめポケットがついたカーキ色のジャケットを着ていた。同系色のパンツに黒いブーツを合わせ、大きなリュックを背負っている。その格好だけ見たら、立派な探検家のように思えなくもない。
ただ、連日外を連れ回されるスケジュールが多いせいか、日焼けして赤くなった肌と、少しやつれた顔のせいで、いつもよりアンデット感が増して見えた。
「まあそう言わずにさ。せっかくこんないい天気なんだし」
ラスティン様は、アシェルの被る帽子のつばをくいっと持ち上げる。
「やめろ」
アシェルはラスティン様の手を払いのけるが、彼は気にした様子もなく笑う。
「ほら。この美しい景色を見たら元気が出るだろ?」
「……ぞっとする」
アシェルは苛立たしそうに返す。
(悪気はないんだろうけれど……それどころか、むしろ良かれと思っているんだろうけど)
ラスティン様が無理に仲間に入れようと、アシェルを構う様子を見て、「やめとけばいいのに」とつい思ってしまう。
(だって、彼は人嫌いで有名な人ですから)
心の中でアドバイスして、私は彼らの先を歩く二人を眺める。
逞しい青年イアン様とシンシアはソリス寮生同士ということもあって、早速良い雰囲気だ。二人で仲良く並んで歩いている。
「シンシア、この花を知ってる?」
「いえ、何ですか?」
イアン様が、道端で咲く青い小花を指差す。筒状に咲いた花は縁が外側にカールしており、茎から釣り下がるようになっていた。
「スカイブルーベル。ここでは、幸運を呼ぶ花として知られているらしい。花言葉は『君を忘れない』……なんだ」
イアン様が青い花と同じように、うなだれる。
(君を忘れない、ね)
手紙を受け取ったはずの彼は、まだ姉を想ってくれているのかも知れない。でも当の本人は彼に次の恋をして欲しいと切に願っている。
(好きな人が、自分じゃない人と幸せになることを応援するって)
かなりマゾいな、と思った。たぶん、同じ状況になったら、私の場合、相手に呪いをかけて無理やり道連れにする方を選ぶような気がする。
(何だかんだ、やっぱりお姉様は優しすぎる……いいえ、詰めが甘いのよ)
いまさらなことを考えるのは、心が疲れる。私はどんよりとした気持ちで、イアン様とシンシアを見つめた。
「記憶に閉じ込めておくって、素敵なことばですね」
シンシアが微笑むと、イアン様も穏やかに微笑み返した。
(え、いい感じじゃない、シンシア。その調子で頑張って)
機嫌良くなった私は、胸の前でグッと拳を握る。




