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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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お誘い作戦2

「……出てきたわ!」


 ソフィーの囁き声が、少し興奮気味に響く。


 まず姿を現したのは、アシェルだった。


 濡れているせいか、いつもより色濃くなった黒髪を無造作に後ろへ流し、首元にはタオルを掛けたまま。リネンシャツの襟元のボタンは雑に留められており、彼のキャンプに対するやる気のなさが余計に際立って見える。


「アシェルくんだわ。いざ突撃!!」


 ソフィーが隠れていた木から飛び出す。


「え、ソフィー」


 唖然と固まるシンシア。


「行くしかないわ。ソフィーを野放しにするのはまずいし」


 躊躇するシンシアの背中を強引に押して、アシェルへ近づく。


「……何?」


 低い声が、めんどくさそうに問う。


「アシェルくん。明後日のハイキング。私たちとグループ組まない?」


 ソフィーが堂々と誘う。


「あいにく、その日はエーテル周期的に、朝から体調不良の予定が入っている」


(エーテル周期って……)


 でっちあげにもほどがあると、アシェルに咎める視線を向ける。


「そっか、それじゃ仕方ないわね……」


 魔法に馴染みないキャメロン王国出身者であるソフィーは、あまりに堂々とした彼の主張に納得してしまう。


「用事がそれだけならば、失礼する」


 肩を落とすソフィーの横を、アシェルはスタスタと通り過ぎて行く。


(逃がすか!)


 咄嗟に「待って」と声をかけ、彼の腕を掴む。


「一体、どうしたんだ?」


 新たな声がして、振り向く。


(げ、イアン様)


 湿った髪を乾かすように、頭をタオルで乾かしながら登場した彼は、いつもより無防備に見える。


「彼が何かしたのか?」


 アシェルを掴む私の手に訝しげな視線を向けたイアン様が問いかけた。


「は?この状況でなぜそうなる?君は洞察力に問題があるんじゃないか?」


 年上だろうと容赦しないアシェルが眉間に皺を寄せた。


「一般的には、女の子が君をどうかする確率より、君が何かする可能性の方が高いと思ったんだけど」


 イアン様の視線は、私をかすりもせずアシェルに向けられる。


(これは、お姉様のお古がどうこうじゃなくて、私が避けられてる感じ?)


 寝間着姿の私は、密かに確信する。


「彼女に限って言えば、一般的なその意見は当てはまらない」


 アシェルがきっぱりと言い切る。


「そっか、気を悪くさせたならすまない」


 イアン様がアシェルに謝罪する。


「僕は悪くないと理解してもらえればそれでいい。で、君はいつまで僕の腕を掴んだままなんだ?」


 彼を掴む私の手に、非難めいた視線を落とすアシェル。


「そもそも、ハイキングに仮病を使う気満々なあなたが悪いんじゃない」


 彼を睨みつつ、手を離す。


「ハイキング?」


 イアン様が私の言葉を拾う。


「イ、イアン様。もしご迷惑でなければ、明後日のハイキングは私たちとご一緒して下さいませんか?」


 シンシアが、イアン様に恐る恐る声をかける。するとイアン様はソフィーを見て、アシェルを見て、納得したような表情を浮かべた。


「なるほど。やっぱりアシェルが悪いんだ」


 ようやくこの状況を理解したらしい、イアン様が笑う。


 同時に、この場に漂う、どこか張り詰めたような雰囲気が一気に溶け出す。


「了解。必ずアシェルをハイキングに参加させると約束するよ」


 イアン様がシンシアに笑顔を向けると、彼女は吐息を漏らし、「ありがとうございます」と可愛らしく告げた。


「イアン様もご一緒してくださいね」


 すかさずソフィーが念を押す。


「俺でよければ、喜んで」


 ニコリと微笑む彼にシンシアは真っ赤になり、ソフィーは胸の前で拳を握りしめた。


「君は次から次へと懲りないな。今度は一体何に巻き込まれたんだ?」


 和やかな雰囲気の中、アシェルが不機嫌そうな声で問いかけてきた。


「えーと、まぁ、女の子には、色々とあるのよ」


「君が持ち込むトラブルに、毎回巻き込まれる僕の身になってくれ」


 お風呂上がりで爽やかな香り漂う彼は、ぐったりと脱力する。


「まぁ、悪いようにはしないから」


(ソフィーはあなたと恋に落ちる予定みたいだし)


 私はニコリと微笑み、彼のため息を華麗に交わすのだった。

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