お誘い作戦1
ソフィーをリーダーとし、シンシアと私が参加する『星灯攻略同盟』なるものが発足された。
『いい、恋愛は課題発表と同じ。発言しようかどうしようかと躊躇しているうちに、自分の意見を相手に奪われてしまうアレと同じよ。悩んだら最後、誰かに奪われる可能性が高いわ。ということで、早速行動よ!』
やる気みなぎるソフィーに誘導された私とシンシアは、意中のメンバーをハイキングに誘うため、タイミングを見計らっているところだ。
「なんだか痴漢をしようとしているって、誤解されないかしら?」
シンシアが不安げな表情で呟く。
「誰かに見られたら、不名誉な勘違いをされそうな状況ではあるよね」
彼女の意見に同意する。
なぜなら、現在私たちが視線を凝らす先にあるのは、シャワー施設だから。しかも男子専用となっている建物の出入り口をこっそり覗いているという状況なわけで。
(うん、かなり怪しい)
自分の行動を冷静に判断する。
「だって、ターゲットがシャワー中であることは確実なんだから、ここで捕まえるのが手っ取り早いじゃない」
ソフィーはけろりとした表情で答える。
「それはそうだけど……他にも声をかける時間はあるかなって思うの。だから後でにしない?」
シンシアが遠慮がちに提案する。
「シンシア。あなたがイアン様に堂々と声をかける勇気があるなら、夕食の時に、とっくに声をかけてるわよ」
ソフィーが、呆れ顔で肩をすくめる。
「でもイアン様って、いつも一人じゃないから、なかなか声をかけ辛いのよ」
シンシアの言い訳に、大きく頷く。
「確かに、イアン様はいつも誰かに囲まれてるわ」
(ついでに、私も露骨に避けられているような気がするし)
イアン様は、姉の手紙を受け取った彼の反応を探ろうとする、私の露骨な視線に気付いているはずだ。それなのに、絶対にこちらと目を合わせようとしない。
(やっぱり、お姉様のお古のベストがまずかったのかしら?)
チラリと視線を落とす私の視線の先に映るのは、姉のベスト――ではない。お風呂上がりを示す、パジャマ代わりとなる白い綿のワンピースだ。
(これは、これで、さらにまずいような)
首からタオルをかけ、明らかにまだ湿っぽい髪のまま男子を出待ちする状況は、淑女として褒められた状況ではないことは確かだ。
(でもま、仕方ないよね。こっちの問題を片付けないとだし)
隣で不安げな表情をするシンシアをチラリと伺う。
褐色の豊かな髪に、チョコレートみたいな瞳。イエローやゴールドが混ざったような琥珀色の瞳。いつも困ったように遠慮がちに微笑んでいるせいか、垂れ目気味な目がいっそう優しげに見える。
(もしイアン様が、お姉様みたいなわかりやすい美人がタイプだとしたら……)
残念ながら、シンシアは射程圏外にいるような気がする。
(でも、お姉様は別格だからなぁ)
外見、内面ともに完璧な彼女に惹かれてしまうのは、イアン様だけではないだろう。
(少なくとも私は、シンシアの方が可愛いと思うし)
どこか自信なさげに俯くシンシア。その横顔は、庇護欲をかき立てられるものだ。
「シンシア、心配しないで。私たちがついてるわ」
私は彼女の手を取り、励ますように微笑む。
「イアン様は、きっとあなたの良さに気付くはず」
励ますつもりで口にして、記憶で覗き見た幸せそうな姉の姿が脳裏をよぎり、少しだけ胸がチクリと痛む。
「でも……」
「シンシア。安心して。シャワーを浴びてリラックス状態のターゲットは、普段よりガードが緩くなっているはずだから」
ソフィーが、もっともらしい理由でシンシアを励ます。
「でも、迷惑かも知れないし……」
様々な事情を抱えるであろうシンシアは、気乗りしない様子だ。
(ここは喝を入れるしかないわね)
姉との約束を果たすため、私はグッと拳を握る。
「恋愛はね、時にリスクを負ってこそ、成就するものなのよ!」
私の熱弁にソフィーが目を剥く。そして……。
「あ!」
ソフィーの声につられて、シャワー室の出入り口に顔を向ける。すると、今まで沈黙を保っていた扉がついに重々しく開かれた。




