夏だ、キャンプだ、最悪だ4
「僕は君を、人を巻き込むトラブルメーカーなシャルロッテ・ルグウィンだと認識しているが」
どうやら彼なりに、私を気遣ってくれているようだ。
「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわ。それに、風向きは悪くないと思うし」
「どういう意味だ?」
彼の問いと共に、よく喋るビスクドールこと、ソフィーさんを脳裏に浮かべる。
「うちのテントは、ソフィーさんの独壇場になってるから」
「ソフィー?独壇場?」
どうやら彼は、自分を質問攻めした人物を記憶の彼方に飛ばしたらしい。
「ソフィーさんは、自己紹介の時、アシェルを質問攻めした子」
「よく喋る子か」
あからさまにうんざりした表情になるアシェル。
「そう、あのお喋りなソフィーさんが、とにかく話の主導権を握ってて、みんなを恋バナに引っ張り込んでいる状況なの」
アシェルが眉をひそめる。
「恋バナ?そんなものに熱中する暇があるのか?」
「お言葉ですけど、男子だって筋肉の話題に花を咲かせる時間はあるんでしょ?」
「……まあな」
苦々しい表情になった彼が、愚痴を言い出す前に私は慌てて、会話の主導権を握る。
「でも、キャンプってそういうものらしいわ。みんなで恋バナで盛り上がることで、友情を深めるみたいな?」
彼は呆れたように肩をすくめたが、興味をそそられた様子で続きを促す。
「で、君もその恋バナとやらに巻き込まれたのか?」
「巻き込まれたというか……話を振られたけど、浮いた話なんて何もないから。みんなから『あ、そうなんだ』で済まされちゃったけどね」
アシェルはニヤリと笑う。
「それは、それで楽でいいじゃないか」
「楽かもしれないけど、少し寂しいものよ。話題に入れないから、なんとなく居心地が悪いっていうか」
「まぁ、そういうときは適当に相槌を打って、違うことを考えているに限る」
「あなたにそんな助言をされる日が来るとは思わなかったわ」
軽く冗談めかして返すと、彼は鼻で笑った。
「生産性ゼロの筋肉自慢を延々とされるよりまだマシだ。君の愚痴は認めない」
状況を想像し、確かに自分の方がマシな気がしてきた。
「あ、そうだ。アシェル、あなたはそれなりに女子に人気があるみたいよ。良かったね」
アシェルは目を細め、私に疑いの眼差しを向ける。
「嫌味か、それ?」
「そんなことないわ。本当にみんなそう言ってたし。熟した葡萄のような、甘く優しい瞳の色が綺麗だって。みんなうまいこと言うわよね。やっぱり、前髪切って正解だったんじゃない?」
「さり気なく僕をけなしてるだろう……」
アシェルは恥ずかしいのか、前髪に手を当てた。
「で、恋バナで盛り上がると、なんで僕たちにいい風が吹いているんだよ?」
「ソフィーさんによると、スペルタッチを奪われた今、他に楽しみがないから男女ともに、恋に落ちやすい状況らしいわ」
「つまり、封鎖的な状況を乗り切るため、仕方なく結んだ協力体制を、恋などと錯覚する危険が潜んでいるというわけだな」
「……なんかロマンチックに聞こえないんですけど」
「所詮、錯覚だからな。スペルタッチが手元に戻る二週間後には、みな我に返り、熱に浮かれた自分を振り返り、愚かなことをしたと恥じる未来しか見えないな。ま、僕には当てはまらないが」
なぜか上から目線で自信たっぷり言い切るアシェル。
(ソフィーさんには、ぜひとも頑張ってもらって、余裕ぶっている彼をぎゃふんと言わせてもらいたいものだわ)
恋に現を抜かすアシェルなんて想像出来ないため、ぜひとも見てみたいと思う。
「ま、シンシア嬢の方は君に任せた」
「え、丸投げ?少しは協力してよ」
「冷静に考えて見てほしい。恋愛に一切興味がない僕が、役に立つと思うか?」
真面目な顔で返され、「確かに……」とうっかり同意してしまった。
「……とにかく、お互いこの環境には慣れないけど、なんとかお姉様からのミッションをクリアしないと。何の成果もなく帰国したら、延々嫌味を言われるに決まってるもの」
「その前に精神が崩壊するかもしれないが、な」
彼の軽口に、つい小さく笑ってしまった。




