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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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夏だ、キャンプだ、最悪だ2

 夜も更け、終始賑やかなキャンプ場に静寂の時が訪れた。


 私は周囲を見回し、みんなが寝静まったのを確認し、ベッドから身を起こす。それから全身の神経を研ぎ澄まし、みんなを起こさないよう静かにテントの外に出る。


 空には都市部にある学校生活では、なかなかお目にかかれない、綺麗な星空が広がっていた。


「領地の空を思い出すな」


 しばし、哀愁漂う気分で空を見上げる。


 幼い頃、姉と兄と買ってもらった望遠鏡を取り合った日々を思い出す。


「結局喧嘩したのは最初だけ。すぐに飽きちゃって、いつの間にか望遠鏡は部屋の隅に追いやられて埃を被ってたっけ」


 懐かしい記憶を思い出したところで、空とおさらばする。


「さて、と」


 テントから少し離れ、人気のない湖水方面に向かう道を歩く。


 小石が転がる乾いた土の道は、両脇に広がる草むらと柵で隔てられているので、迷子になる心配はなさそうだ。


 耳に届くのはザッザッと道を踏み鳴らす音と風に揺れる木々のざわめきと、虫とフクロウの鳴き声。


「のどかだなぁ」


 肩で切り揃えた髪を揺らして歩いていると、カサカサと草むらから謎の音が響いた。


 脳裏にキャンプスタッフの胸元を誇らしげに飾る、熊の刺繍が思い浮かぶ。同時に視界に入るのは、熊の絵が書いてある立て看板。


 目を凝らして看板に書かれた文字を読取る。


『熊出没注意』


 確かに、そう記載されている。


「やだ、ちょっとまって」


 心臓が鼓動を早める。


(熊出没なんてあり得ないし)


 冷たい汗が背中を伝う中、恐怖に突き動かされるようにして、私は歩く速度をあげた。しばらくすると「おい」と前方からアシェルの声がして、思わず走り出す。


「遅い」


「時間通りじゃない」


 彼に抱きつかなかった自分の理性を内心誇らしげに思いつつ、ポケットを探る。


「無駄だ。スペルタッチは取り上げられたままだろ」


「……そうだった。つい癖で」


 肩をすくめる。


 柵により掛かるアシェルは、腕を組んで私を見つめた。月明かりに照らされたその表情は、いつも以上に不機嫌そうだ。


「まだ、一日目だけど何かあった?」


 周囲を警戒しつつ、彼の真似をして柵に寄りかかりながらたずねる。


「何もかもが、最悪なんだが」


「そうね、完全同意だわ」


「同じテントの連中は、暇さえあれば筋肉自慢をしていたんだぞ。あのおぞましい光景をあと十三日も耐えるなんて、僕には無理だ」


 アシェルは顔をしかめる。


「文化の違いかしら?」


「文化の違いにも程があるだろ」


 彼は大きくため息をついた。


「一人くらい、筋肉の見た目ではなく、その筋肉が動くメカニズムに魅力を感じるような人間はいないのか?」


「なかなかいないと思うけど……」


 答えながら、ふと思い出す。


「そう言えば、アシェルの部屋に、怪しい赤い線と青い線で繋がれた頭蓋骨があったけど、あれって結局ドール作成に関係あるってこと?」


 何気なく口にしたつもりだったけれど、アシェルはこちらに体を向けキッと私を睨んできた。


「君は未だに、僕がいかがわしいドールを作っていると思っているのか?」


「いえ、思っていません。でもアレはなんだったんだろうと、ずっと気になってるわ」


 素直に告げると、彼は観念したように肩を落とす。


「人間にエーテル結晶を直接接続し、未知の能力を引き出す研究だよ」


「脳とエーテル結晶を接続するってこと?」


 私は首を傾げた。


「魔法は、古来より伝わる魔法陣を描き、そこから出力されるエーテル信号を読み取り発動させる仕組みだと言われてるだろう?」


「そうそう。だから複雑な魔法ほど、描く魔法陣が難しいのよね」


「そのせいで記憶力や器用さの違いが、扱える魔法スキルの差につながる。たとえば、君と僕のように」


 嫌味っぽく笑うアシェルに、私は口を尖らせる。


「最後のそれ、余計な説明よ」


 彼は満足げに話を続けた。


「要するに、あらかじめ様々な魔法陣をインプットしたエーテル結晶を脳に接続できるようになれば、『こういう魔法を使いたい』と念じるだけで魔法が発動できる可能性がある」


「……待って」


 私は思わず彼を制した。


「それってすごいじゃない! もし実用化されたら、誰でも難しい魔法を簡単に使えて、しかも発動までの時間が短縮されるってことでしょ?」


「その通りだ。それに、もし実用化できれば、白魔法の適正値が低いとされる僕らでも、簡単に白魔法を扱える可能性がある」


「ハイブリッド魔法使いの誕生ね!やったね、アシェル!」


 私は彼の功績を讃え、握手をしようと手を差し出すが、彼はため息交じりに首を振った。


「喜ぶのは早い。研究はまだ途中だし、過去に同じ発想に至った者も多いが、実用化に成功した例はない。それに……」


 アシェルは私を真っ直ぐに見つめてきた。その眼差しは真剣そのもので、思わず息を呑む。


「便利な技術ほど、悪用されるのが世の中だ。だから君も僕の研究について、迂闊に口外するなよ。口外した場合、君にかけた裏切り防止の魔法が容赦なく発動するからな」


 怖い顔で、念を押されてしまった。


「そう言えば、裏切り防止の魔法って、一体何なの?」


 そろそろ教えてくれてもいいのでは?と、期待のこもる視線を向けてみる。すると大げさにため息を返された。


「自分にかかった魔法くらい、自分で調べろ。魔法解析だって立派な勉強になるだろ」


「アシェル様。お願い」


 両手を組み、上目遣いでお願いしてみる。


「そんな目で僕を見るな」


 月夜をバックに、何故か疲れた表情を見せる彼。その背後に、ゆらりと揺れる影が見えた。

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