姉の企み5
「流石にそれはできないわ、お姉様の口からちゃんと伝えるべきよ」
きっぱり断る。
「でも私は死んじゃったもの」
サラリと放たれた言葉に私は顔をしかめる。
「もちろん自分勝手すぎることをしてしまったと理解しているわ。でもね、何度も助けてと意思表示はしたはずなのに、妹のあなたは見向きもしなかったわ」
カチカチと時計が時を刻む音がやたら大きく響く。
(それを言うのはずるいわ、お姉様)
姉を睨みつつ、とうとう私は気付いてしまう。
すぅと息を吸い込み、ゆっくり口を開く。
「お姉様の懺悔の旅に私を巻き込むこと。それが私への復讐なのね」
自分でもびっくりするくらい、低い声で姉に問う。
姿は鳥だけど、そこに宿るのは間違いなく姉の記憶と意思のはず。
(答えてよ、お姉様)
答えが返ってくるまでの数秒が妙に長く感じた。
「そのつもりはないけど、そう捉えて協力してくれるなら、どうぞご自由に」
ギョロリとした真っ黒な瞳が、まっすぐ私に向けられた。
その瞳は、私の抱える罪悪感を「逃がすものか」と捉え、縛り付けてくる。
「ずるいわ、お姉様」
心の声が出てしまう。
「でも、ロッテの中で私はずっと、そういう存在だったんでしょう?」
姉は私を見て微笑んだ。完全に私の負けだ。
(そう、お姉様は私にとって、この世からいなくなればいいと願ってしまうくらい、ずるい存在だったわ)
認めた途端、全身から力が抜けた。
「でも、私に何ができるの?そもそもシンシア様とも、イアン様とも面識がないのに」
最後の抵抗とばかり、口を尖らせる。
「大丈夫よ、ロッテ。あなたの行動力があれば、きっと彼女の力になれるわ。あとは……アシェルがいるじゃない」
姉に羽の先をピシリと向け指名された彼は、面倒そうに眉間にシワを寄せた。
「僕は頼まれてもいない仕事を請け負うほど暇でもないし、お人好しでもないのだが?」
(うん、知ってる)
私は二回ほど、大きく頷いておく。
「それに、僕は姉妹喧嘩の部外者だ。巻き込まないでくれ」
「すでに、部外者じゃないから頼んでいるのよ」
姉の声音が少しだけ鋭くなった。
(え、やだ。やめて)
嫌な予感がして、眉をひそめる。
「安心して。シンシアとイアンが参加する夏のキャンプに、二名分手配済みだから」
「ええっ!」
思わず声が裏返る。
「何勝手にそんなこと――」
アシェルの声を遮るように姉が告げる。
「もちろん、両家の親にも了承を取ってあるわ。特にアシェルのお母様、バイオレット様なんて、あなたがキャンプに行きたいと思っているらしいってエリザが話したら、物凄く乗り気だったみたいよ。エリザ曰く、『自然に目を向けられるようになったのは、いいことね』っておっしゃっていたんですって」
姉が涼しい顔で告げると、アシェルはげんなりとした表情を浮かべる。
「そんな軽率な嘘に騙されるなんて……」
絶句し、項垂れる彼を横目に見ながら、私はキャンプがどうこうの前に、気になることを姉に問いかける。
「つまり、お姉様は、お父様とお母様に会ったってこと?」
「まさか。流石に娘の魂の一部がカラスに憑依したと知らせるなんて、そんな残酷なこと私にはできないわ」
「じゃ、どうやって」
「あなたのスペルタッチを使って、家族のグルチャにメッセージを送っただけ。ロッテは普段から家族のメッセージを未読スルーするから、気付かなかっただろうけど」
得意げに告げられ、私は唖然とする。
「もちろん二人が一緒に行くなんて知らせてないから安心して。その辺はほら、私からの優しさって感じかしら?だって、二人には本当に感謝しているんですもの。私の提案に快く協力してくれるから」
協力すること前提で話す姉の完璧な笑顔に、背筋が凍る。
「嘘でしょ。どうして私がキャンプなんかに……」
「必要な手続きも全部済ませておいたから、安心して参加してね」
「あのね、私はまだ了承してないんだけど」
「了承するしないに関係なく、もう決まったことよ」
私からの抗議は一切取り合わず、姉は満足げに羽を合わせた。
「というわけで、準備をよろしくね。特にロッテ、あなたがちゃんと参加しないと、エリザだって困ることになるんだからね?日頃、何かとお世話になってるでしょ?」
「……それは、そうだけど」
姉の圧に負けそうになるが、最後の抵抗を試みる。
「でも、アシェルも嫌なんじゃないの? ほら、いつも以上に青ざめた顔になってるし」
「ああ、もちろん嫌だよ」
即答する彼に一瞬期待しかける。
「でも我が家は誰も、母さんには逆らえない運命だ」
「そこはもっと反抗的に行こうよ……」
力が抜けた私に、姉は容赦なくとどめを刺す。
「じゃあ決まりね。人助けしつつ、自然を存分に楽しんできてちょうだい」
こうして、私たちは渋々ながらも、サマーキャンプという、アンチ文明社会的な行事に参加することになってしまった。
「これが、みんなが憧れる完璧なお姉様と同一人物だとは認め難いんだけど」
ボソリと呟く。
「何度も言うが、こいつはただのタチの悪いカラスだ。君の姉ではない」
力強く言い切るアシェルに、今回ばかりは同意したくなったのであった。




