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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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姉の企み4

「で、今の話とシンシア嬢がどう関係するんだ?」


 アシェルがしんみりしかけた私の気持ちを無視し、話の軌道修正をする。


「そう、シンシアのことよね。現在フィーのお相手候補が、水面下でだいぶ絞られたようなの。今のところ最有力候補がシンシアよ」


(ああ、なるほど)


 姉が何を言いたいのかがわかった。


「お姉様はエリザ様と殿下を婚約させたい。だから、おじゃま虫であるシンシア様を婚約者候補からどんな手を使ってもいいから、私に蹴落とせってお願いしたいのね?」


 確信を持ち、すでにいくつか口には出来ない方法を脳裏に浮かべながらたずねる。


「ロッテ、物騒なことは言わないで頂戴。しかもあなたのその表情は、悪いことを企む時のものじゃない。だめよ、そんなこと私がさせないわ」


 姉は私の腕を、ツンツンと太い嘴で突いた。


「いたっ。じゃ何なのよ。全く話が見えてこないんだけど」


「彼女を見ていると、かつての私を思い出すのよ」


 気になる言葉を口にした途端、姉は黙り込む。


「お姉様、私にはさっぱりだわ。ちゃんとわかるように説明して」


(こっちは、ただでさえお姉様の記憶を辿る旅から帰ってきて、疲れてるんだから)


 思い出した途端、身体全体を疲労感が襲う。


「名誉貴族制度の是非と同じ。国内の有力商会が、貴族院に名を連ねる議員に賄賂を渡して、陛下にシンシアを選ぶよう圧をかけているようなの」


「やっぱり、革命前夜ってことじゃない」


(もうこの国は終わりだわ)


 波乱が起こるのを待つような状況に、より一層疲労感を感じてぐたりと体の力を抜く。


「だけど、シンシアはイアン様のことが好きなのよ。でも、商会関係者から王族との繋がりを重視する声があがっているせいで、彼女は恋心を隠しているみたいなの。何も言えなくて、ただ流されているのよ」


 姉は小さく翼を広げて、ベッドの上で身を揺らした。


「そもそも、シンシア様がイアン様のことを好きって。それ、本当なの?」


(間違っていたら、余計なお世話なんだけど)


 疑いの眼差しを姉に向ける。


「私が彼女の心を直接覗いたわけじゃないけれど、彼女の行動や言動を見ていると分かるのよ。恋をしている人の仕草って、隠したくても出ちゃうものだから」


「でも、本人がはっきり口にしたわけじゃないなら、確実な情報じゃないわ。そもそも恋してるかどうかなんて、自分ですら良くわからないものでしょう?」


 私の素直な意見に、姉は少し困ったような笑みを浮かべた。


「ロッテ、シンシアもきっと迷っているのよ。周囲の期待と自分の気持ち、どちらを優先するべきか。どちらも捨てられないから、迷い、立ち止まってしまっているんだわ」


 まるで、手に取るようにわかるといった様子で話す彼女の口調には、どこか自分自身の過去を重ねているような響きがあった。


「……お姉様も、そうだったの?」


 つい、たずねてしまう。


「私の場合は、フィーがエリザのことを好きだって最初から気付いていたから、自分の恋心について、しっかり理解していたわ。もちろん、親の期待を裏切ることには抵抗があったけど」


 姉は穏やかな声で続ける。


「叶わない恋でも、恋する気持ちは楽しかったし、幸せも感じたわ。でも、恋心を知ってしまったからこそ、私がフィーとエリザ、二人にとって邪魔な存在だとより一層自覚できて、それはとても苦しかった」


 姉は、過去に記憶を馳せているのか、遠くを見つめた。


(お姉様の自殺の原因はそれなの?)


 喉まで出かかった問いを、私は飲み込む。きっと姉ははぐらかし、教えてくれないと思った。それにもし姉の死の原因がそれだとしたら、あまりに切なすぎるというものだ。


(ますます殿下を恨みそうだし)


 いずれ自分の国を治めることになる人物に、これ以上無駄に敵対心を抱きたくはない。


「シンシアには私と同じ思いをしてほしくないの。イアンへの気持ちが本物なら、彼にちゃんと伝えさせてあげたい。もしそれが叶わないなら、少なくとも自分の本心に素直になれるよう、彼女を支えてあげてほしいの」


「それが、人助けってわけね」


 溜息をつきながら、私は姉の意図をようやく理解した。


「それから……」


 姉は言いにくそうに言葉を切った。けれど私に口を挟まれることを警戒してか、そのまま言葉を続ける。


「イアンに手紙を渡してほしいの」


「手紙?」


「そう。彼に、前を向いてほしいと伝えたい。私を思い続けてくれるのは嬉しい。でも、好きな人だからこそ、彼には自分の人生を歩んでほしいから」


 私はしばらく言葉が出なかった。


(あまりに自分勝手すぎるわよ、お姉様)


 イアン様が姉を見つめる、情熱的な視線を思い出す。あれは、まるで姉しか見えていない。そんな特別な視線だった。


 あいにく私は未だ、他人からあんな風に、恋焦がれるような視線を向けられたことはない。


(でも一途に自分に視線を向けてくれる人のことを思ったら、少なくとも身勝手に死のうだなんて思わないはずだわ)


 何より大事な人を裏切っておいて、自分を忘れろだなんて自分勝手極まりない。


 しかも許しを乞うような内容をしたためた手紙を、第三者である私に託そうとする所も、都合良い考えすぎて無性に腹が立った。


 私はたまらず、姉を睨みつける。

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