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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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姉の企み2

「今回は、明確に、あなた達にやって欲しいことがあるの」


 姉が伏目がちに言った。


「人助けをして欲しいのよ」


「は?」


 間抜けに口を半開きにして、次に絞り出したのは、「なんで、私が?」という疑問だ。


「夏休みなのに、暇そうな人たちだからよ」


 至極当然というような顔で姉は告げ、反論する間もなく話を勝手に進めた。


「手を貸してあげて欲しいのは、ソリス寮に所属するシンシア・グッドフェロー。実家はエーテルリンク商会を経営しているの。ちなみに、グッドフェロー家の当主ロブソン氏は、名誉貴族制度の授与者として一番相応しい人物だと言われているのよ」


 一気に情報が開示され、私の頭は処理が追いつかず混乱する。


「エーテルリンク商会?」


 なんとか拾い上げた言葉を口にする。


「魔導通信装置やエネルギー供給器具を製造、販売する大手商会だ」


 歩く私の辞書と化したアシェルが、即座に説明してくれた。


「君の使うスペルタッチもエーテルリンク社のものだと思うが」


 彼は今すぐ確認しろと言わんばかり。サイドテーブルに置いてある、私のスペルタッチに視線をチラリと向けた。


 面倒だなと思いつつ、念のため、スペルタッチを手に取って確認する。すると確かに、私のスペルタッチの背面に『EL』としっかり刻印が押されていた。


「ほんとだ。意識したことなかった」


「……相変わらずの無知ぶりだな」


 足と腕を組み、私の椅子でのけ反る彼は、「いいか?」と話を続ける。


「エーテルリンク商会はスペルタッチに、アーケイン・ステーションなど、先進技術の恩恵を王国民に安価で提供すべく、商品の開発に尽力する商会だ」


「はい」


 機嫌を損ねない程度、適当に相槌を打っておく。


「その素晴らしい功績を称え、多くの庶民から我が国に多大な功績をした人物を新たな貴族として認める『名誉貴族制度』を彼に適用すべきだという声があがっている。そのことからも、エーテルリンク商会がいかに庶民に愛され、我が国の発展に貢献しているかは、君にも理解できるはずだ」


「へえ、なるほど」


 いかにも感心したように頷いておく。


「あ、でも待って。お父様は爵位を新たに授与するのは、反対みたいな感じだったわ」


 姉の死の事実に打ちひしがれた父が、山賊のようにワインをがぶ飲みしながら口にしていた言葉を思い出す。


『巨額の資金提供を得る目的で、起業家たちに爵位を授与しようと企む連中にとって、追い風になってしまうからな』


 確かそう言っていたはずだ。


「お父様は、貴族という存在が、二種類あることを認めるわけにはいかないとお考えだからよ」


「どうして?」


 私の素朴な疑問に真っ先に答えてくれたのはアシェルだった。


「君にわかりやすく説明すると、世襲貴族は金持ちだが無能、一代限りと限定される名誉貴族は貧乏だけれど有能。そう国民から囁かれることは認めがたいと考えているからだ」


「でも、エーテルリンク商会はスペルタッチで大儲けしているんでしょ?だったら、ロブソン・グッドフェロー氏は、お金持ちで有能な人じゃない」


 アシェルの意見の矛盾点を指摘すると、姉がすかざす補足する。


「そうよ。だからお父様もお金持ちで有能な人ならば、通常の形で世襲貴族にすれば良いとお考えなのよ。そもそもこの国は、世襲の原則があるからこそ、革命が起きず、平和が保たれていると主張されているから、一代のみに適応される名誉貴族制度設立には反対なの」


「ふーん。となると、シンシアのお父様は、名誉貴族制度で叙爵するんじゃなくて、国王陛下が普通に爵位をあげればいいのよ。そうしたらみんなが喜ぶし、まるっと解決するじゃない」


 冴えた意見をズバリ述べたつもりなのに、アシェルは小さく首を振る。


「そう簡単な話ではない。現在我が国の議会は貴族院だけで構成されている……ってそれくらいは理解しているだろうな?」


「当たり前でしょ。我が国で爵位を持つ人は、国のあれこれを決める、大事な議会に参加する権利を持つ人でもある。流石にそのくらいの知識はあるから」


(いくらなんでも馬鹿にしすぎよ)


 アシェルを睨む。すると彼は悪びれず、何事もなかったかのように話を続ける。


「言い換えると、名誉貴族制度によって一代限りとは言え、男爵位を得た者たちも議会に参加する権利を持つということだ」


「まぁ、そうなるわね」


「庶民から成り上がった彼らは改革派を名乗り、それまで世襲貴族が守り続けてきた特権や制度に風穴を開けるような提案をする」


 アシェルの冷静な分析に、私は眉をひそめた。


「それって、悪いことなの?」


「一概に悪いとは言えないが、世襲貴族にとっては脅威だ。特に、伝統や血統を重んじる貴族院にとって、彼らの存在は秩序を乱す可能性がある」


 アシェルの言葉にはどこか皮肉めいた響きが含まれていた。


「でもさ、そんなこと言ったら、いつまで経っても国が良くならないんじゃない?」


 言い返すと、アシェルは短く息をついて私を見つめた。


「それは正論だ。だが、正論だけでは政治は動かない。力関係、利害、そして感情――それらが複雑に絡み合っているんだよ」


 姉が小さくうなずきながら口を挟む。


「それに、爵位を欲しがる人間が、名誉貴族制度適用に推薦してもらえるよう、貴族に近づき、献金の他に 融資という形で、 多額の寄付をすることも珍しくはないの」


「賄賂ってことね」


「ええそうよ。賄賂を渡してでも、貴族になりたいと考える人間。そしてそういった不純な動機を含むと知りながら、資金を受け取る貴族も少なくないのが現状よ」


 カラスの姉は、私を見つめたまま、悲しそうに笑う。


「大なり小なり、人は皆、欲がある。だからこそ、国や社会が発展するし、衰退もするの」


「なんか……難しい話ね」


 小さくため息をつく。


「名誉貴族制度を適用については、慎重に進めるべきだという意見も根強い。一方で、単に先祖代々貴族だからという理由で、必ずしも子孫が優秀だとは限らない。むしろ、実績を残した政治家、学者、企業家などに一時的に爵位を与え、活躍させるのも国の発展を望む上では、理にかなった考えだとする意見もある」


 大人ぶった雰囲気を漂わせたアシェルが話をまとめた。

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